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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第九章 仲間(コムレイズ)
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第102話 脱出成功する者たち

 

「あなた方に危害を加える者ではありません。お互いにケガ人が出ないようシールドを張らせて頂いただけです。あそこにいる者たち全員を連れて参ります」


 初めて口を開いた、庭中央に立つ男。


「な、何を言うか。我らはあやつらを逮捕せにゃ〜いかんのや。邪魔するなら、お、お前もた、逮捕することになるぞぉ」


「お待ちください」


 警官隊の後方から割り込んできた者が、門まで近づき責任者を抑止させた。

 その顔はベランダにいるレイたちからは、薄暗くてハッキリ見えない。しかし、伊豆海光には分かった。彼女の、そして陽の養父だった。


「阿部阪様ですね!? この家を所有している酒巻さかまきと申します。私どもに誤解があったのかもしれません。息子と娘の誘拐を企む凶悪犯だと思っておりました。大変失礼致しました。すぐに撤収させます」


「フッ」


 狸親父のコトバに含み笑いを見せながら、訊ねた。


「光さんも連れて行きますが、宜しいですか? 」


「お友達なら問題ございません。仲良くして頂けると私も嬉しく存じます」


 ニヤリとする養父酒巻は、身体を反転させ警官隊指揮官に小声で一言。そのまま後方へと歩き去った。


「てっ、撤収だぁ〜」


 暗闇で撤収するのは難儀だと思い、光換命奉こうかんみょうほうの術は解き、灯りを戻した。建物にも電灯が点き、携帯電話の電源も回復。

 カメラが使えるようになった柳刃は、阿部阪と会話していた私服の初老男を望遠撮影し始めた。歩き去る姿であるため、横顔さえもハッキリと撮れない。ただ、さらに隠れるようにいた上着を脱いだ、シャツ姿の男に深々と頭を下げるシーンを激写。その30歳代男の斜め正面撮影に成功した。付き人らしき男と共に3人で暗闇へと消えていくまで、撮影し続けた。

 そのシャツの男は、前日に有明の埋立地で伊豆海陽の処理を指示した、最高検察庁公安部のエリートである。柳刃は、後日の調査で知ることになった。



 安全を確認するまでシールドは解くことなく、建物へと歩み寄る敬俊。二階ベランダにいる者たちに声を掛けた。


「遅くなってすまなかった」


 安堵感から涙するレイ、歓喜する須佐野たち、呆気に取られている光。全員が庭にいるダンディーな男を見ている。そこへ茉莉那が一言。


「パパぁ、光さんの足に付いてる装置、厄介なんだけどさぁ」


「茉莉那、解原かいげんやってみたいんだろ!? 」


「分かっちゃったぁ!? 」


 満面な笑みを見せる、敬俊の娘。普段レディーの彼女の子どもっぽさを垣間見ることが出来たレイも、笑みがこぼれる。

 父の許可をもらい、初の解原を光の足枷に使う。彼ほど力量はないが、この程度なら可能であった。足枷の型に沿って筒状の輪のシールドを張り、実行。少しずつ分離し、足枷の型は消失。粉末と気体が筒状のシールドの中に溜まる。分離した分子、原子は自然に帰すのだ。

 それを凝視していた皆は、新たな驚嘆を表現。これで彼女は、自由になることが出来た。


 船で帰還する建毘師3人は地上へ残し、ナチュレ・ヴィタールの円盤で2人ずつ空飛ぶ物体へ、乗せ始めた。全員が乗り終わった後、シールドを縮小させ解除。最後に、茉莉那と共に円盤で宙に浮く。上昇する際、暗闇の林中を鋭視する、敬俊がいた。

 その視線を向けられていた柳刃には、理解出来ていた。警察やNSネスの隠密行動だけでなく、柳刃一人を葬ることなどNSネスは平気であることも。自らの危険を察しているため、覚悟を決めていた。


 SEA77(シートゥーセブン)は、そのまま上昇、岡山空港方面へ。そう、耶都希、嵩旡、そして転命を受けた陽がいる場所へ、飛んだ。



 外の不穏な動きがいつの間にか消えている、岡山空港の近くの宿泊施設。

 レイたちと連絡がつかないことに、耶都希や嵩旡たちの不安は消えない。が、突如施設外に音と灯りが増えた。警戒する耶都希の携帯電話が鳴り響く。レイからだ。


「お待たせしましたぁ〜」


 待ちに待った少女の声は、異様に明るい。施設の外にいることを知り、飛び出す3人。ライトを照射している宙に浮く見慣れない航空機から、複数人がゆったり降りてくる。眩しくて分からなかったが、地上に近づくにつれ、明確になった。敬俊、レイ、そして一人の女性。陽の姉、光だと察した。

 女性2人が小走りで、近づいてくる。その姿を見ながら、胸に熱いものが込み上げてくる、耶都希。目の前で足を止めた、少女がいる。涙を堪え、声も出せず、両手を広げ彼女を抱き寄せた。


「レイさん、ありがとう。あなたには感謝しても感謝しきれない。謝っても謝りきれない。でも、今の私はあなたにお礼の言葉しか見つからない。本当にありがとう」


 その行動に少しだけ呆気にとられていたが、少女も両手を彼女の身体に巻く。


「湊さんのお陰です。私こそ、ありがとうございます」


 少女の優しさに感銘し、堪えていた涙が耶都希の頬を濡らす。



 弟のいる一階リビングに、姉を案内する2人。自力でベッドに座っている、手足や頭、胸に包帯の少年。その姿を見て安堵し、泣き出した光は近寄り、抱擁した。


「陽、お帰りぃ! 」


「ただいま、光姉さん」


 姉の言葉に、弟も応える。


 姉弟の姿を見ながら、他の者たちは感動してやまない。後から部屋に入ってきた須佐野、茉莉那もその瞬間を目にすることが出来た。



 SEA77(シートゥーセブン)は碧と敬俊、茉莉那を乗せ東京へ帰還。伊武騎の部下は、車でそこを去った。

 レイたちはその施設に1泊、翌日伊武騎グループが手配した車両で移動。須佐野は岡山駅から鉄道で新潟へ。レイ、嵩旡、耶都希、陽、姉の光は、ジェット機で羽田へ。

 その後耶都希は、伊武騎により埋立地から修理工場へ運ばれている愛車の元へ。直り次第淡路へと帰宅することに。

 4人は明水神社へ。水恵夫婦の厚意により、陽の身体回復と光の気持ちが落ち着くまで、滞在。

 レイと嵩旡は、翌日から普段の学校生活に戻った。



 

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