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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第九章 仲間(コムレイズ)
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第100話 甦った者への涙

※ 少し長めになります。


 

 転命を受けた陽がいる、岡山空港近くの施設。

 他の者と同様、いやそれ以上に彼の復活を祈る、耶都希がいる。心中不安、そして後悔で一杯である。それに加え周囲の動きも、心配になってきた。緊迫する状況の中、肌白く紫唇の少年に変化は、まだ見られない。



 だが……

 陽の中では変化が現れていた。




 ――幼少の陽。

 上限前後左右の区別もない、真っ暗な場所。無音の世界。重力もなく浮遊しているようだ。しゃがむように腰を曲げ、両腕に膝を抱え丸くなり、頭を両膝の間に埋めている。何もすることなく、何も考えることなく、何も感じることなく、ただただその姿勢で浮遊している小さな身体からだ

 そのまま眠りにつこうとする。その時、微かな声がどこからともなく聞こえる。


「ょぅ」


 顔を上げたが、真っ暗で何も見えない。眼を開けていることさえも、分からないほどに。再び、顔を埋める。


「よう」


 再び聞こえた。聞き覚えのある優しい声。顔を上げ、首を左右へ回してみる。暗闇が見えるだけである。諦め、目を閉じようとする。


「陽! 」


 より大きく、確かに呼ぶ声。


「姉、さん」


 目を再び開け、首を左右上下にゆっくり振ってみる。足先の真っ暗な空間から砂粒くらいの白点。瞼を大きく見開いた。

 その白点は徐々に大きくなっていく。と思った瞬間、子どもの陽の目の前を足元から頭上へと、もの凄いスピードで輝く白線が引かれた。

 驚いた拍子に、立つが如く身体を伸ばしている。


「陽ぉ! 姉さんがあなたを守るからぁ。だから戻ってきてぇ! 」


 再び姉の声。


 何も考えられなかった陽の脳内に、姉の様々な笑顔、様々な泣き顔が、走馬灯のように現れる。

 次第に意識が明瞭になり、口を開いた。


「いや、姉さんを僕が護る! 」


 力がみなぎるように、眼が、口が、腹が、拳が、足がエネルギーと化した。同時に身体からだが大人化していく。

 そして鼓動音を響かせるように胸内で、一動。――




 この時、陽を見つめる2人は何かを感じたようだ。嵩旡が彼の胸に耳を充ててみた。ドックンと一度だけ微かに、聞こえる。一呼吸ほどした後に、再びドックンと鼓を打った。顔を上げ、傍の女にアイコンタクトで伝える。

 自然に涙が溢れ、彼の顔がぼやける耶都希。感激と安堵が、周囲に起ころうとする不安を打ち消した。


 先ほどとは違う少年の、顔。肌には色が付き、唇はピンク色が浮かび上がってきていた。




 ――少年の陽。

 上下に走る白線をゆっくりと力強く、両手で握る。瞬間、その光る白線と同スピードで引っ張り上げられた。徐々に温もりを感じ始める肌。そして、白線の向こうに見えてきた虹色の円が、迫ってくる。と思いきや、一瞬にしてその中に包まれた。

 先ほどまでの暗黒界にいたため、その中があまりにも眩しく目を閉じる、しかなかった。

 しかし、皮膚で感じる。経験したことのない優しく包まれる感覚。不思議な空間。それを直視したいがために、躊躇なくゆったりと目を開けてみる、少年。――



 目覚めた。視野には、見慣れない部屋の天井。


(夢!? )


 手を動かし、感覚で布団の中にいることを理解する。頭をズラし左に視線を変えると、そこに見たことのある人物が座っていた。


「ね、姉さん、何で、泣いてるの? ここはどこ? 」


 涙を両目から垂れ流している、姉さんと呼ばれる女。

 目覚めたばかりの彼の声は、小さく、かすれれていた。


「陽……」


 彼女から横へ視線をズラすと、知らない男が立っている。


「誰? 」


「……この人は、私たちの護衛、阿部阪嵩旡さん」


「あべ、さか……」


 ぼんやりとしていた眼が、徐々に鋭さを増す。思い出したように、起き上がろうとする、少年。


「ウッ! 」


 全身に鈍い痛みを感じたようだ。さらに固くなっているのだろう。動こうにも、動けていないのが分かる。


「ダメ! まだ動かないで」


 少年を制止するために、叫ぶ女。

 彼女に従うわけではないが、自らの力で起き上がれないことを理解し、諦めた。少し整理するかのように、大人しく天井だけを見ている。しばらくして、現状を把握するため、質問を投げかけた。


