1饗宴 行ってみたいと思いませんか?
※視点変更あり
六歳の幼女──ジャスティナは歩いていた。
まだ寝ぼけているのか視界はぼんやりとしていて、あまり現実感がない。
気が付くと、家の廊下。
「あれ、ステラお姉ちゃん……?」
「ん? ジャス、不思議そうな顔をしているがどうしたんだ?」
「い、いや……なんでもないよ」
なにか違和感があったのだが、それがなにか分からない。
自らの小さすぎる手をじっと見る。
「なんだろう……」
モヤモヤした気持ちを抱えながらジャスティナは歩く。
数秒後には、見慣れた訓練場に着いていた。
「あ、そうだ。あたしは一人前の勇者になるために剣の訓練をしなくちゃ」
木人が立ち並び、顔の無い兵士たちが一糸乱れぬ動きで木剣を振っていた。
それはまるでおとぎ話のトランプの兵士たちのようだ。
「やぁ、ジャスティナちゃん」
「おはようございます、キザイルさん」
今日もキザイルが剣の訓練をしている。
ジャスティナは首をひねった。
……やはりおかしい、と。
なんだろう、なにが変なのだろうか。
「あ、ジャスティナちゃんどうしたの? 僕のことをじっと見て。もしかして惚れちゃった? でもごめんねー、もう何年か経ってからじゃないと。なはは」
「いえ、それは絶対に違いますから。ステラお姉ちゃんに譲ります」
たぶんあのキザイルさんが、マジメに訓練をしていたのがおかしく感じられたのだろう。
そう思う事にした。
また数歩だけ歩く。
──すると再び風景が変わった。
今度はどこかわからない、真っ白い神殿。
淡いブルーの花びらが舞っていた。
知らない風景、花、だけどこれを好きだと魂が言っているように心が高鳴る。
「おぉ、ジャスティナ。どこに行っていたのであるか」
「オウマ……」
大切な存在が立っていた。
偉丈夫と呼べるくらい大きくガッシリとした身体だが、表情は優しい中年。
その黒い髪も、黒い眼も、大好きだった。
ジャスティナはそう想い、引き寄せられるように歩く。
左右には【 】達がひざまづき、【 】とジャスティナを崇め……。
「なにこれ……欠けていて見え……ない……?」
ジャスティナは認識できない存在が怖くなり、この世界に不安を覚え、オウマを求めた。
オウマまで目の前から消えて、違う存在になってしまうのではという焦り。
──既視感。
「オウマ、オウマ……。もうどこにも行かないでオウマ……。オウマがいなかったら、たぶんあたしは……」
微笑み続けるオウマに指先が触れた。
瞬間──ビシッと痛みが走った。
「ったぁーッ!?」
それは静電気にも似た感覚。
ジャスティナは後ずさり、キョロキョロと周囲を見回した。
オウマが不審がって問い掛ける。
「ど、どうしたのであるか? ジャスティナ──」
「その名を呼ぶな……」
ジャスティナは人が変わったかのように怒りの形相を見せていた。
いや──それは本来の精神に戻っただけなのだ。
「その偽物の顔で、あたしの名前を呼ぶな。虫酸が走る! この夢魔が!」
「おや、おやおやおやぁ……。バレましたか」
オウマだった外観は崩れ去り、中からピエロのような翼持つ存在が現れた。
* * * * * * * *
やっとあたしは状況を把握した。
ここは現実では無い。
夢の中、しかもあたしの未熟な身体や、ステラお姉ちゃん、キザイルさんがまだ王都にいたということは“四年前の記憶”を使っているらしい。
「こんなの──」
「ほう……」
自らの身体を思い出す。
現状認識さえすれば元の年齢に戻れるはず。
四年前より長くなった金色のツインテール。
手脚はスラリと伸び、胸もほんの少しは成長した。……ほんの少しはだが。
身体を包むのは白と紺色の学生服。
もう6歳の幼女ではなく、今は10歳の少女──それがあたし。ジャスティナである。
