第98話 罠にかかった者たち
助けたい本人の拒否発言に困惑する、レイがいる。
そんな少女に応えるために、座る姿勢を変え、両足首を見せた光。正確には、両足首にある輪型の装飾品だった。直径5ミリ程度の高価とは言い難いシルバー色のアクセサリー、が違和感なく付いていた。
「……これは? 」
「これね、……爆弾らしいの」
「!? 」
耳を疑った。
「ばく、だん? ……! 爆弾! 」
部屋入口に立ったままの碧たちに向けられた少女の、大きく見開いた眼は何かを訴えている様子。彼女同様、男たちも驚きの表情を露にした。
爆弾を身に付けているらしい彼女に近づく、碧と須佐野。その足輪を凝視した。が、見た目には分からなかった。
「ゴメン、触っても大丈夫かなぁ」
「はい」
静かにその爆弾らしきシルバー物に触れる、碧。さらに足首に沿って回す。
それには、小さなLEDランプが三つ。二つは消えているが、一つはグリーン色に輝いている。そして、内側に対面して二つの小さな穴を見つけた。さらに回しながら観察すると、二ヶ所の接続部分のようなライン。ここを無理矢理外そうとすると作動するのだろう、と予測出来る。両足とも同じタイプ、だということは分かった。
「どうすれば作動するのかなぁ? 」
「この家を離れたら……正確には半径20メートルを超えたらって聞いてます。あとは、切断したり分解したりしても爆発するそうです。ただ、爆発力は大したことないと……。両足を切断する程度のようです」
「ひっ、ひどい! 何でそんなことが出来るの!? 誰が、こんなこと……」
吃驚したレイは、力み閉瞼し、俯いた。
「監視していた警官たちがいなくなる時に、スーツを着た男たちに付けられたの。刑事って感じはしなかったわ」
NSだと疑うことが出来るだろう。ただ碧だけは、冷静に分析していた。
「予想だとこれは、爆弾とは少し違う代物……でも、似たようなもんかな。実物を見たことないから、何とも言えないけど、ね。
……ロシアで開発されている囚人脱走防止のための足枷、じゃないかと考えてる。一定距離を離れると作動するのは同じ。でも爆発ではなく内側の穴から針のような物が出て、麻酔などの液体を体内に注入するんだ。気を失った後に即捕獲ってなるわけ。……爆薬で足を吹っ飛ばすと、労働者として利用出来ないからね。
ただ、今この中にどんな液体が入っているのかは分からない。毒薬であれば勿論死に至るだろうし……ある意味爆弾と一緒、かなぁ」
「どちらにしても光さんは、脱出することは不可能、ということか!? 」
須佐野が口を開く。
「そういうことになりますね。本物であれば、ですけど……」
あっさりした返事。そのまま視線は腕時計へ。
「おばあちゃんに頼んで、エンジニアを呼ぶ時間がないわけじゃないけど、陽くんたちをヘリでここに来てもらう方が、確実かもしれない」
敷地外では不穏な動き。緊張感が増す見張る、柳刃ら。
彼の左方面から、友人の右方面から、小枝を踏み折る足音が聞こえ始め、微動たりせず様子を伺う。レイたちのいる建物へ近づく数多くの黒い影を、察知。自らの安全ポジションを理解した後、カメラのナイトビジョンで視察。
SATと武装警官隊である。北側道路からも二列に並んだ部隊が、小走りで敷地を囲む。所々の数人は背負っていた機材を下ろし、準備を始めた。
彼女たちに危険が及んでいることを知りながら、ありのままを撮影するしかなかった。
タイムリミットまで16時間を切っていた。腕時計を見ながら大男も同意。指揮官がアイコンタクトで確認すると、頷く少女。それを見て立ち上がり、ポケットから携帯電話を取り出した。が、動きを急止。
「茉莉那さん! 外で動きがあります」
一階から聞こえて来た、男の声。
「チッ! 」
舌打ちする、碧がいた。建毘師一派も緊迫した表情で、壁に隠れながら、おいおい外を覗き舐める。
「ジンさん! シールド! 」
家中に広がる茉莉那の声。
「あいよ」
建物全体を覆う薄緑っぽい半球体の膜を張る、一階にいた建毘師。
座り込んでいる彼女たちにその場を動かないようジェスチャーで指示する、リーダー。身を屈めながら、大きな窓枠の裾へと身体をくっ付け、外を見渡す。大男は逆の窓裾へ、移動した。
19時頃の薄暗い外には、肉眼でもハッキリ分かるように黒尽くめの、人の列。
「やっべぇー、こっちに気を取られて気づかなかったぁ〜……また婆ちゃんに怒られちまうよ」
小声で後悔する伊武騎グループ会長の孫。両手の平を広げ、戦闘態勢を取った。
刹那、これから暗闇に融け込むはずだった島の一部が、舞台と化す。散らばる複数のスポットライトが、白い二階建ての建物をメイン会場に、仕立て上げた。
「あぁ、あぁ、犯人に告ぐ! 犯人に告ぐ! 建物は完全に包囲した! 抵抗を止めて出てきなさい! 」
小さな島に鳴り響く、拡声機の汚い声。テレビドラマで聞いたことのある、あのセリフを浴びせられたのだ。さらに、北東と北西から警察ヘリの騒音とスポットライトが、演出に厚みを増す。
須佐野と碧、建毘師一派は、眩し過ぎる外を薄目で、睨む。予想もしてなかったその騒動に驚く女性2人は、その場に立ち上がり、外への興味を示した。
各ライトの間を埋め尽くす黒ずくめの、人影。「なぜ私たちが……信じられない」と刑事ドラマのように、包囲された事実を受け入れることに時間は、掛からなかった。
林中にいる柳刃。
予想以上の規模に少々戸惑いながら、ジャーナリストとしての血が騒ぐ。咄嗟にバッグから小型ホームビデオカメラを取り出し、動画撮影。スポットライトで十分撮影可能な明るさが確保出来ていた。薄暗く足場の悪い場所を気にせず、北東から東側へと一歩一歩移動。正門付近にいる私服警官たちを捉えておきたかった、のだ。
後頭部を掻きながら部屋中央に戻る、リーダー碧。
「50人以上はいるなぁ。どうしようかなぁ〜……持ってきたの30くらいしかないし……」
幽禍の数である。
「おまけに気になってはいたけど、この島に浮遊する命が少ないんだよねぇ。多分、奴らの仕業だと思うけど……」
沈黙し、思案し始める。
それを邪魔するように再び、拡声機の声。
「5分以内に人質を解放し、武器を捨て、出てきなさい! 」
「碧さん、どうなるんですか、私たち? 」
不安そうに訊ねる、女子高生。
「そうねぇ〜……全員逮捕、かなぁ。陽くんの蘇生を防げるからね。でも……奴らのやり方だと、ここにいる全員あの世行き、だろうね。光さんも含めて」
光と目を合わせる、レイ。
「なぜ、お姉さんまで? 」




