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ヴィタリスト =命と闇の合従= <ミングル編>  作者: 柳刃公平
第九章 仲間(コムレイズ)
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第97話  土下座する者たち

 

 無線から聞こえる救出対象者のコトバ。涙を溜め、女性の元へ走り出している、レイがいた。彼女と自身にシールドを張り並走する、茉莉那もいる。正面門を乗り越え、玄関から駆け込んだ。




 この一部始終を林中から見張る、者たちがいる。

 救出計画を実行する者たちが来島するよりも先に、来ていた。昼過ぎに、宝伝ほうでん港発定期便で来島。情報を元に目的宅を見つけ、指定された北東と南西の位置で待機していた。もし片方が捕まっても片方が現場目撃出来れば、という手筈である。

 2人が到着していた時はまだ、警官たちが建物を警備していた。17時半を過ぎた頃、制服警官たちが一斉に敷地を離れ、5分程度して建物にいたスーツの男たちも出ていった。

 18時半ごろ、敷地に近づく数人に気づき、カメラ用望遠レンズで周辺を探索。北西側の林中に少女らがいることを、北東にいた者が発見。驚きながらも、これから起こり得る出来事のために、息を潜め、見守っていたのだ。

 ジャーナリスト柳刃公平と、友人のフリーカメラマン、である。


 なぜ柳刃らがここにいるのか……その情報元は、阿部阪敬俊。

 前日連絡があり、危険はあるものの警察の動向を撮影するよう、彼から指示されていた。最悪の場合、警察発表と相反する目撃情報や証拠を作り上げておくためだ。身の保証は当然なかったが、彼の話しに乗ったジャーナリスト、である。




 建物へ入り、土足のまま勢いよく階段を上るレイたちの足音は、男どもにも聞こえる。彼女がその部屋に入る頃には、投げる行為を止めベッドに腰掛け、両手で顔を覆い、声を殺して泣いている伊豆海陽の姉の姿。


 荒い呼吸を整えながら、ジワリと彼女との距離を縮める、少女。

 その気配を察したのか、咄嗟に枕元にあった目覚まし時計を右手で掴み、投げつけようとする。が、腕を上げたまま止めた。

 彼女の行動を注視しながら静かに近づき、そして彼女の右腕を両手で優しく下ろす。そして包み込むように、顔を寄せ抱きついた。徐々に狂気は消え失せ、脱力していくのが分かったのだろう。耳元で囁いた。


「私はレイ、端上レイと言います。昨日お電話した者です。光姉さんに逢えて光栄です。……今日はお願いがあって、ここへやってきました。陽くんを助けるために。でも、そのためには、どうしても光姉さんの協力が必要なんです。……お話しを、聞いて頂けませんか? 」


 そのまま、ひと時、2人とも微動たりせず、姿勢を保つ。


「……うん」


 落ち着きを取り戻し受容する、姉がいた。

 レイはゆっくりと顔と身体を彼女から離し、次に両腕の上から下に滑らせ、手を取り、彼女の太もも辺りで両手を、結びつける。同時に片膝ずつ床に付けながら腰を落とし、顔を見上げるような姿勢で、話し始めた。


「陽くんは今、岡山空港の近くで待っています。危険を感じたので、ここへ連れてくることができませんでした。でも、安心してください。そこでは、私の友人が陽くんを護っていますから」


 少しだけ安心したように、まっ赤にした目で見つめてくる。


「お姉さんは、陽くんが何をしていたのか、ご存知ですか? 」


 頭を横に振る。


「陽は、私が質問しても、いつも『大丈夫だから。姉さんを護るために強くなるから』って言うだけでした。養父に問うても、『陽は優秀な子だ。警察のために少し手伝ってもらっているだけだから、安心しなさい』と言うだけです。

 私は、陽がどこで何をしているのか、また虐められてるんじゃないか、もしかして、悪いことをしてるんじゃないかって……陽が帰宅しない日は、不安で不安で夜も眠れませんでした」


 静かに聴いた後、意を決し語り出す。


「お姉さん、これからお話しすることは、信じてもらえないかもしれないけど、聞いてください」


 弟には、人の命を左右する不思議な力があること。自身にも転命という力があり、亡くなった母から受け継いだこと。全国に同じような力を持っている人がいること。人のために使う人がいること、悪いことに使う人がいること。そして、彼が悪い奴らの犠牲になったこと、などを伝えた。


「…………」


 すぐに信じられる内容ではない。適当な言葉が思いつかないようだ。ただ、目前の少女の目をジッと見つめ続ける。緊張がほぐれたのか、軽く笑顔を見せた。


「……レイさんの言葉を、信じるわ」


「ありがとうございます」


 満面な笑みを返す。しかし、すぐに笑顔は消え、うつむく少女は続けた。


「お姉さん、もう一つ、大事なお話しです。驚くかもしれませんが、冷静に聞いてください」


 先ほどの優しさはなく、暗く、今にも泣き出しそうな少女を見ていた。


「レイさん、もう大丈夫。私はあなたの言葉を受止めるわ。陽のために、こんな場所まで来たということは、重大な覚悟があってのこと。……陽に何かあったのね? 覚悟しなければならないほどの……」


 首を縦に振る。勇気を振り絞り、彼女の目を見て伝えた。


「陽くんは……昨日息を引き取りました。でも48時間以内なら、まだ間に合うんです。だから私たちは、お姉さんに逢うために、お願いするために、ここに来ました。……私の力は、亡くなった方を甦らせることが出来ます。

 ただ、そのためには命をかけられる人から、寿命の一部を貰わなくてはなりません。だから……だから、陽くんを生き返らせるために、お姉さんの寿命が必要なんです! お願いします! 私たちと一緒に、陽くんのいる場所に来てください! 」


 土下座した。

 その姿を見た男どもは、焦った。いや、驚嘆したというべきかもしれない。男どもだけではない。少女の姿を目前にした彼女こそ、驚愕の眼。自分の弟のために、他人が頭を下げているのだから、当然だろう。

 座っていたベッドから腰をどけ、そのまま同じ床に両膝をつけた。そして、両手で少女の上半身を起こしながら、声をかける。


「レイさんは、勘違いしています」


 再び、2人の目が合う。


「お願いするのは、私の方です。弟が、陽が生き返るのなら、私のいのちを捧げます。これまで弟に何もしてあげられませんでした。弟を危険な目に合わせたのは、私の所為です。私のいのちを、使ってください」


 弟想いの姉が額を床に付けるほどに、頭を下げた。


「お姉さん、頭を上げてください! 」


 彼女の肩に手をかけ、上半身を起こそうとする。少しずつ起こしながらも、俯いた状態で寂しそうに謝る、姉がいた。


「でも、ゴメンなさい。陽のいる所へは行けません」


「? ……なっ、なぜですか? 」



 

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