5饗宴 魔王学校の探索4
我は屋上でミスティと別れ、弁当を無くした落ち込みと共に校長室へ戻ろうとしていた。
その途中の廊下──。
「お、マギウィル。ごきげんようなのである」
「ほう、お前か」
長身痩躯、仕立ての良いグレーのスーツを着た男──マギウィル・マクドゥガルとはち合わせた。
年齢24歳、長い金髪を後ろで束ねていて、前髪は神経質に切りそろえられている。
この世界に少数存在する人間の“魔法使い”で、あのキザイルの兄である。
正直、正反対の性格でまったく似ていないとも言える。
四年前にミスティの護衛としてやってきて、今では居候のような感じで家に住み着いている。
礼儀正しいのだが、硬すぎるというか、謎の距離感があるというか……。
だが、非常に優秀な人間で、この魔王学校の教師を安心して任せられている。
「かなり魔術を使える生徒も増えてきたし、その上位である魔法に手が届きそうな生徒も現れそうな勢い。立ち振る舞いも紳士的で、評判もとてもいいのである!」
「ふっ、お前の元に集った者たちが、最初から仙才鬼才だっただけだ──」
「フゥーハハハ、謙遜するなマギウィル! お主は大した奴だ!」
自らの才能を過信せず、他の者を認める気持ちの良い奴でもある。
「お前もな──オウラ・ブルワーカー」
我の呵々大笑に合わせて、少しだけ口元に笑みを浮かべるスーツの魔法使い。
「──いや、オウマ・ブラオカだからね、我……。なんか“オウラ・ブルワーカー”だとパワー系っぽいのである……」
「すまん、名前を間違えてしまったか……」
普段はパリッとした完璧人間なのだが、どうも名前を覚えるのだけは苦手なようだ。
この不思議な雰囲気、主従関係にあるらしいミスティと似ているといえば似ている。
どこかの浮き世離れした姫君と、宮廷魔法使いとかそんなところだろうか。
実力的には宮仕えより、あの“枢機卿”にすらなれそうな実力と評価しているのだが。
「ところでマギウィル。同居人の小さな勇者を見なかったであるか?」
「小さな勇者……ああ、ジャスティスか」
「おしい、ジャスティナなのである!」
「すまん……本当にすまん。だが、何かを抱えて、校長室の方へ向かっていったな」
「ふぅ、やっと見つけられそうであるな」
何かを抱えて、というのが気になるが……。
我はさっそく校長室に向かおうとしたのだが、ところで──とマギウィルの方も問いかけをしてきた。
「私もミスティック様を探しているのだが、どこかで見なかったか?」
……ミスティック。
あの“禁忌聖女”でもあるまいし。
また名前を間違えたのだろう。
「ミスティなら、屋上で雲を見ながら、我から弁当を盗み食いしたのである」
「……すまん、色々とすまん」
マギウィルは一見すると完璧人間だが、割とそうでもないような気がしてきた。
内心、魔将軍に欲しいなーと思いつつ、早足で去って行く彼を見送った。
* * * * * * * *
校長室の扉をガラッと開けると、そこにはジャスティナがいた。
やっと見つけたのである。
出発地点にいるとは、まさに急がば回れ。
「あ、オウマだ。この椅子の座り心地いいね!」
校長室にある、魔王城から持ってきた椅子──つまり魔王の玉座に、ポスポスとお尻で叩くように跳ねているジャスティナ。
魔王的には、勇者がそれでいいのかなーと思ってしまう。
「フゥーハハハ! って笑いたくなる感じがしないオウマ? こう、ワイン片手に! フワフワ毛並みの猫をはべらせて!」
「アルコール類はもうちょっと大人になってからなのである。フワフワの猫はー……イフィーの毛が生えそろってからにしなさいね」
「ちぇー、オウマのケチー」
我の言葉に、口を尖らせるジャスティナ。
これはきっと反抗期なのである……。
勝手に一人で夢魔を退治しようとしたり、お風呂に一緒に入るのを拒否したり、下着を一緒に洗おうとすると怒ったり……。
我、悲しい……! これが魔王と勇者という悲しい関係……!
きっとそんな感じなのである……!
「そ、その……ジャスティナ……。べ、弁当を忘れていったのであるな……」
我は喋るとまた嫌われそうなので、ビクビクしながら……。
「あ、うん。気が付いたらお弁当なかった」
「も、持ってきたのであるが……。
なんというか……油断したらミスティに食べられていたのである……。
不甲斐ない保護者で……すまぬ……すまぬ!」
「あ~……、確かにミスティならやりそう。
今日、家での朝食もすっごい美味しそうに食べてたし、その横で必死に体調管理の食事調整をうながすマギウィルさんも……」
ジャスティナにお腹を空かせる事態になってしまうとは、姉のステラになんと言えばいいのだろうか……!
かくなる上は、部下の魔物を呼び寄せて、その身を刻んで料理とすべきか!?
ぐぬぅぅぅ!!
「あ、なんかオウマが難しそうな顔をしてる。お腹空いてると考えも上手くまとまらないよ? まったく~、オウマはしょうがないな~」
ジャスティナは机の上を片付けて、何かを広げだした。
「はい、これ一緒に買い食いしよっ! ……あ、その場で食べてないから、ただのお持ち帰りかな……?」
「ジャスティナ……」
そこにあったのは色とりどりの料理。
食べ歩くように作られた、屋台などの食べ物だ。
串に刺さった肉や、野菜と卵がタップリ挟まれたパン、デザートのクレープなど。
「悪い校長先生と、悪い勇者のお昼ご飯!」
「ま、まぁ今日くらいは特別なのである。ただし普段は──」
「そう言ってもオウマ嬉しそう~」
胸の内を見透かされ、溜め息を吐く我。
きっと昼に抜け出して、王都まで行って買ってきたのだろう。
……いや、でもジャスティナの目撃証言と食い違うような。
「ジャスティナ、いつの間に王都まで買いに行ったのであるか?」
「あ~……。えへへ、先生対策でハーシアと口裏合わせってやつ。最後にマギウィル先生に見つかっちゃったけど」
「我、ハーシアに謀られたのであるか!?」
「ごめーん、先生に聞かれたらーって頼んでおいたから、校長先生のオウマにも言っちゃったみたい」
「むむむ……。しかし、おいしそうだから許すのである!」
一緒に笑い合ってから、校長室で“悪い魔王”と“悪い勇者”は昼食を食べ始めた。
竜殺しの枢機卿や、グゴリオンの襲来から四年。
ご覧の通り、平和な日々が続いている。
「あ、そうだ。鳥さんって家に置いてあげてもいい~?」
「早朝、出掛ける時に言ってたアレであるな?
ふーむ、ペットか~。教育としては必要なことかもしれぬな。
……ちなみにどんな鳥であるか?」
「ちょっと大きめかなー。茶色と白の羽毛で、すっごく弱いの」
「うむ、守るべきものができるというのは勉強になる。飼ってもいいのである!」
「わーい、オウマありがとうー! 説得したら今度連れてくるね~」
……説得? まるで鳥が喋るかのように言うのであるな。
まだまだジャスティナは子供ということか。
微笑ましいことなのである。
ついつい、ほっこりしてしまう。
これがもしボーイフレンドとかだったら、魔将軍全員との“死の勝ち抜き戦”を開催するところだったのである。
「はい、あーんである」
「もー、子供じゃないんだからー!」
「フゥーハハハハ!」
今日も魔王学園は平和である。




