第二十二話 大好きな家族
ユビキタス館長からの今後の話を聞いた後は、気になっていたセオドアお兄様のお見舞いに向かった。
シルヴァリウスは留守番だ。ゆっくりお昼寝がしたいらしい。
「セオドアお兄様、体の調子はいかがですか?」
「あぁ、アイリーン見舞いに来てくれたのかい?」
嬉しそうに微笑んで迎えてくれるお兄様のほっぺは薔薇色だ。
「もちろんです! お兄様が元気になったか、ちゃんと自分の目で確かめないと落ち着きません」
セオドアお兄様は自室で読書をしていたみたい。服も普段着に着替えていたし、顔色も良い。胸元にモヤモヤは無いし、魂も清らかだ。
いつものようにお兄様の周りだけ輝いている。以前のような表情の翳りが無い分、爽やかだ。声は張りがあり、リラックスしているような優しい声だ。
だいぶ調子が良くなったことが分かって、胸のつかえが取れた。
「まだお礼を言ってなかったね、本当にありがとうアイリーン。おかげですっかり元気になったよ」
シルクのような金色の髪を揺らして、空色の瞳が眩しいものを見るように細められた。
天使が舞い降りたみたい。さすがお兄様だわ。
「それはよかったです。でも体力までは戻りませんから、しっかり食べて運動してくださいね」
「わかってる。相変わらず心配性だなアイリーンは」
そう言ってお兄様はあたしの頭を撫でてくれた。優しい手だ。嬉しかったので、お兄様にむぎゅっと抱きついておく。
あったかくて、太陽のような良い匂い。
甘えん坊だなぁアイリーンは。と仕方がなさそうな、でもちょっと嬉しそうに言いながら、ずっと頭を撫でてくれるお兄様が優しくて好きだにゃ。
それからお兄様は、珍しそうにあたしの翼を観察していた。
「話には聞いていたけど、すごく綺麗な翼を授かったね」
「綺麗なだけじゃないんですよ。手足みたいに自在に動かせるし、どこまでも飛べそうな気がするんです!」
「いいなぁ。うらやましいよ、僕もいつか空を飛びたい」
「あたししっかり訓練して、いつかお兄様を空に連れていってあげますね!」
「うん、楽しみにしてる」
あたしの瞳を見て、お兄様は優しく微笑んで、それから難しい顔をした。
「……これから旅をするんだってね。国を守るため、人型の魔物を討伐するとも聞いた」
お兄様は人型の魔物に襲われているから、あたしが魔物と戦うことにとても不安を感じているのかもしれない。
「護衛騎士が守ってくれます。大丈夫だから、心配しないでお兄様」
「心配するさ! 人型の魔物の怖さは僕だって知ってる。危険な旅をさせることになって、本当にごめん。僕が至らないせいだ」
お兄様があたしに対して大きな声を出すのは珍しい。ついびっくりしてしまった。
仕方のないことなのに、あまりにも自分を責めるお兄様を見て歯がゆくて。
「そんなことない! お兄様はずっと頑張ってきたわ。お兄様は立派よ! あたしは今までのんびりしてたから、次はあたしが頑張る番ってだけよ」
「ありがとう。僕にできることがあったら何でも力になるから、必ず頼ってくれ。必ずだよ」
お兄様は力強くあたしを抱きしめた。お兄様がこんな風にするのは珍しい。それだけ心配してくれているんだと思う。
お兄様を安心させられるように抱きしめ返す。
「ちゃんと連絡します。困ったことがあったら相談します」
「何もなくても連絡をくれ。ささいなことでいいから」
「ふふっ、わかりました」
心配してもらえるのは嬉しいにゃ。
お兄様の気が済むまで、むぎゅっとしたら名残惜しいが自室に帰る。
お兄様を安心させる為にも、怪我しないようにしなくちゃ。
ふんっ!大丈夫、油断しないっ!
あたしは人知れず気合いを入れた。
自室に帰る途中、ふと思った。
そういえば以前は誰かの視線を感じていたけど、最近感じないにゃ〜。なんだったのかにゃ?……ま、いっか!
その日の晩御飯は久しぶりに、四人家族にシルヴァリウスもそろっての食事だった。
やっぱりお話しながら食べるとずっとおいしい! 幸せだにゃ〜!
