古い短編:元聖女ですが、家に帰ると必ず冒険者が死んでいます
結構、前に書いた短編です。
禁忌聖女ミスティの元ネタな感じかもしれません。
私の名前はミスティ。
26歳の元聖女。
──元聖女、なんて肩書きは一見すごそうに思えるかもしれないけど、適性としての聖女なんてたくさんいる。
今日も雑貨屋のアルバイトをこなして、古い木造家屋に帰るような所帯じみた私。そう、こんなのでも元聖女なのだ。
「うー、寒い寒い」
気温も低く、吐く息もホンワリと白く彩られる。
まだ空気も乾燥している季節だ。
帰り道がつらい。
でも、ミニマムながらも暖かなマイホームを思えば平気なのだ。
これでイケメンの旦那様でも待っていてくれたら、それこそ言うこと無しなのですが、そんなわけもなく独り身です。
恋人いない歴イコール年齢という現実を噛み締めながら、木造ボロのマイホーム前に到着した。
「はぁ~……」
足りない女子力にため息を吐きながら、いつものように扉をオープン。
玄関には仰向けで倒れている死体。
扉をソッとクローズ。
「はぁ~……」
違う意味で二度目のため息。
きっとね、この状況はね、知らない人が見たら衛兵に通報されると思うんだ。
違う、違うのだ。
私は殺ってねぇ。
正当な理由があるので、いつ職質されても良いように言い訳──もとい説明の準備もバッチリである。
え~、私は元聖女で、教会の死者蘇生が間に合わない時に、ヘルプで送られてくるのです。
とてもとても新鮮な死体が。
本当はもうちょっと棺桶とかに入れておけと思うけど、意外とアレは高いらしい。
死者の扱いが雑な教会は、私への蘇生依頼も雑なのだ。
神も仏もありゃしない。
「しょうがない……くさった死体になる前に……」
色々と諦めて、ふたたび扉をオープン。
仰向けに倒れている死体を検死する。
ん、綺麗だ。
身体の損傷は少なく、ショック死かなにかだろうか?
魂の糸は健全なままでつながっている。
手順を踏んで、魔法触媒で身体を元通りにしてから、魂をスポッと入れてフタをすれば生き返りそうだ。
「よし、それじゃあまず身体をミキサーにかけて──」
* * * * * * * *
「こ、ここはどこだ……!? 俺は……」
「あらやだ、イケメン」
数十分後、そこには劇的ビフォーアフターして蘇った男性冒険者の姿が。
年齢的に私と同じくらい、20代半ばの青年だろうか?
血色の良くなった顔は、英雄の彫刻のような凜々しさがある。
筋肉も程よくあった。蘇生するときに不可抗力で見えてしまうのだ、不可抗力で。
「そ、そうか……俺は……魔物に倒されて……」
「はい、教会から人手が足りないということで、私の家に死体が運び込まれたのです。蘇生処置による苦情などは教会側にお願いします」
「い、いや。身体は調子が良い……。というか良すぎるな。普通はあるはずの衰弱すら感じられない。どうなっているんだ……?」
青年は自らの身体をためつすがめつしているが、とくに問題はないようだ。
私が一番めんどうだと思うのはクレーマーなので助かる。
「教会の神官や、それこそ聖女クラスでも、ここまでのことはできまい……。キミは何者なんだ?」
「雑貨屋のアルバイトです」
「その腕があればS級冒険者だって──」
好奇心を刺激してしまったのか、青年はグイグイとこちらに近付いてきた。
──全裸で。
全身を作り直した直後なので、この青年が服なんて着ているはず無いのだ。
「め、めんどうなので結構です! それより服を着てくださいッ!」
「ああ、これはすまない……。俺は知りたいことが出来ると、つい身体が勝手に動いてしまってね……」
私は安物のチュニックを手渡しながら、こんなところは絶対に誰にも見られたくないと溜め息を吐いた。
ここは私の家の中なのである。
古い木造、本棚などにスペースを取られてせまい我が家。
そんなモノでも、一応は女の子の部屋なのだ。
女の子の。
私は26歳でも、外見的に艶やかで長い銀髪、幼い顔立ち、低い背なので女の子でオッケーでしょう。
着ているものは返り血防止のためのエプロンと家庭的だし……だし……。
「ふぅ、先ほどはすみませんでした。俺は吟遊詩人のウータと言います」
「吟遊詩人ですか~。たしか魔力を歌に乗せて、パーティーを支援したりするんですよね?」
服を着た青年──ウータさんは、言われて見れば知的でありながら、ユーモアもありそうな風体に見える。
「はい、吟じる歌によって様々な効果をもたらすことができるのです」
「ええと、それがなぜ、あのような死に方をしていたのですか?」
普通、吟遊詩人のような後衛職が前に出て戦うことはない。
大体は前衛が死んでから、なし崩しに後衛も死んでしまうのだ。
他ケースとしては、後方から不意打ちで死んだりしてしまうとか。
──どちらにしろ、物理的な外傷で死ぬことが多い。
今回のように抵抗の痕跡すら無しの無傷死体というのも珍しい。
「そ、それはですね……」
「後学のためにお聞かせ願えると嬉しいです♪」
本当は趣味である。
冒険者がどう死亡したかというのに興味があるという、私の悪趣味。
でも、これくらいの楽しみがないと蘇生の手伝いなんてやってられないのだ。
いいじゃないか、ちょっとくらい変わった悪趣味を持っていても。
ギブアンドテイクだ!
