第七十八話 山賊戦②
ルーンの魔法で、山賊の数が三分の一ほど減った。
山賊たちは、魔法の威力と惨たらしく死んでいく仲間の姿に一度は怯んだが、それよりも背後で自分たちを見張る頭領のほうがよほど恐いのか、すぐに己を奮い立たせて向かってきた。
ルーンの魔法の欠点は、連発が利かないところだ。一度呪文を唱え終わると、どうしても次の呪文に取りかかるまで間が開いてしまう。
山賊もそこを知っているのか、数人が呪文を唱え終わったルーンに狙いを定めて襲いかかってきた。
しかし、冒険者にそんな分かり易い弱点をそのままにしておく馬鹿はいない。魔法使いの傍には、必ずそれを守る者がいるのだ。
コングだ。
「来た来たぁっ!」
コングは四方から襲いかかってくる山賊の、その全ての動きを見切ってルーンの護衛に徹した。どの攻撃が先に来るか、どの角度でどう防ぐか。それらを瞬時に判断し、その巨体からは想像もできない速度で動き、その巨体ならではの剛力で常人なら支えもできないであろう巨大な盾を構える。
護りに徹したコングは、まさに鉄壁だった。
どれだけ苛烈に攻め立てられようと、盾の後ろにいるルーンにはまるで外界の出来事。自分の立っている場所が完全な安全地帯だと安心した余裕をもって、再び呪文を紡ぎだす。
山賊たちがルーンの唱える呪文に気づき、退避しようとするが時既に遅し。天から降り注ぐ雷の槍によって、あっという間に炭の柱と成り果てた。
「スレイ! 雑魚は俺らに任せて、お前は頭をやれ!」
おっと、見とれている場合じゃない。俺はコングの声で我に返ると、言われるままに山賊の頭領に向かって駆け出した。
途中に何人かの山賊が立ち塞がるが、俺は走る速度を緩める事なく斬り捨てる。手下を殺られる姿を見てなお、敵の頭は動かずに俺を待っていた。
闇の中、頭領は馬上でほくそ笑んだ。
「お前が相手か。来いよ兄弟」
頭領はそう言うと、馬を操ってコングたちから離れた場所へと俺を誘う。俺は逃がすまいと脚に活を入れ、馬にも並ぶ勢いで走った。
コングたちの戦う音が聞こえなくなるほどの距離を走ると、頭領は「ここらでいいだろう」と馬の速度を落とした。俺も足を緩め、息を整える事に全力を注ぐ。
走って熱くなった身体を、夜の風が冷やしてくれる。と同時に、頭領の匂いを運んできたそれに、俺は奇妙な懐かしさを憶えた。
「ようやく気づいたか」
「? 何を言っている……?」
「ったく、冷たい奴だねえ。俺はすぐに気づいたってのによ」
「だから、さっきから何を言ってるんだ」
俺が訊くと、頭領は自分の考えに自信がなくなったような顔をする。
「……え? まさか、まだ気づいてないのか? 嘘だろ?」
ないわ~、と頭領は心底呆れたように片手で顔を覆う。明らかに隙だらけなのだが、今の俺は奴の言葉の真意が気になってそれどころではない。
「どうやらお前は相当鈍いらしいな。ま、あれだけいりゃ、中にはそういう奴もいるだろうさ。
いいさ、教えてやんよ」
そう言うと、頭領は右手の人差し指で自分の頭をとんとん、と小突き、
「俺もさ、お前と同じなんだよ。
こいつに寄生してる、ただの虫さ」
にたり、と笑って言った。




