第四十五話 スレイ
眩しい光に瞼を刺され、眉をしかめる。
眼球の痛みにうっすらと目を開けると、窓から差し込んだ朝日が顔面を直撃していた。
朝か、と思うと同時に、俺は自分がまだ生きている事に驚き跳ね起きた。
尻の下には、木でできた寝台の硬い感触。薄い毛布のざらついた手触り。そして初めて嗅ぐ木造住宅に男の汗や体臭など諸々混ざった室内の匂い。
俺は、初めての場所にいた。
まだ完全に起きていない頭をフル稼働させて、最後の記憶を読み込む。確か、ドラゴンだった俺はスレイに殺されて――
殺されたはずだった。
なのにこうして生きているという事は、スレイは自分を殺し損ねた……ってのはまず無いな。今こうしていても、自分の身体がドラゴンのものではないのはわかる。視界に入る手や足などから察するに、多少違和感があるが、どうやら人間のようだ。
寝台から地面に降りる。ぺたり、と裸足の足の裏が床を鳴らす。そのままぎこちない足取りで室内を歩き、中を見回す。……狭い上に何にもない部屋だな。質素な木の机には脱いだままの鎧が置いてあり、剣はその脇の壁に無造作に立てかけてある。薄汚れた床には、脱ぎ散らかした服や下着が散乱している。どうやらここは、冒険者の部屋だろうか。
そこで俺は、出窓に水を張った桶と、小さな鏡が置いてあるのに気づいた。
しめた。とりあえず今自分がどんな容姿をしているのか確かめようと、俺は鏡を手に取る。
指紋だらけの曇った鏡に自分の顔を映す。ぼさぼさの髪、太い眉に切れ長の目と来て、
右頬の大きな傷。
思わず俺自身が宿主の鼻の穴から飛び出しそうになった。
見間違うはずがない。この顔、そしてこの傷。間違いない。俺はどうしてか、スレイに寄生していた。
鏡を窓に立てかけ、剣ダコだらけの両手で何度も顔を撫でくり回す。鏡の中の男も、左右対称に同じ動きをする。指で頬の傷をなぞると、その感触が伝わった。何度やっても、何をやっても、自分が今いる身体がスレイのものであると証明してしまう。
俺は、目の前が真っ暗になった。
まさか、よりにもよってこの世で最も憎い男の身体に寄生してしまうなんて。これでは俺は、どうやってこの男に復讐すればいいんだ。
いや、ちょっと待て。これはこれで、復讐を果たしたのと同じではなかろうか。何しろスレイの意識や自我はすでに無く、身体は完全に俺の支配下だ。つまり、実質的に俺の勝ちと言っても過言ではない――
のか? 本当にそうか?
本当にそれでいいのか?
自分がどうやったかも憶えていないのに、それで本当に勝った気になっていいのか? それで本当に溜飲が下がるのか?
そんな事であいつらが、
ゴブ夫が喜んでくれるのか?
俺が自分の心に踏ん切りをつけられずに悩んでいると、突然扉が叩かれた。