剣も以前よりはマシに扱える。
イメージする、いつも肌身離さず持っている神剣を。
たとえ夢の中であろうと守護してくれる、託されし力を。
「夢の中でも、どうってことないんだから!」
「なっ!? 夢に武器を持ち込むだと!?」
あたしの手の中に出現した、神気を放つ刃。
一振りするだけで、夢の幻想はカーテンを裂くように消えてゆく。
「くそ、なぜだ……。夢の中なら、夢魔は無敵のはず……」
「それ、対策も何もしてない人間相手なら、でしょ?」
「なに、まさか!?」
「そう、巷で噂の夢魔をおびき寄せ、夢の中で懲らしめようって待ち構えていたのよ」
あたしは夢魔に対して、ビシッと人差し指。
「まず夢魔というモンスターは習性からして、夢の中に現れ、対象を油断させて現実の身体に触れてくる。
そこであたしの身体に聖水を振りかけておいたの。
おぉっと、逃げようとしてもムダよ。
既に結界で入ってきた窓は封鎖してあるもの」
「お、おれは知る者の少ない上級モンスターなんだぞ……。その知識どこから……。何者だお前!?」
「あたしは、ただの魔王学校の生徒。これは魔族に詳しい“校長”から教えてもらったのよ。んふふ、正攻法でどうにかしたいのなら魔将軍でも連れて来なさい」
あたしは勝ち誇った顔で神剣を構えた。
「さぁ、あなたの負けよ! 希望の勇者の名を刻みながら、五十発くらいグーで殴られて後悔しなさ──」
「ば、ばーか! おれが夢の中から出ちまえば、お前は追ってこられない。
それに、おれが部屋から逃げられなくても、お前の実体に直接触れられなくても、どうにだってできる!」
「え?」
正直、そこまでは考えていなかった。
いや、だけど、直接触れないでできる嫌がらせなんてあるのだろうか?
「なにをするっぽい……?」
「希望の勇者に指一本振れず、倒す方法。なに、すばらしく論理的な方法だ!」
「ま、まさかエッチな……」
「窒息死させてやる、方法はおれのションベ──」
「い、いやぁー!? 最後まで聞きたくないッ!! 本当にいやぁー!!」
想像を絶する答えに、思考が停止してしまう。
ありえない、ありえない。
希望の勇者がお小水に殺されるというのだ。
本当はここでかっこよく夢魔を倒して、オウマや、クラスメイトのハーシアに自慢するという計画が……。
「ハッハッハ! ざまぁ! ざまぁー!!」
夢魔は翼を広げてバッサバッサ飛んで、消えてしまった……。
あ、あぁ……どうしよう。
まだ戦いの中で命を落とすとかなら納得できなくもないけど、さすがに。さすがにちょっと死に方がひどすぎる。
「うぅー……オウマの言うことを聞いておけばよかったぁ……」
オウマは対策と同時に、夢魔は一人で戦うと危険とも言っていたのだ。
「……あぁ、なんか意識が遠のいて……」
今、もうおぼれているのだろうか。
現実の方を想像したくない。
きっと、このまま自分の珍百景な死体を見下ろす、幽霊バッドエンドになるのだろう。
希望の勇者ジャスティナ、享年10歳。夢魔のおしっこで溺死。
こんなことになるんだったら、美少女勇者という通り名にしておくんだった……。
ガクッ。
* * * * * * * *
「……うっ、うぅ。やっぱり戸棚に隠したマカロンも死ぬ前に食べたかった。
──って、あれ? オウマ……おはよう」
死んだかと思ってビクビクしながら起きたあたしを、オウマが出迎えてくれていた。
その手には気絶している夢魔。
頭を鷲掴みにされて、メキメキとここまで音が聞こえてきている。
「ジャスティナ、補習確定なのである」
「えー!?」
ピンチは救われたけど、魔王学校の方ではさらにピンチになってしまったようだ……。
ネット小説大賞の一次通過しました! ひゃっほい!




