第十八話 一時離脱試験
攻めの寄生方法を会得するために、俺はまず次に寄生する身体を探した。
何故なら、もし試した方法が失敗したら、俺は戻る身体を失って死んでしまうかもしれないからだ。
だからまず、戻る肉体を複数確保して保険をかけておかなければならない。一発勝負の賭けをするほど、俺は馬鹿ではないのだ。
しかしこれは良い機会でもある。今の俺は、大型哺乳類に寄生できるほど成長している。プランクトンサイズだった頃とは生命維持能力が格段に上がっているはずだ。
それに他の能力も上がっているだろうし、新しい能力が身についているかもしれないので試しておいて損は無い。余裕のある時に自分の能力や限界を知っておくのは、もしもの時に選択肢が増えるし、選択肢が増えればそれだけ生き残る確率が上がるので必要な事なのだ。
とりあえず俺は、予備の身体として中型サイズのネズミを捕獲した。万が一この身体を使う事を考え、気絶させたまま生かしてある。
さて……。
何から始めるか。少し考え、まずは脳から離れると身体がどうなるか試してみる事にした。
狼の脳に張り巡らせた触覚を慎重に外していくと、俺の身体は脳から離れた。
途端に俺の呪縛から解放された脳が仕事を放棄し、必要最低限の生命維持機能を残して身体の活動を停止する。全身の筋肉が弛緩し、狼の身体はぐにゃりと地面に倒れ伏した。
やはりこうなったか。接続を切ったため視覚情報や感覚情報が得られなくなったが、頭蓋内にまで伝わる振動で身体がどうなったかはだいたいわかる。
次に、一度接続を切り離した脳に再接続できるか試した。
外したのと同じくらい慎重に、触手を脳に再接続していく。触手を一つ接続するたびに、狼の視覚や感覚が俺の中に流れ込んでくる。
全ての触手を再接続し終わると、無事狼の身体は再び俺の支配下に戻った。どうやら短時間なら俺が脳から離れても問題はなさそうだ。いずれ限界時間を試さなければならないが、今はここまでで良しとするか。やる事は他にもまだ山ほどあるしな。
そうしていると、いつの間にかネズミがいなくなっている事に気づいた。どうやら俺が狼の脳から離れている間に目が覚めて逃げ出したようだ。まあいい、今日はここまでとしよう。




