#12僕と君の試験の日
神奈川の家に帰ってきた。
今回の里帰りはとても充実だった。
林さんとの関係性をはっきりさせたわけではないが、今後はっきりさせることを約束することができた。
それが何よりも良かったことだろう。
高校生になって、林さんがこっちの方に引っ越して来たら、僕らの関係は進展するのだろうか。
僕は、人と付き合うことができるのだろうか。
こればっかりはその時にならなければわからない。
だって、経験がないのだから。
だけど、林さんの気持ちを裏切りたくはない。
そう思っているだけで、ひとまずは大丈夫だろう。
そのあとのことはそのあとに考えればいい。
――――――――――――――――――
時が流れ、僕は中三になっていた。
そして、年を跨いで今は一月。受験が目前に迫る重要な時期だ。
公立推薦入試にて友澄高校に受験する予定、というか願書はとっくに出しているので受験する。
林さんもここを受けるらしい。
林さんに初めて好意を告げられてから、すでに二年半程経っている。
本当にずっと僕のことを好いていてくれた。かくいう僕も林さんのことを本気で好きになっている。
あの夏の日、林さんと一緒の高校に行こうと話し、未来について話し合った。
それ以降も里帰りの度に、林さんとは当然会っていた。
時々しか会えないせいか、さらに気持ちが増していったのは言うまでもないだろう。
こういってはあれだが、付き合っていなくてよかったと思う。
付き合って会えない期間が長いと、気持ちが冷める可能性があるという心配もあるが、それ以上に付き合っていて、半年ぐらい会えない期間があるというのは絶対に耐えれない。
一人には慣れていた方だが、人は一度、人の温かさを知ってしまうと無くなった途端すぐにそれを求めてしまうようになる。それが人間なんだ。
というわけで、お互いあの日以降、好きという言葉は胸の奥に閉じ込めている。
電話をしているときも、メッセージを交わしているときも、言葉を閉じ込めている。
それは苦しいことだが、それ以上に関係を変える可能性の方が怖い。
僕も林さんもそれを分かっている。だから僕たちの関係はいまだ友人同士だ。
別れの度に、林さんが手を握ってきたりするが、あくまで友人同士。そうなっている。
友澄高校の公立推薦入試は、小論文と面接という内容の試験を受けなくてはならない。
なので、林さんは試験の日にこちらへ来る。
北海道からの受験なので、願書や推薦書などは郵送で何とかなるが、試験だけはどうにもならない。
今年は冬休みに向こうに帰れていないので、会うのが楽しみだったりする。
まあ、面接の前なので、浮かれた気分にはならないだろうけど。
そんなわけで試験の日が来た。
朝、友澄高校の最寄り駅で、林さんと待ち合わせている。
初めての場所での待ち合わせというのは少しドキドキする。
受験票を持ち、高校へ向かう。
準備してきたとはいえ、さすがに緊張はする。
前回の人生でも試験は小論文と面接だった。
正直受かる気はしていなかったのに受かっていて驚いた記憶がある。
面接は自信があるのだが、小論文がどうしても得意になれない。
だが、今回は面接はもちろん、小論文もたっぷり練習してきた。
大丈夫だろう。
学校の成績もいいし、内申もいいだろうから正直言うと落ちる気は全くしていない。
こんなこと言って、林さんが受かって僕が落ちたらちょっと笑えない。
そう考えると少し怖くなる。
大丈夫、僕はこれまで頑張ってきた。
前回の人生で、無駄な時間を過ごした分今回の人生は頑張ったんだ。
今までの自分を信じろ。そうすればきっと大丈夫だ。
駅に着くと、林さんはもう来ていた。
試験の時間まではまだまだあるのに早いな、と思った。
「久しぶり、林さん。早いね」
「あ、河野くん久しぶり。遅れないようにって思ってたら早く着きすぎちゃって」
そういって、林さんは笑う。
林さんは会うたびに美人になっていく。
正直言って、僕と釣り合っていない。
これを言ったら、林さんは怒りそうだけどね。
「時間までどうしよっか」
「んー、どこかでお茶するほどの時間はないもんね、どうしよっか」
時間のつぶし方に悩んでしまう。
「とりあえず学校まで歩いてみようか。いざ向かうって時に迷ったら大変だし」
「そうだね」
僕らは友澄高校にむかって歩き始めた。
校門前につき、後者を眺める。
いたって普通の公立高校だが、自分で決めて学校に受験するのは前回含めて初めてなので少し気持ちが違う。
この学校に通いたい。そう思えるのはいいことなんだろう。
「一緒に通えるといいね」
林さんが独り言のようにぼそっと言う。
「通えるよ、僕たちなら」
つられて僕も言う。
結局時間まで校門前で時間をつぶすことになった。
お互い緊張していてか、いつもより口数は少なかったが、気持ちは通じ合っていた気がする。
僕たちはお互いに『受験に受かったら、気持ちを伝える』そう思っていただろう。
