第二十九話 初めてのゴブリン語
「ダイブ良クナッタナ」
翌日。昨日と同じ時間に、昨日と同じゴブリンが葉っぱを取り替えに来た。
ゴブリンは昨日と同じ手順で足に貼った葉っぱを取り替えると、今日は昨日と違う物を持参してきた。
「メシダ、食エ」
そう言って渡してきたのは、木の盆に乗ったリンゴが三個。またリンゴか、と思うがとにかく受け取る。手に持った途端香るリンゴの甘酸っぱい匂いに、俺の腹が鳴る。そう言えば、この身体だけ狼に襲われてリンゴを食ってなかったっけ。
「食ッタラ、寝ロ。早ク、治セ」
無感情な声でそう言い残すと、ゴブリンは静かに退室した。ぶっきらぼうだが、どうやら心配はしてくれているようだ。さすがに群れのボスをぞんざいには扱わないだろう。
俺は渡されたリンゴの一つに手を付ける。そう。手で持って口に運び、齧るのだ。この、手を使うという行為はこれまでになかった動作なので、早く慣れないといけない。
次にゴブリンの記憶なのだが……、これはそう大したものは無かった。ほとんどが取るに足らないもので、知らないと致命的というほどのものはない。
それに、さっきから普通に会話しているが、使っているのはゴブリン語だ。
この言葉というのも初めてのものだが、ゴブリン自体の頭が悪いせいか、言語としてそう複雑なものではない。一晩ボスゴブリンの記憶を抽出していたら、自然と使いこなせるようになっていた。というか、最初から普通に会話できる程度の難易度だったな。
ともあれ、俺がボスゴブリンとして表に出るのは、足のケガが治ってからだろう。だったらあと二三日はこうしてゆっくり考える時間がある。
俺は残ったリンゴを齧りながら、これからの事を考えた。
それにしても、リンゴってこんなに美味かったかな……?
二日もすると足の傷はほぼ塞がり、多少痛むが立ったり歩いたりするのに支障はなくなった。
「よし」
俺は改めて確認するように、両足で地面を踏みしめる。
二足歩行。これも新しい能力といえるだろう。熊だった頃も状況によっては二本の後ろ足だけで立ったり歩いたりした事もあったが、ゴブリンは基本姿勢からこれだ。たまにやるのといつもやるのとは随分違う。
とは言え、立って歩くのが当たり前の種族だ。当然二足歩行もすぐに違和感なくこなせるまで習得できた。
さて、これで準備は整った。
ゴブリン生活の始まりだ。