「僕は、NSネスに、やられたんだね!? 」


「うん」


「誰にやられたの? 」


「分からない」


「そっかぁ……あっ! ごめん」


「何が?」


「姉さんに闇儡したよね、大丈夫だった」


「大丈夫よ。言ったでしょ、私は平気だって」


「そうだね。……ところで、ここはどこ? 病院じゃ、ないみたいだけど」


「そうね、普通の家、というより、民宿かなぁ」


「……東京? 」


「うぅんん、岡山」


「岡山!? ……誰が運んでくれたの? そこの阿部阪さん? 」


「そう。それに、伊武騎グループ、碧くんよ」


「伊武騎……この僕を、助けてくれたんだ」


「そう、色々とね。今度ゆっくり話してあげるわ」


「……僕、どのくらい、寝てたの? 」


 一瞬躊躇ったが、正直に答えることにした。


「寝てたんじゃないの。……呼吸も心臓も止まってしまったわ。それも昨日のことよ」


 驚く少年だったが、少しずつ理解してきたようだ。


「僕は、命毘師みょうびしによって、甦った、ってことだね」


「そういうこと」


「命毘師って誰? どこにいるの? 」


「端上レイさんよ。でも、ここにいないの」


「いない!? じゃぁ、どうやって? 」


「遠隔で転命してくれた。進毘師すせりびしさんと一緒に」


「遠隔……スゴいなぁ〜、そんなことも出来るんだぁ」


「レイさんは初めてだったみたい。でも、ちゃんと成功した。陽が今、ここにいる」


「……誰が、みょうをくれたの? 」


「あなたのお姉さん。光さんよ」


「ねえ、さん、……光、姉さん! 」


 NSネスに捕まり、危険な状況にいる姉のことを思い出したのだ。再び起き上がろうとする。


「ダメ! 」


 肩を押さえようとする、耶都希の手。


「もし助けに行っても、陽……今のあなたじゃダメなの」


 眉毛を上げ、目を大きく開け、少年は不思議そうな表情を見せた。


「どういうこと? 」


「……陽、あなたには、もう、力がないの。……普通の人になったのよ」


「ぇ? 」


「転命の掟。……本当は、私の命をあなたに与えようと考えた。そうすれば、陽は力を持ったまま甦ることが出来た。でも……あなたは以前私に言った。『この力を恨んでる』って。……通常者の命を受ければ、奉術師の力は無になるらしいわ。だから、甦ったあなたが、もう苦しまないように、闘わなくてもいいように、普通の男子になれるように、光さんに、お願いしに行ったの。レイさんたちは、今も光さんと一緒よ」


 目を瞑り、質問を止めた少年。だが、暫くして再び続ける。


「僕はもう、光姉さんを、護れないんだね!? 」


「違う、違うよ陽。護るとか護れないとかじゃない。お姉さんと仲良く2人で、普通の幸せな生活を送って欲しいの。それでいいじゃない。……だから、だから皆、必死になって光さんを助けに行ったの」


 彼女の必死さ、言わんとしていることを、理解したようだ。目を閉じ、口を閉ざした。かつてない、優しく、少年のような表情を見せていた。

 人の温かさを、生まれて初めて感じたのではないだろうか。今まで闘ってきた耶都希と、今自分のために闘ってくれている人たちに感謝したい、という想いが含まれているのかもしれない。


「……ありがとう」


 彼の素直な感謝のコトバに、嬉しくなる耶都希がいた。その2人に安心する、嵩旡もいる。



 まだレイたちに報告していないことを思い出し、耶都希が電話することに。ところが何度かけても通信不能。嵩旡も現場にいるはずの姉に連絡するが、通じない。伊武騎の仲間も同様である。


 助けに行った皆に何かあったのではないか、新たな不安が、彼女らを襲った。



 

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