第五十六話 君にバラバラ
逃げ出した敵の大将を追って、俺は馬を走らせる。その際、地面に刺さっていた槍を一本拝借した。
速い。向こうは大将の馬だけあって名のある駿馬なのか、俺たちのような冒険者の乗る雑用馬の足では追いつくどころか差が開く一方だった。
このままじゃ逃げられる。何とかしなければと思った時、さっき槍を一本引っこ抜いたのを思い出した。
当たるかな……。ええい、ままよ。
俺は一か八か、まあ当たればいいやくらいの気持ちで、遥か前方を走る敵将に向けて槍を思い切りぶん投げた。
不安定な馬上から、しかも馬で走って逃げる相手を狙ったわりには、俺の投げた槍は綺麗に真っ直ぐ飛んでいった。
しかし直撃とはいかず、槍は敵の右肩をかすめただけだった。惜しい、と舌打ちをした次の瞬間、敵将は肩に槍がかすった事に驚いてバランスを崩し、勝手に落馬してしまった。
派手に地面を転がる敵将に回り込んで、逃げ道を塞ぐ。ようやく立ち上がり顔を上げた奴は、俺を見て絶望したような顔をする。
馬上の俺と落馬した敵将。このままでは一方的な嬲り殺しだ。それでは意味が無いので俺も馬を降りる。これで条件は同じはずだ。
「貴様、どういうつもりだ?」
「言っただろ。お前と一騎打ちしたいって」
俺が剣を抜いたのを見て、奴も慌てて自分の剣を抜いた。ようやく覚悟を決めてくれたようだ。
睨み合いは、ほんのわずかな時間だけだった。殺し合いの緊張感に耐え切れず、敵将が情けない声を上げながら斬りかかる。俺はそれを躱し、まずは剣を握る右腕をつけ根から斬り落とした。
地面に落ちる自分の腕を見て、敵将が女のような悲鳴を上げる。だがこれで終わりではない。
俺は続けざまに左腕を同じように落とし、今度はそれが地面に落ちる前に両足を膝の上から斬り落とした。
両手両足を一度に失った敵将は、見た目の凄絶さのせいか痛みのせいかわからないが、口から泡を噴いて白目を剥いて倒れた。まあ足が無いから当然か。ただ我ながら呆れるのは、スレイの剣技が見事なのか持ってる剣が業物なのかその両方なのか、両手両足を切断したというのに傷口の断面が綺麗過ぎてほとんど出血していないという事だ。まあ死なれても困るので死なないようにしたとは言え、さすがにこれはでたらめだ。
さて、いくら出血が少ないとはいっても、このまま放っておいたらさすがに死んでしまう。そろそろ来てくれるとありがたいのだが……。
俺が敵将の応急処置をしようかどうか迷っていると、
「やっと見つけたー」
ちょうどいいタイミングでホーリーがやって来た。
ホーリーは俺を探してあちこち駆けずり回ったのか、息を切らせて額に汗をかいていた。そして俺を見つけてほっとした顔をした後、俺の足元に転がっている両手両足のない敵将を見て、上気していた顔から一気に血の気が引いて青ざめた。忙しい奴だ。
「ちょっとスレイなにやってんのよーっ!?」
「見たらわかるだろ。敵の大将をこてんぱんにしてやったところだ」
「こてんぱんって……、子供が無茶した人形みたいになってるじゃない。いくら敵だからって、ここまで酷い殺し方をしなくても――」
「いや、殺してないぞ」
「え?」
「見た目はアレだがまだ息はある。だから、早くこいつの手足をくっつけてやってくれ」
「……え?」
ホーリーは俺の言った意味がわからず、大きな目をぱちくりさせていた。




