第二十話 ボツ!
噛み付いたままだと、牙が邪魔で獲物の体内に潜り込めない。
先の実験でわかった事だが、これは思った以上に大きな問題だ。
何しろ俺が脳から離れると、宿主の身体は機能停止して動かなくなる。つまり傷口に到着して牙が邪魔だとわかっても、もうどうしようもないのだ。そして牙を抜こうと宿主の脳の戻ったとしても、口を開けて牙を抜いたら今度は獲物に逃げられてしまう。
こうして、身体は獲物に噛み付いたまま俺が移動して寄生する、という案はあえなく棄却となった。いいアイデアだと思ったんだけどなあ……。
牙が使えないとなると、この狼の身体に残された武器は爪しかない。
爪か……。熊ならまだしも、狼の爪は牙に比べるとかなり攻撃力が落ちる。相手によっては皮の厚みに負けるかもしれない。
それに、爪では仮に獲物に傷をつけられたとしても、俺自身が傷口に移動するのが難しい。重傷を負わすまいと浅くすると逃げられるし、動けなくなるほどの傷を負わせたら下手をすると死んでしまうかもしれない。そんな微妙な加減など、できるわけがない。
色々考えた結果、爪による攻撃はやめて、どうにかして牙でつけた傷口から体内に侵入する方法を考える事にした。
とりあえず、この鹿は食ってしまうか。




