第三十三話 返り咲き
強烈な投げ一発で、勝負は決まった。
一応手加減はしてるので死にはしないだろうが、それよりも精神的ダメージのほうが大きいだろう。何しろみんなの前であれだけ力の差を見せつけられたんだからな。
圧倒的実力差に、ゴブリンたちは興奮してボスに返り咲いた俺を讃え始める。彼らの忠誠に応えるべく俺が手を振っていると、歓声の中に世話ゴブの叫び声が混じった。
「危ナイ!」
危険を報せるその声に振り向けば、さっきまで倒れていた新ボス――今となってはただのゴブリンだが――が力なく立ち上がっていた。
だがその手には、さっきまで無かったはずの剣が握られている。
突然の凶器の出現に、どこからか悲鳴が上がった。武器を持った新ボスから少しでも離れようとするゴブリンたちによって、集団で形成されていた輪はあっという間に崩れて歪な形になった。
その混乱に乗じて、新ボスがこちらに迫ってくる。その背後には、同じく武装した奴の側近二匹がいた。なるほど、そういう事か。こいつら最初からまともに決闘するつもりなんて無かったんだな。
しかし逆に考えれば、これは膿を一気に出すチャンスだ。こうなったらまとめてぶっ飛ばしてやる。
改めて言うが、ゴブリンを超えた能力を持つ俺が、ただのゴブリンを制圧するなど造作も無い事だった。
止まって見えるような遅い攻撃を悠然と躱し、相手の勢いを利用した強烈な頭突きを鼻っ面に喰らわす。
瞬く間に三匹のゴブリンの鼻骨を折って地面に這いつくばらせると、それまで騒然としていたゴブリンたちが息をするのも忘れたかのように黙り込んだ。
静寂を切り裂いて叫ぶ。
「俺が新しいボスだあっ!!」
俺の雄叫びを追い越すほどの歓声が、洞窟内を埋め尽くした。




