第六十一話 ギブ&テイク
俺たちの領地のように、国境に近い場所にある領地が他にもある。
それを思い出した俺は、ルーンに頼んでこの国の地図を出してもらう。すると、国境沿いには同じような領地が五つあった。
「ああ、なるほど。その手があったか。凄いよスレイ」
早くも俺の意図を察したルーンが、感嘆の声を上げる。いや、たったこれだけで理解したお前のほうが凄いよ。
「え? どういう事?」
「お前らだけで話を進めるな。ちゃんと俺たちにもわかるように説明しろ」
取り残されたホーリーとコングが文句を言う。安心しろ。元よりそのつもりだ。
「援軍は、何も正規軍を頼るばかりじゃない。同じような境遇の連中に声をかけて、相互支援を呼びかけるのも一つの手だ。
つまり、ここ以外の国境沿いの領地に声をかけて、互いに助け合う同盟のようなものを作るのはどうだろう?」
立地条件の似てる領地なら、ここと同じように敵国との頻繁な小競り合いに悩まされている可能性は高い。だったら、お互いに手を組んで助け合うとかできないだろうか。
「うお、スレイがまともな事言ってる。気持ち悪ぃ……」
「おいこらいい加減にしろ」
「いや、でもスレイにしては非常にまともな案だ。まとも過ぎて、本当にスレイかどうか疑わしくなるほどに」
お前もいい加減にしろ、と俺が文句を言う前に、ルーンは「でも、」と続ける。
「立地などの条件が同じだったのは、もう過去の話だよ。今は他を無視してでもうちの領地を攻めに来るだろうから、他の領地にしたらうちと組む利益は少ないどころか足が出る。まあ組まないほうが正解だろうね」
「どういう事だよ」
ルーンは俺を見て、もう忘れたのかこの野郎、といった感じの冷たい目をする。
「うちは他と違って、敵の恨みをかなり買ったじゃないか。誰かさんのお陰で」
「う…………」
「よそにしてみたら、うちに敵が集中してくれて助かるんじゃないかなあ」
「それじゃあ俺らと組んでくれるところは無いって事か?」
コングの問いに、ルーンは「ま、そういう事になるね」と軽く答える。いや、そこで終わられると困るんだが。
「じゃあ、言わなければいいんじゃない?」
終わった、と思われた案だったが、意外なところから救いの手が出て来た。ホーリーだ。彼女はいつもと変わらないにこやかな笑顔のまま続ける。
「敵がうちを目の敵にしてるって事は言わずに、ただうちと協力してくれまんせかって言えばいいんじゃない? その後、結果的に敵がうちに集中すれば、まるでわたしたちが頑張って敵を引きつけてるみたいに見えるし、同盟相手の心象も良くなって全部丸く納まると思うな」
「それは、同盟を結ぼうって相手を騙してるみたいな感じがしないか?」
「騙してないよ。ただ言ってないだけ。全然違うから大丈夫だよスレイ」
大丈夫なの? それ本当に大丈夫なの? っていうか、ホーリーってこんなエグい腹芸使うような娘だっけ?
「となると、うちが敵に恨まれてるって情報が広まる前に同盟関係を結ばないといけないね。だったら今すぐにでも動かないと」
そう言うとルーンは視線を地図に戻す。
「うち以外の国境沿いの領地は……う~ん、どれも結構離れてるなあ。一つずつ回ってたら何ヶ月もかかっちゃうよ」
「けど四人で分担するにも一人足りねえし、そもそも全員が一度に領地を出たら、その間は誰がここを守るんだよ」
コングの話には俺も賛成だ。同盟が不確定な状況で、俺たちがここを空けるわけにはいかない。もし留守を狙われたらどうなるか。
「だったら、まずは書状で提案だけしてみるというのはどうだ? それなら五つ同時に送れるし、いい返事のところにだけ行けばいいんだから無駄が無い」
満場一致で俺の意見が採用された。
そして書状はルーンが書く事が決まり、その間残った俺たちは昨日の戦の後片付けをする領民たちを手伝う事になった。