家族はみんなそろわなくちゃダメだにゃ! 一人でも欠けていたら寂しいから。
食事の後はお風呂に入って、心が幸せに満たされたまま眠った。
翌日。
両親に呼ばれたので、執務室に向かう。
向かう途中で出会った人たちは、挨拶を交わしながらも視線はいつもあたしの翼だった。
驚いたり、見惚れていたり、難しい顔をして考え込んでいたりした。
「失礼致します。第一王女アイリーン、参上しました」
「よく来たね、アイリーン。こちらへおいで」
お父様に呼ばれ、ソファに行く。両隣にお父様とお母様が座り、サンドイッチみたいになった。これが結構嬉しい。
「昨日はよく眠れたかい? たくさん力を使ってくれたから疲れただろう」
「疲れたけどよく眠れました! アイリーンは元気いっぱいです!」
「よかったわ。ですが体調が少しでもいつもと違ったらすぐに教えてちょうだい」
お父様もお母様も、心配してくれているみたい。あたしの頭を撫でながら、あたしの顔色を見てくれる。
それが嬉しくて思わずニコニコしてしまう。おかげで元気なのが伝わったみたい。
「うん、体調に問題はなさそうだから話を進めよう。まずは昨日のお礼を。アイリーン、騎士たちの所に駆けつけてくれてありがとう。皆喜んでいる」
「えぇ、皆とても元気になったと専属護衛から聞いています。ありがとう」
「はい! 役に立てて良かったです」
「騎士団長など若返ったようだと、鬱陶しいほど元気になってな。アイリーンにとても感謝していた」
鬱陶しいと言いながら、なんだか嬉しそうな表情をしているお父様。騎士団長と仲良いからなぁ。
「それから僕の愛しい娘に矢を放った“大馬鹿者”を捕らえていたんだが、目覚めた後まるで憑き物が落ちたかのように大人しく尋問に答えていてな。おそらくアイリーンの浄化の効果だと思うんだが。どうもこいつが、ドラゴンの卵を騎士団の訓練場に置いたらしい」
視線はこっちを向いてないのに、お父様の冷ややかな顔が怖い。お母様があたしを抱き寄せてくれる。あぁお母様の匂いだ。安心する。
矢を射られたときよりお父様の怒気の方が恐ろしいにゃー。
『やっぱりそうかー! あのときもしかしたらって思ったんだ。でも卵だった僕を巣から攫ったのはあいつじゃないぞ』
突然のシルの声にびっくりしたけど、すぐに元の表情に戻ったお父様は少し考える。
「シルヴァリウスは卵の中にいた頃だぞ、わかるのか?」
『わかる! 僕を巣から攫ったのはもっと禍々しいやつだった!』
「そうか……大馬鹿者も卵を渡されて訓練場に置くように指示されたと言っていたんだ。だからまさかドラゴンの卵だとは思わなかったとも。……まぁ、確かに騎士にはドラゴンの卵を盗みに行く暇なんてないからな。筋は通っている」
卵の中からそんなことがわかるなんて。巣から連れ去られるとき、どんなに辛かっただろう。自分ではどうすることもできない状況で、怖かっただろうに……。
飛びながらお父様に主張していたシルを呼び寄せ、膝の上で優しく撫でる。
キュルルと気持ちよさそうに目を細めているところが可愛い。
「その“大馬鹿者”はどのような人物から卵を渡されたと言っているのですか?」
お母様も「大馬鹿者」に力が入っていたな。お母様は強い。物理的に。白虎族だし、戦闘が得意だ。だからお母様が手を下そうとしたら、その大馬鹿者はきっとあっという間に……物理的に……。うん。そういうことだ。
「それが思い出せないと言うんだ。男だとは言っていたが、それ以外が思い出せない。いや特徴がなさすぎて分からない、という感じだな」
「それは厄介ですわね」
「ただ異様な感じがしたとも言っていたな」
「……それだけでは絞り込めませんわね」
「あぁ。とにかく、まだ敵は近くにいる可能性が高い。油断しないように。それでアイリーンには王宮全体を浄化して欲しいんだ。連日で申し訳ないと思っているが、体調に問題がないのなら、どうか頼めないだろうか。もちろん、無理にとは言わない」
「もちろん大丈夫ですよ! それがあたしの仕事ですから!」
「ありがとう。アイリーンには今後負担をかけてしまうことが増えるだろう。体や心が疲れたら遠慮なく言ってくれ」
「そうですよ、アイリーン。自分にしかできないことでも、自分だけで抱え込まないように。家族や信頼できる仲間を頼ることも仕事のうちですからね」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
『姉さん、僕のことも頼るんだぞ!』
膝の上のシルにもありがとうと伝える。
幸せだにゃ〜。胸がぽかぽか、あったかくなった気がした。




