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番外編・彼と彼等の長い午睡(7)

 気が付いた時、私は暗闇の中にいた。

 どこまでも広がる果てのない暗闇。足下に踏み締める大地はどこにもなくて、なのに墜下する様子はない。前後左右、上も下もわからない、不穏な浮遊感。真夜中の海辺に佇んでいるような感覚だった。今、自分がどこに立っているのかさえわからない。水平線は闇に紛れ、空と海の境目が溶けて世界はひとつづきになる。時折、足元で何かが蠢く気配がする。浜辺の砂が動いたのか、それとも風が肌をくすぐっただけなのか。視覚が役に立たない分、他の感覚が過敏になる。無音に近い空間の中で、自分の心臓が脈打つ音だけが、耳の中でいやに大きく響く。両腕を交差させて自分の体をきつく抱いた。せめてこの身体に輪郭があることを、確かめていたくて。


「灯里」

 

 不意に、耳慣れた声が私の名を呼んだ。声と同時にぐいっと肩を引き寄せられる。よろめいた私を、硬質な逞しい腕がしっかりと受け止めた。

「よかった、ちゃんといた。気付いたら真っ暗だったからさ。あいつに騙されて俺だけ変なところに送り込まれたのかと思った。焦ったよ。よかった、会えて」

「うん…」

 そのままぎゅっと抱き締められて、ようやく私は強張っていた体を緩めることが出来た。壱己の胸はちゃんといつも通り温かくて、その熱に触れて初めて、自分がどれほど冷え切っていたのかを知る。

「……妙な場所だな。どこなんだろうな、ここ」

 壱己と会えた安心感もあってか、少しずつ暗闇に目が慣れてきた。かろうじて輪郭程度なら捉えられるようになって、壱己がぐるりと辺りを見回すのがわかった。

 

「あの子の夢の中だよ」


 壱己の問いに答えたのは、天河さんだった。

 いつ現れたのか、少し離れた高い場所から、超然と私たちを見下ろしている。

「見てごらん」

 天河さんがつい、と顎を上げたと同時に、光の欠片がひとひら、鋭い光を発して煌めいた。それを皮切りに、ひとつ、またひとつ。光る欠片は、降り始めた雪のように次々と舞い落ちてきた。やがて群れをなして連なり、光の帯を築く。ひとつの銀河系──天の川が生まれる瞬間を、見ているようだった。

「この光の欠片が記憶の断片だ。綺麗だろう?」

 壱己に向かって天河さんはそう説明した。

 光る星々にも似た記憶の断片は、時に瞼を突き刺すほど強く瞬き、ある時は消え入りそうに弱々しく、明滅を繰り返し、時折流星のように弧を描いて流れる。その光景に圧倒されているのか、壱己は息を詰めて、何も答えなかった。


「まだ生まれて間もない子だからね。編集にはそれほど時間がかからなかった。見てごらん。あの子が何を見て、どんな道を選んで、ここへ辿り着いたのか──…」


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