優大の想い
それぞれどうなってしまうのか!?
16話です
11月に入り少しずつ気温が下がり、その寒さが少し心にも染みる頃、いつものように優大は自分の席で本を読みながら、藍を見守っている。萌にもちらりちらりと見るが、多少減ったとはいえ相変わらず馴染みのない人達に囲まれている。
「居村」
「……和也!」
後方からすっと忍び寄るように和也の声がかかる。少し真面目なテンションだ。
「ここずっと藍様のおそばにいるが、彼女の下僕にでもなったのか?」
「まさか、そんなわけないだろ? ただ働きの身辺ガードマンだよ」
「ほえー。じゃ、じゃあ女神のあんなはしたないところとか、こんないやらしいところとか見て確認しているわけ??」
「なんでだよ!? そんなところまではしねーよ!」
「そうなんだ。つまんね」
「……」
「……それで、そのまま藍ちゃんの方はほっとくのか?」
「……! どうして……」
「お前達三人の動き見てたら分かるさ。それでもうそのままにしていくのか?」
「そんなつもりはないけど……。けど一体どうしていけば良いのか……」
まだまだ見抜けてないなと思い、はぁ~とため息をはく和也。
「自分の気持ちに素直になれよ~。そうすれば今よりちっとはましになるんじゃないのか」
「え? それってどういう……」
「そろそろチャイム鳴るから、じゃそゆことで」
「あ、おい……」
そして授業を終えても、自分で考えろの一点張りで和也は優大にそれ以上何も言わなかった。とはいえ優大も薄々は感じている。このままじゃあ三人で気楽にいることが叶わなくなるんじゃないかと。それともう一つ問題が起きる。
「あー、もう分かんないーー!」
藍が新たな芝居の壁に当たった。自分の目指したいところになかなか出来ないので、台本片手にストレスを感じている。
「もー、このオーディションでは主要キャストになれると思ったのにー! なんでまた端役なのよー!?」
「……」
「むー、エリカちゃんにはまだ勝てないのね。一体何がまだ足りないのかしら……?」
エリカちゃんとはよくドラマの役柄をオーディションで藍と取り合う相手である。
「あと何、このかなり陰鬱なキャラは!? 自分にない内面だから分からなさすぎるわよ!」
「まあまあ、落ち着けよ。これはこれで新たに役を広げる勉強だぞ?」
「うっさいわねー! あんたは芝居してないんだから、外野は黙ってて!」
「……」
藍はさすがに言い過ぎてしまったと思ったのか、はっとして優大に詫びる。
「ごめんなさい。言い過ぎたわ」
(…………)
それから日が過ぎて、本日は藍の仕事がなく優大は自由気ままに一人で自宅へ帰る。
(しかし藍はやたら機嫌が悪い。一体どうしたものか……)
そう思案に暮れていると、彼の前をぽつぽつと歩く一人の少女の姿を認めた。
「萌!」
「優君……!」
二人はいつも家近くの公園に行き、ブランコに乗る。キーキーコー……。
「……」
「……」
そしてお互いに無言でいるものだから、ブランコを漕ぐ不協和音だけが響いている。
「今日……姉さんは……?」
「なんか友達ん家に遊びに行くって」
「……そ」
話が途切れ、またブランコの音だけが公園内で鳴る。優大は何を話すか色々と考えた結果、ひとまずは藍の話をした。
「あ、あのさ……、藍のことなんだけど……」
「……」
「そ。そんなことがね……」
「どうしたら良いのかと思ってさ……」
「……。それなら尚更優君が姉さんの近くにいないと……」
「え……じゃあ、萌はどうしていくんだ……?」
「それは、私の勝手でしょ……!? 小説でも書いていくわ!」
珍しくムキになって言う萌を見て、優大は驚きと困惑を交えた気持ちをにじませる。やってしまったと想った萌ははっとして、さっと自分の荷物を持つ。
「ごめん、……帰る!」
「あ……萌……」
そしてそそくさと帰ってしまった。
「萌……」
一人公園に取り残された優大は一人自問しながらブランコをぶらぶら揺らす。そしてかつて三人でこの公園でよく遊んだ光景を思い浮かべた。
「あはは、二人ともこっちこっち~」
「待ってよ藍ちゃーん」
「二人とも待ってー……」
「藍ちゃん大丈夫?」
「うん、ありがと」
「もう二人とも……遅い!」
「ごめんて!」
「あ、蝉……!」
「本当だ! でけー」
「私が取るわ!」
「え! 高いよ藍ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。こんくらいへっちゃらよ!」
そう言って藍は手を伸ばすが、なかなかそこまで届かない。
「うーん、届かないー!」
「どうする萌ちゃん……?」
「うーん、優君が姉ちゃんを持ち上げる……!」
「どうやって?」
「台みたいになるのが安全よ」
「こう?」
優大は地面に対して四つん這いになる。
「大丈夫優君……?」
「よし、蝉が逃げちゃう、早く乗って!」
「よーし、分かったわ!」
そう言って藍は優大の上に乗り蝉を取りに行く。……が、
「届い……!」
「ジージー!!」
蝉はシュッと避けて飛んだ。
「わ、シッコ!」
「わっ!」
どてっ。
「だ、大丈夫二人とも……!?」
「いった~」
「だ……大丈夫大丈夫……」
「……ぷっ。あはははは! シッコシッコきったなーい!」
そう言いながら藍はひょうきんに笑う。そしたら二人もつられる。
「ぷっ、はははっ!」
「ふふ、あははっ!」
◇◇◇
「ふっ、懐かしいな……」
(そう、藍はいつも僕達の前を歩いて……)
はっ、と優大はあることに気づく。今まで気にせず過ごしてきた自分達のあり方というものを。
「そうか…………いつも僕の隣にいてくれたのは……」
それにもう一つ、自覚していなかった彼女への本当の気持ちも。
「それに……僕はあの時からもう…………」
そう気づいた優大は一つの決断をするのであった。
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