一話 旅の始まり
「…ふぅ」
額の汗を手で拭う。
ようやく旅の支度が終わった。
両親には少し前から伝えていたのだがあまり関心は持ってくれなかった。
見送りに来た両親からは呆れたような雰囲気を感じた。
恐らくどうせまたすぐに失敗して逃げ帰ってくるのだろうと思われているに違いない。
この目線にも慣れてた。
両親との会話は一瞬だった。
「行ってきます」
「……」
沈黙が返ってきたそこで終わり。
そのまま僕は家を後にした。
一歩大地を踏む。
靴越しに土のぐにゅっとした感触がする。
昨日は雨が降っていたので土はまだぐじゅぐじゅ、まったく気持ちいい感触ではなかった。
だが見上げると雲一つない空。
日の光に体を照らされ温かく体の芯から力が沸いてくるように感じる。
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数時間歩いた。
町を抜け山を登り始めた。
もうすでに帰りたくなっている。
最初から旅はしんどいものであるとわかっていたつもりだったがまさか数時間で帰りたくなるとは思っていなかった。
それに心だけではなく体も疲れた足の裏がじんじんする。
普段家から出ることのない僕が突然旅を始めたって体力が長時間持つわけがなかった。
休憩をしようと川辺にあった大きな岩に座り水筒の水を少し飲んだ。
川の中に魚が泳いでいるのを見つけた。
僕はカバンの中から小さめのナイフを取り出した。
そして魚に向かってナイフを突き出した。
しかし魚にひょいと躱されそのままどこかに行ってしまった。
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その後も捕まえようと奮闘したが結局一匹も捕まえられなかった。
その日は持ってきていた缶詰で腹を満たした。
腹が満たされ眠気が襲ってきた。
少し昼寝をしようと木陰に横になる。
思っていたよりも日差しが気持ちよくぐっすりと眠れた。
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昼寝をしていたらもうすでに辺りは暗くなっていた。
急いでテントを立てようとしていると、後方の茂みからガサガサと音がした。
何事かとすぐさま振り返ると、茂みから白目を剥いた男の人が生えていた。
40代ぐらいで立派な髭を生やし甲冑の兜を被っておりなにかを話していた。
「…っ…めし…」
その言葉を最後に倒れた。
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そのまま放置しておいてもよかったのだがそのせいで死んだら夢に出てきそうなのでとりあえずテントの中に放置しておいた。
そして今は焚き火をするために枯れ葉と木の枝を集め1ヵ所に集め終わったところだ。
そしてそれに手を向けて呪文を唱える。
「ファイヤーボール」
手のひらからボウッと火が飛び出て木の枝に着弾する。
パチパチといい音が聞こえる。
そしてそれ以外の音も聞こえた。
テントの方からガサガサと音が聞こえた。
恐らくあの男の人が起きたのだろう。
テントの中から男が出てきて言葉を発した。
「…め、めしを…くれ」
鞄の中から缶詰を取り出し男の目の前に置く。
すると男はガツガツと食べ始めた。
これを見ていると昔よく遊んだ友達の犬を思い出す。
ご飯の時間になると一番に食い付きペロッとたいらげる。
食い意地を張った犬だったなと昔を思い出していると、男は食べ終わりぎんっとした黒目でこちらを向いて
「…っありがとう助かったよ。俺はガザン、二十年ほど前から旅をしている、その格好…お前ももしかして旅人か?」
「…あっはい、僕の名前はキミ…です、一応旅をしてます」
「そうかキミか良い名前だ、それでなんでおまえは旅をしてるんだ?」
「えっえと僕は…理由はないです…少ししてみたくてしてます」
「そうか、俺はそれも立派な理由だと思うぞ、しかし女一人で旅をするとは中々度胸があるな」
「あ、ありがとうございます」
今褒められたのだろうか、嬉しいな。
「えっえと…なんでガザンさんは旅を始めたんですか?」
「俺か?俺は成り行きで始めたんだ、村にいるのが嫌になってなそれで村を飛び出したらいつの間にかこうなってた」
「そ、そうなんですね、えっとじゃあガザンさんって旅慣れしてるかたですよね?それなら魚だったり動物を捕まえるのも得意ですか?」
「ああそうだな、俺は狩りは得意だぞ、元々そういう村で過ごしていたのもあったからな、教えてほしいのか?」
「はい、教えてほしいです」
「よしいいぞ、なら明日の朝教えてやろう、今日はもう夜も遅い、明日のために体力を回復させるぞ」
「はい…あと聞きたいんですがなんで狩りが得意なくせに飯がなくて死にかけてたんですか?」
図星を突かれたのかガザンがピキンと固まった気がした。
なにか言いずらそうに口を開き
「…先に進むことに夢中になってしまってな、腹が空いていたことに気付いた時にはもう狩りをする体力が無くてな!」
「……」
この男は本当にどうやって20年も旅を続けられたのだろうか嘘なのではないかと少し疑ってしまった。
火を消しそのまま二人テントに入って目をつぶった。
彼の体はでかく寝返りをうつたびに筋肉にぶつかり筋肉の圧で吹っ飛ばされそうになる。
今までで一番寝にくい夜だったかもしれない。




