1饗宴 王の間、二度目の謁見
ハロー。我、魔王。
いやぁ、まさか今度は魔族の殲滅提案するためではなく、王都を救った英雄たちとして王への謁見をすることになるとは思わなかったのである。
整列しているのは我、ステラ、キザイル、ジャスティナ。
「誠に大儀である。勇者ステラ──」
「はっ!」
ここは高級な赤絨毯が敷かれた王の間だ。
たしか貴族たちが、あの赤を出せるのは“南の都ブリュンヒルド”製だと自慢していたな……。
その赤絨毯の上で、ステラは傅いて返事をしていた。
それを満足げに玉座から見つめる人間の王──ローランド。
白髪王冠、長い白ヒゲでいかにも王といった感じだ。
ただ少し気弱そうな痩せ形で、威厳はそこまで無いように見える。
まぁ、以前の我の“魔族殲滅作戦”の提案に、かなり焦っていた印象もマシマシなせいなのもあるが。
「次にキザイル・マクドゥガル。そなたはマクドゥガル家の次男であったな。まだ騎士団に入って間もなき若者が、このような立派な働きをしてくれて嬉しく思う」
「は、はいっ!」
ステラの横で同じように片膝をついて、地面に視線をやっているキザイル。
緊張で汗がダラダラらしい。
それにしても此奴、ムダに名字が格好良いな。マクドゥガルとか。
何となくイメージで、ウェーイタロウみたいな感じかと思っていたのである。
「そして──ジャスティナ。……いや、勇者ジャスティナよ。よくぞ王都を救ってくれた。そなたに勇者の称号を与える。後日、正式な儀式を受けるがよい」
「うん!」
みんなを真似ようとして、慣れないポーズで傅いている幼き勇者ジャスティナ。
かなりプルプルしていて、何かの拍子で転がっていってしまいそうで不安になる。
「ジャス、せめて『はい』と言いなさい……」
横のステラはそれを心配そうに横目で見ながら、小声で注意をしている。
「はっはっは、よいよい。私に孫でもいたら、きっとこんな感じなのだろうな!」
幼き不敬は不問に処すという呵々大笑で、ローランド王は気にしていないようだった。
子を許す王か。表面的には悪い王ではなさそうだ。
「ローランド王は、以前に王妃と姫を亡くされているから、僕やステラ、ジャスティナみたいな年頃には甘いんだ」
小声で我に教えてくるキザイル。
「なるほどなのである」
ちなみに我も他と同じ謁見ポーズで、ローランド王の前にいる。
「さて最後に──勇者剣術指南役オウマ・ブラオカ……。よくジャスティナを鍛え上げてくれた」
「はッ!」
儀礼的な返事をして、そのまま視線を下に落として待機を続ける我。
しばらくの無音が続き疑問に眉をひそめる。
何か気配を感じたと思ったら、ローランド王が近付いて耳打ちしてきていた。
「……も、もう魔族殲滅作戦とか言い出さないよね?」
「割とすっきりしたのですが、我は気が変わりやすいゆえに」
「そ、そうなんだ……」
ため口の王は目をそらしながら、そのまま玉座に戻っていった。
咳払いをしてから、再び威厳あるっぽい言葉を続けてきた。
「報告は先に受けているが、今一度の確認をする。
王都に侵攻してきた魔王軍と鳥魔将軍グゴリオン、及びに人魔将軍イフィゲニア。
これにより勇者ロトシア率いる一軍が壊滅」
「はい、この目で見ました。魔王軍は圧倒的な力でした」
珍しくマジメにキザイルが報告をしている。
そういえば、最初は伝令として我たちのところにやって来たのだった。
「そのまま王都付近の平原まで攻め入られ、騎士たちが防衛するも戦局は思わしくなく、途中で勇者ステラが加勢に入った」
「はっ! 遅ればせながら、魔王軍に切り込みました」
あ~、我を置いて行っちゃったやつであるな。
その頃は我、ウッキウキ気分で山菜を採ってたよ……。
「ですが、魔王軍は思わぬ力を隠していました。鳥魔将軍グゴリオンは疎か、ゴブリン一匹でさえ尋常では無い強さ……」