だから、僕たちは大丈夫だ。
受験なんて、ずっと言葉を閉じ込めてきたことに比べれば、とても簡単なことなのだから。
――――――――――――――――――
無事に試験が終わった。
僕は面接に小論文に何も問題なかった。と思う。
林さんもきっと完璧だと思うのだが…。
「あー、大丈夫かなぁ。はぁ、怖い」
とても心配している。
さっきから安心させようと声をかけているが、特に変わらない。
きっと時間が解決させてくれる問題だろう。
というか、結果が来ればすぐに落ち着くだろう。
いや、逆にテンションが上がって落ち着きがなくなるかもしれない。
「まあ、結果が来るまで待つしかないね」
「そうなんだけど…。心配なものは心配だよ」
これは…。まあ仕方ないか。
林さんは、ずっと頑張ってきた。
関東の高校に来るため。それ以上に親御さんに認めさせるために学年で一番の成績まで上り詰めたのだ。
もしここで受験に失敗していては、すべてが無駄になる。怖くなって当然だろう。
もし、十年前に戻ってきたのが全て夢で、起きたら前までの生活に戻っている、なんてことになりこの人生で頑張ってきたものが全て意味のない時間だったらと、想像するだけで怖くなる。
林さんにとって今回の受験はそれぐらい大きなことだ。当然僕にとっても重要な受験だが、それとは比べ物にならないぐらいに重要なのだろう。
「河野くん…?」
僕は林さんの両手を包み込むようにして握った。
「大丈夫だよ。林さんはずっと頑張ってきたんだ。それは僕も知ってる。もちろん林さん自身もわかってるはずだよ。今まで努力してきたものは裏切らない。だから安心して。ね?」
この言葉は僕自身にも言っている。『努力は裏切らない』。林さんにこの言葉を言って安心させているように、言うことで僕も安心しているのだ。
林さんは、握られた手に目を落としながら、三度ほど頷いた。
「ありがと、河野くん。少し落ち着いた。えへへ、河野くんから手を握ってくれたの初めてだね」
林さんが、少し照れたように笑いながらそんな風に言ってくる。
言われてみればそうだったかもしれない。今まで林さんの方から、手を握ってきたりしたことはあったが、僕からはなかった。
「そうだったね、いつも林さんからだったもんね」
「うん、えへへ、あったかい」
そういって握りっぱなしにしていた手にまた目線を落とす。
僕もつられて目線を落とし、繋がっている手を見て気づく。
とても恥ずかしいことをしている気がする。
ここは駅だ。
周りには当然人がいる。
急に羞恥心に襲われた。
林さんは周りの目線には気づいてないようだが、僕は気づいてしまった。
若者の妬むような視線、老夫婦の温かい視線、物珍しいものを見るようなOLの視線。様々な視線が僕たちを射抜く。
何も言わずに急に手を離す。
林さんは名残惜しそうな目で僕の手を見る。その直後周りの目に気付く。
「あっ」
「えっと、ちょっと場所変えようか」
「う、うん」
僕たちはこの場にいるのが精神的によくないということを悟り、場所を変えて近くの喫茶店に向かうことにした。
「いい雰囲気の喫茶店だね」
「そうだね、落ち着く」
店内に入った途端、お互いにそう思う。
決して広くはない店内。だが時計の音と落ち着いた店内BGM。コーヒーのいい香り。落ち着く要素が多すぎる。
僕たちは向かい合って座れるテーブル席に座り、僕はコーヒーを林さんは紅茶を注文する。
「さっきはごめんね、周りのこと気にせずに手を握っちゃって…」
さっきのは僕が悪いので、謝る。
「いや、むしろありがとうだよ。ああしてもらったことで落ち着くことができたし、河野くんに手を握ってもらえて、その…、うれしかったし」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、黙り込んでしまう。
「とにかく、今後は周りのこととか気にしないとね」
「う、うん。そうだね」
さりげなく今後も手を握ったりとか、見られて少し恥ずかしいことをするということを言ってしまった気がするが、問題ないだろう。
今までもこういう風に遠回しに好意を示すことは多くいあったので。
その後僕たちは喫茶店で夕方までのんびりしていた。
そして、帰る時間がやってくる。
「じゃあ、また、今度会うときは、引っ越してきた後だといいな」
「そうだね、僕も一人暮らしすることになるから、お互いに引っ越して、一緒に引っ越し祝い兼合格祝いをしようよ」
「うん!楽しみにしてる。じゃあまたね!」
「うん、また」
林さんは改札を通る。
僕も別の改札を通る。
次会うときは、お互いに改札を通らずに帰れたら嬉しいな。なんて思うのは気が早いのだろうか。
きっとそんなことはない。
だって僕たちは、同じ高校に通うのだから。
ブックマーク登録、評価などとても励みになります。
ありがとうございます。




