それぞれの気持ち
三人はこれからどうなっていくのか?
最終話です
「帰るわよ」
「あぁ」
そしていつものように藍は優大に声をかけ、家まで帰るのだが、電車を下車した後の道すがら彼は足を止め、一向に彼女の横に付いていこうとしない。
「どうしたの?」
「藍、話がある」
「何?」
「お前が頼んでいた僕の身辺ボディーガードの件、ここで終わりにさせてくれ」
「え……!?」
至って真面目な表情で言う優大に、藍は終始戸惑う。
「え、ど…、どうしてなの?」
「僕達にとってこの関係性が正しくないからだ」
「ど…どういうこと……!? それじゃあ意味が分からないわ!」
「お前はいつも僕の前を歩いていた。近くにいても、僕の隣じゃない」
「それは……子供の頃の話でしょ!? あの頃はそうでも、この齢になれば変わるものもあるわ!」
「確かにそれは言える。けど僕にとって藍は今でも僕達の前を歩く輝かしい存在なんだ」
「そんな……。じゃ、じゃあ貴方は私の隣を歩いてくれないの……?」
「いつも君の近くにはちゃんといるさ」
「でも……でも、貴方が隣にいてくれないと……、私これからどうすれば……」
「なに言ってんだよ。藍がピンチになれば、いつでも助けにいくさっ」
「……」
藍は涙を浮かべながら、ぼやける優大の瞳を見る。
「それなら貴方の隣に居られるのは一体誰なの……?」
「それは……今から告白しにいく子だ」
「……。そう……。気づいてしまったのね……」
「時間がかかってゴメン……!」
「私もね、一度で良いから言いたいことがあるの」
「なに?」
「……好きよ優大。ずっと好きだったわ……」
「ありがとう。……けどゴメンね」
優大のその言葉に地面に座ってわーんと泣きじゃくる藍。彼は彼女の泣くのを収まるまで待ち、家にまで送って、彼は自分の最愛の人を捜しに行く。
ブランコがキーコーキーコーと哀しそうに鳴いている。
「……」
「お、いたいた。こんなところにいると風邪を引くぞ!」
「優君…! ……何しに来たの……?」
「そんな邪険に言うなよっ。ま、隣に座らせてくれ」
そう言いながら優大は萌の隣にあるもう一つのブランコに乗る。
「……」
「最近この公園によく来るのか?」
「……別に」
「そうか……。まあ、この頃暗くなるのが早くなるから、女子一人で来るのは危ないぞ?」
「……」
「ま、この公園には三人で遊んだ思い出が沢山あるから、親しみがあって落ち着けるよな~」
「……」
まだ冷たい萌だが、少しだけ警戒心を緩めた。キーキーコーとまだ噛み合っていないブランコの二つの音が鳴る。
「萌」
「……何?」
「まず僕はお前に謝らないといけない。一人にさせ寂しい思いをさせてしまってゴメン」
「……」
「それは僕が自分の気持ちに素直になれなかったからなんだ」
「? どういうこと……?」
そして優大はブランコから降り、萌の近くに跪く。
「ずっと大切な幼馴染と思っていたその子に実はもう既に恋心を抱いていたんだ。けどその気持ちのずれに今の今まで気づかなくって。理解するまで時間がかかったんだ」
「え? それって……」
「そうだ。僕は萌のことが好きだ。出会った時からずっともうお前にぞっこんなんだ。いつも僕の隣にいてくれて、いつも傍にいてくれる。萌がいてくれると落ち着けるんだ。それに演劇の良さを何度もお前に魅せられたことか」
「……」
「どう……だ?」
「姉さんは……。姉さんとはどうなったの……?」
「藍は……フッた」
「そ……」
そして藍はブランコを一回勢いよく加速させて数回揺らしてから、タッと飛び降りる。
「……萌?」
「そうね……。まだやっぱり許せないわ……」
「……」
「だから100回私に好きって言ってくれたら、許してあげても良いわっ」
「!」
「さ、貴方はどうする?」
「好き好き好き好き……」
「だーめ。ちゃんと心を込めて」
「好き。好き。好き。好き……」
「もっとバリエーションを増やしてっ」
「好きっ。好きだっ。好きだよ萌!」
「まだまだっ!」
◇◇◇
数年後、東京のある劇場にて。
「もう鈍いんだから! 道具の準備出来た!?」
「あぁ、出来た出来た!」
「この私が貴方の舞台劇に出てあげるんだから。高くつくわよ、貧乏監督さん?」
「うるせっ。言うなそれを!」
「ふふっ」
「じゃあ、行ってくるから」
「おうっ」
「姉さん、ガンバって~」
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『あなたを追って、ここまで来たの』
主演女優:上城藍、夢野守、喜多川純也……、
原作・脚本:居村もえ
監督:居村優大
終
最後まで読んで頂きありがとうございました。
これでこの小説は終幕です!