第三十四話 ゴブ夫
俺が号令をかけると、すぐさま周囲を取り巻いていたゴブリンたちが整列した。当然非戦闘員である年寄りや女子供も一緒だ。これでようやく員数が調べられる。
数えると、この群れが総勢三十六匹だという事が判明した。うち戦闘員が二十八匹。まあこれだけわかれば上等か。
次に指揮系統の確立だ。俺はこいつらに、狼と同等かそれ以上の統率力を叩き込むつもりだ。
戦闘員二十八匹をその場に残し、残りは解散させる。残った血の気の多そうな雄ゴブリンたちを眺め、とりあえず俺の右腕になりそうな奴を探す。
列の前のほうにいる奴は力関係で上位にいる奴なので、いかにもやる気に溢れた面構えの奴らが揃っている。そうしてずらりと並んでいるゴブリンの列を目で追っていくと、一番端にひっそりと世話ゴブが立っているのに気づいた。
世話ゴブの前に立つ。
「お前」
「ギ?」
「今日からお前が副官な」
「ギギ……っ!?」
世話ゴブだけでなく全員が『どうして?』という顔をするが、理由なんて特に無い。強いて言えば、お前が最初に俺に会ったゴブリンだからだ。
「どうした、不服か?」
世話ゴブは戸惑いと焦りを顔中に浮かべ、おずおずと答える。
「オ、オレ、コノ中デ一番弱イ役立タズ。ソンナオレガ副官ナッタラ、ミンナ、怒ル」
なるほど。一番弱いから、コイツは一気に最下層に転落した俺に同情して看病や雑用をしていたのか。弱肉強食が常のゴブリンの中で、他人に情けをかけるとは奇特な奴だ。
だが、これからはそういう単純な力関係で統率されるのではない。この俺が決めた規律によって統率されるのだ。
「それがどうした。俺がそう決めたんだ、誰にも文句は言わさん」
「ギ……!?」
「貴様らもわかったな! 今日からこいつが俺の右腕だ。こいつの言葉は俺の言葉だと思って聞け! 文句があるなら今ここでかかって来い!」
殺気を含んだ俺の叫びに、異議を唱える者は誰もいなかった。もちろん、こいつもだ。
「ところでお前、名前は?」
「名前……ソンナモノ、無イ」
「似たような顔してる上に、名前が無いと不便だな。よし、今日からお前はゴブ夫だ」
「ゴブ夫……」
ゴブ夫は俺に名前をつけられて、嬉しいのか恥ずかしいのかわからない複雑な顔をした。しかしまあ、嫌がってはいないようなので良かった。
こうしてゴブリン統率の第一歩として、俺はゴブ夫という副官を手に入れた。




