第七十九話 山賊戦③
まだ呆然としている俺を見て、山賊の頭領は楽しそうに自分の膝を叩いた。
「いいよなあ、この人間ってやつぁ。俺も色んな動物を転々としてきたが、人間が一番面白い。手が使えるから色んな武器が使える。
だから色んな武器で色んな殺し方ができる」
殺しはいいぞぉ、と男は心の底から楽しそうに言った。やはりこいつはあの頃の俺だ。力に酔い、快楽に溺れ、道を見失っている。
来いよ兄弟。確かに奴はそう言った。
その意味が、今ようやく解った。
「どうした? 同族に会うのは初めてか? ってそうだろうなあ、知ってたらとっくに気づいてるよなあ。俺みたいに」
そうだ。何もおかしな所は無い。俺だって、別に土の中から湧いて出たわけではないのだ。生物である以上、他のと同じように仲間がいて、親がいて、兄弟がいる。
そうだ。あの、濁った水の中。
もうほとんど消えかけてはいるが、最初の記憶にうっすらと残っている。
水中をたゆたう他の兄弟たちの姿。
思い出した。
俺は、
俺たちは、
あそこから始まったのだ。
最強の生物を目指せ、という本能に突き動かされた、
己の命を賭けて頂点を奪い合う生き残り競争が。
「お? 思い出したか?」
「ああ、おかげさんでな……」
「それじゃあ、これからどうすればいいかも、わかるだろう?」
そんなもの、最初から決まっている。俺が冒険者になり、お前が山賊の頭領になるずっと以前から、
俺たちは、戦うようにできている。
「ハァッ!」
頭領が馬を走らせ、こっちに真っ直ぐ向かって来た。俺は背中にかけていた盾を取り出し、左腕で構える。
馬上から振り下ろされる蛮刀を、盾で受け流す。この高低差は不利だ。早くなんとかしなければ。
ならば。俺は頭領の攻撃を盾で受けている間に、空いた右腕で剣を抜き、奴が乗っている馬に斬りつけた。
「なにっ!?」
馬は突然の痛みに驚き、乗り手の事など無視して暴れ出す。俺を斬りつけるために片手で手綱を握っていた頭領は、いきなり跳ね上げられた拍子に馬から放り出された。
「ぐわっ……!」
地面に投げ出された頭領を、まだ暴れている馬の足が襲う。
「げ、」
咄嗟に頭を両腕で庇うが、痛みに我を忘れた馬の蹴りには無意味だった。馬の蹄に腕の骨を折られ、頭領の頭は呆気なく蹴り割られた。
主人を蹴り殺して気が晴れたのか、馬がようやく大人しくなった。何事も無かったかのように歩いてどこかに行くと、後には無残な姿に成り果てた頭領が残った。
目玉や脳ミソがはみ出ていながら、頭領の身体はまだ微かに動いていた。だが頭蓋骨が完全に粉砕されているのだ。それも長くは続くまい。
そして、宿主の命が消えた時、そこに寄生している奴の命もまた終わりを迎える。すぐに他の何かに寄生しない限り。俺たちは単独では長く生きられないのだ。
痙攣していた頭領の身体が、徐々に静かになっていく。やがて震えが完全に止まると、まったく動かなくなった。
死んだ。だがそれはあくまで頭領の身体の話だ。俺は念の為に中の奴の死亡を確認しようと、死体を覗き込んだ。
その時、崩れた男の顔面から、何かが出て来た。




