第四十四話 ……え?
永い間待ち侘びた再戦の時が、ようやく訪れた。
俺はこの日のために、この時のためだけに、今まで生きてきた。
すべてはこいつらを殺し、あの日の仇を取る。そのためだけに、この最強のドラゴンの身体を手に入れたのだ。
――なのに今、どうして俺は無様に地面に這いつくばっているのだろう。
まるで悪夢を見ているようだった。
戦いが始まった瞬間、俺はまるで見えない巨大な手に押さえつけれたかのように、身動きが取れなくなった。そのせいで全てを焼き尽くすはずの炎は、奴らにはまるで届かなかった。
そうしている間に戦士は巨大な剣で俺の鱗を斬り裂き、ちまちまと傷をつけていく。傷自体は小さなものだが、虫に噛みつかれているようで非常に苛立つ。
だが一番俺の神経を逆撫でしたのは、やはり奴だ。
スレイは、ゴブリンだった頃の俺と戦った時とは比べ物にならないくらい強くなっていた。奴の剣は今まで戦った誰よりも俺の身体を深く傷つけ、その動きは目では追えないほど速い。
尾から駆け上がって剣を突き立て、そのまま背中へと一直線に斬り込んで来る。奴の剣が俺の身体に一本の道を作り、駆け抜けた後に血が迸った。
何故だ。何故奴は俺よりも強い。
俺がこの身体を手に入れるためにした苦労よりも、奴が現在の強さを手に入れるためにした努力のほうが大きかったとでも言うのか。
認めたくない、そんな事。
しかし現実は非情である。俺は何もできないまま、スレイが俺の身体を斬り裂きながら頭に向かって走って来るのを見る事しかできなかった。
斬り裂かれた傷から血が噴き出し、痛みと失血で意識が遠のく。薄れゆく意識の中で、俺は自分が負けたと思った。
また負けるのか。
ここまでして、それでも――
何だか酷く疲れた。
朦朧とした中で、俺は思う。
もういいか。
もう終わりにして、休もう。
そうすれば、向こうでゴブ夫に……。
そして遂に奴は辿り着く。
俺の眼前で、再び言った。
『成敗』
今度こそ、俺は死んだ。
死んだはずだった。
なのに、目が覚めた俺は、何故かスレイになっていた。