魔王軍のゴブリンはきっちり訓練をしていて、魔力で全身を防御していたのでムリもないのである。
同じ魔力をまとった攻撃でないとダメージを通しにくいので、ステラとは相性が悪いのもあった。
「そのとき、ジャス──いえ、勇者ジャスティナが目覚め、孤軍奮闘して魔王軍を見事に全滅させました」
「途中から意識がなかったから、あたしは覚えてないけどね!」
もう王の前ということを忘れて、大好きな姉に褒められたジャスティナはフリーダムに立ち上がってふんぞり返っている。
「なるほど。それで確かなのだな。ブラオカよ?」
「はい。勇者ステラは気絶していましたが、遅れて到着した我が、この目でしかと見届けました。
無我のジャスティナが人魔将軍イフィゲニアをワンパン、鳥魔将軍グゴリオンを魔王城の方へ吹き飛ばしていました。
ええ、我ウソ・ツカナイ」
……ということにしてある。
ジャスティナが、人魔将軍イフィゲニアに気絶させられたあとからは、我のねつ造だ。
さすがに我1人で魔将軍をぶっ倒していったとか正直に言ったら……『オメェは何者だ!』となってしまうからなのである。
まぁ、ジャスティナも善戦してたし、そこまでの嘘では無い。
「ふむ……最強の勇者の称号も考えておかねばならぬな……。
あの才能の一欠片も無い娘と侮蔑を受けていたジャスティナがこうも……。
ブラオカよ、お主がこの王都レギンレイヴに来てくれなければどうなっていたか。
──感謝するぞ」
「勿体なき御言葉」
我は力の使い方を教えただけで、後はジャスティナが勝手に強くなっただけなのだが。
「少ォし良いですかなぁ?」
ごほんっ、とわざとらしく咳払いをしてから話してきた初老の男がいた。
王の側近として立っていた、法衣で司祭帽をかぶった……ええと、誰だっけ?
人間の見分けがあまりつかないし、興味が薄い。
「あれは大司教のバギエル様だよ」
我の表情で察してか、横のキザイルが小さな声で説明をしてくれた。
何か竜の英雄譚の真空呪文みたいな名前である。
いや、マジメにもう一つ何かを思い出す不快な名前だ。教会関係者はこれだから……。
「多額の資金源を持ち、貴族にも影響が大きく、王都での教会のトップとも言える。だから、王様も話に割り込まれても怒らないのさ」
あー、やっぱり神に仕える者とか汚い、超汚いってわけであるな。
基本的には魔王の我と合わない
そもそも信仰する神が、もう本来の御方とは……。
「許す。話せ、大司教バギエル」
「はァい、許されました。単刀直入に申しますと、勇者ジャスティナの御身を教会で預からせて頂きたいのですよぉ」
「ふむ?」
疑問符を返す王。
ピクッと反応するも、相手側の住む世界が上過ぎて動けないステラ。
「まだ勇者ジャスティナは幼ァい。──なので、身も心も勇者に相応しき躾をしてさしあげようと。私の元に住まわせて──」
いくら人間に疎い我とて、その言葉の意味はわかる。
勇者の力を手に入れて、手元に置きたいのだ。
「やだ! あたしはステラお姉ちゃんと、オウマといっしょに住むの!
それに教会は……あたしたちが昔、大変だったときに助けてくれなかった!」
相手の偉さなど無視して叫ぶジャスティナ。それが自らの意思なのだろう。
苦しいときに救いの手を差し伸べず、利益があるとわかったらすり寄ってくる大司教への返事なのだ。
「おやおや。子供というのは突然の環境の変化を嫌いますからねェ。では、後日、迎えを寄越しますので──」
ジャスティナの意思を無視して、話を続ける大司教バギエル。
「──っこの、いくら何でも」
勇んで立ち上がろうとするキザイル。
我はその肩を掴んで押しとどめる。
「オウマちゃん、止めないでくれ──」
「大丈夫、少し待つのである」
我は気付かれないように魔法を無詠唱で使っておく。
そして和やかに話しかける。
「大司教バギエル猊下。少し良いですかな?」
「オウマ・ブラオカさんでしたね。どォうなさいましたか?
