第三十話 ボスゴブリン(過去形)
足の傷が治った俺は、さっそくボスとしてゴブリンたちの指導を始める事にした。
――と、その前に。まずは員数の把握だ。
ボスゴブリンの脳内に大雑把な数字は残っていたが、この機会に自分の群れの正確な数を把握しておいたほうがいいだろう。
部屋を出て号令をかける。全員集合の掛け声は、洞窟の中をこだまとなって駆け抜けた。
だがしばらく待ってみたものの、俺の声に応えた者は誰一人いなかった。
あれ? 聞こえなかったのかな? ちょっと声が小さかったのかもしれない。
次に俺が出したあらん限りの声は、洞窟の最深部に向かって行った。今度は洞窟のどこにいようと聞こえたはずだ。
しかし、やはり何も起こらなかった。
ボスの声を無視するとはふてえ奴らだ。こりゃけじめをつけるためにも一発かましてやらないと、と俺が鼻息を荒くしていると、ようやくこちらに向かってくるゴブリンがいた。
俺の世話をしていた奴だった。そいつは妙に慌てた様子で駆けて来ると、
「シ、シ、シズカニ。声、大キイ、ダメ」
あろう事か文句をつけてきた。
「遅いぞこの野郎。ボスの声が聞こえたら全速力で来い」
「ギ……」
俺が叱りつけると、そいつは不満そうな顔をして口ごもった。
「ん? 何だ、何か言いたげだな」
俺が睨みつけると、そいつは物凄く言い難そうに言った。
「オ、オ前、モウ、ボス違ウ」
この野郎、お前呼ばわりかよ。ってあれ?
「……え?」
「オ前、狼ニ噛マレ倒レタ。ソンナ無様ナ奴、モウボス違ウ」
「………………マジ?」
「マジ」
ゴブリンが頷く。
どうやら知らないうちに、俺はボスの座から転落していたようだ……。