「わかりました。このように見事な蘇生を行って頂いた御恩もありますし……」
「あ、それは教会を通して謝礼をもらっているので気にしないでください。純粋に後学のためです、後学の」
「では、蘇生技術向上のためにお話ししましょう」
ちょろい……ッ!
「俺が吟遊詩人ということは話しましたよね。実は歌うだけではなく、物語を作ることもしているのです」
「へ~、作家さんみたいな感じなんですね」
「はい、出版できれば副業としても助かりますし、新しい歌にして支援力アップも見込めるので」
自分で物語を書いて、歌詞にして、歌っていると考えたらかなりマルチな才能だ。
意外と吟遊詩人のウータさんはすごい人なんじゃ。
「ですが、最近スランプにおちいっていたのです」
「ひらめきが大切な職だと大変そうですね~」
「悲劇の物語を書きたいのですが、どうしても、どうしても死の描写がうまくいかなくて……!!」
あ、もしかしてこのパターンは……。
予想できちゃうかもしれない。
「悩みに悩み抜いた末に、自ら死ねば書けるようになるのでは!? と!」
「あ~……はい。すんごい仕事根性ですね……」
「本当なら蘇生職様方の手をわずらわせてしまうのは心苦しいのですが、冥界からは出版できないので、仕方なくなのです……! 申し訳ない!」
やべーヒトだこれ。
「それでモンスターに殺されにいったのですが、意外とノーガードだと、逆に警戒されてしまってモーゼの十戒状態。大海を割るかの如く、モンスターの住みかの奥へ奥へと突き進み──」
きっと作家の狂気ってる血走り眼だったんだろうなぁ……。
モンスターたちに同情する。
……いや……でも、そこまで奥地に進んで無傷の死体だったというのはどういうことだろうか?
「ついに俺を殺してくれるモンスターの場所にたどり着いたのです。いや、たどり着いてしまった、というべきか……」
「そこで何があったんですか?」
「嗚呼、甘き死よ来たれ……! 俺には、もうそれしか書けなくなりました……」
「すみません、日本語でオーケー?」
「サキュバスに掴まって腹上死です」
腹上死ってなんだっけ。
──と一瞬だけ考えてしまったが、知り合いから恋バナで聞いてしまったのを思いだした。
たしか……え、えっちの最中に、度を超えた快感で亡くなってしまうという死因だ。
甘き死とも呼ばれている。
「腹上死です……!」
「あ、あの、ウータさん。二度いわなくてもいいですから……。わかりましたから……」
もっと、死にまつわることはシリアスとか、スペクタクルとか、蘇生者の私とのラブロマンスとかだと思ってたんだけどなぁぁぁ。
私は“特殊な世界”しか知らないので、そういう俗世の話を期待していたんだけどぉ……。
いや、これも俗世の話なのか……な……?
「そして残念ながら、たぶん俺はもう悲劇は書けないでしょう。あまりの快感だったので、頭の中が桃色でいっぱいなのです……」
「そ、そうなんですか~……。えと、蘇生後の経過も、頭以外は平気そうなので帰って頂いても大丈夫ですよ~……」
こちらを見る青年の目が怖い。
「そうだ! お礼に小説を書いて送りましょう! ステキな貴女に、とびっきりの官能小説を!」
「──もう帰ってください」
私は魔法を発動させて、青年を家の外へはじき飛ばした。
私の名前はミスティ。
26歳の元聖女。
家に帰ると必ず冒険者が死んでいます。
まともな恋人募集中です。
これでホムパ魔王様関連の小説は全て出し切った感じです。
あとは出るとしたら、竜装騎士の方でキザイルが出たり、竜召喚でドゥルシアやハーシアが出てくるかもですね。