まさかあなたも、みどもに反対を?」
「とりあえず──ジャスティナの方を向いて、頭と両手を地面に付けてください。
ほら、早く? 思いっきりベッタリとですよ」
「……なっ!? この大司教に対して、幼子に!? 無様に!? 土下座しろと!? いィきなり何という男だ!!」
ふむ、怒られてしまったのである。
ジャスティナの言葉も、我の言葉も聞かないとは。
まったく、チャンスをやったというのに──。
「グエェッ!?」
突然、王の間の窓ガラスが破れ、握り拳くらいの石が降ってきた。
頭部直撃の大司教バギエルの悲鳴が響き渡ったあと、静まりかえる王の間。
「だから回避方法を告げたのに。大司教バギエル猊下、人の話は聞くものである」
「こ、これはいったい……」
困惑する人間の王に、我は答えてやる。
「以前伝えた、我めの占星術にございます。隕石が降ってくると伝える暇もなく、ああ、悲劇。超精一杯の努力で回避方法だけをお伝えしたのですが」
* * * * * * * *
大司教バギエルが治療院に搬送されたあと、王との謁見は終了した。
ジャスティナの件は『まだ力が不安定なので環境変化は危険』と伝え、王がそれを承諾。
「うーむ、王都の上の人間はいまいちなのが多いのであるな」
城の廊下を歩く我たち4人。
キザイルがいつもの解説を入れてくる。
「まぁ、たしかに大司教はあんなのだし、ローランド王も過去に色々あってから押しに弱いって聞くけどね。
だけど、今日はいなかったけど、宰相さんがうまく国を回してるって話さ」
「宰相、か……」
王とは難しいものであるな。
正反対の魔王という我だからこそ、そう思うところもある。
「あ、あの……オウマ殿。ありがとうございました……」
いつものように近すぎる距離で話しかけてくるステラ。
離れてほしいのである……。
いや、それより──。
「我、何か礼を言われることをしたのであるか?」
魔法は気付かれないように使っていたし、そもそも我が魔法を使えると知っている者はいない。
「あ、いえ!? ……そ、その。えーっと、そうジャスティナの剣術指南……!
け、継続を理由に、私たちが離ればなれにならないように進言してくれた件についてです!」
なるほど、たしかに我が提案したのであった。
またステラのことを、『我を魔王と知っているかもしれない』的な勘違いをしてしまうところなのであった。
そもそもアレも、過去に助けて面識があっただけなのだ。
今現在のステラからの認識は、我、完璧に人間に見られているはず。
「ジャスティナと一緒に住んで、ホームパーティーもやると約束したからな。約束を果たすためである」
「い、一緒に住む!? ということは、私とも一緒にですか!? 同居で新婚ですか!?」
なぜか慌てふためくステラ。
いや……そういえば、幼いジャスティナが独り暮らしをしているとは考えにくい。
もしかしなくても、姉妹は一緒に住んでいるという盲点。
というか、謁見中にそれっぽいことを言っていた気も……。
ジャスティナと一緒に住むイコール……ステラと同居ということか……。
ちなみに新婚とかは言ってる意味がわからないのでスルーなのである。
「……やっぱりホームパーティーだけにしない?」
視線を下に向けると、ブンブンと首を横に振るジャスティナがいた。
金髪を振り乱しての全力否定である。
オワタ。
「大丈夫です! オウマ殿! 16歳の私──ステラと同居しても愛さえあればベッドで交わることも合法です!
例え年齢が違いすぎていようと、魔王であっても!」
「魔王?」
「……よ、夜は狼的な例えです」
ははは、此奴め。
我、勘違いしていた頃だったら、この発言にビクビクしていただろうなぁ。
だけど、今はもう平気なのである!
我は普通の人間に思われているのだから! フゥーハハハ!




