第95話 建毘師共連会議(2)
画面が切り替わり、1人の男の画像とプロフィールが表示される。
「LERDに関しては、この男、フリージャーナリストの柳刃公平、本名木戸駿平も調査しており、情報交換することになっている。
彼は独自取材で、全国で起きている事件から奉術師の存在まで辿り着いた人物。かなり執念深い性格だが、的を得た取材をしている。既にNSの監視対象になっているのも事実だ。彼とは偶然にて接触することになったが、忠告した上で、相互協力の関係となった。彼がコチラ側にいるほうが私たちにとっても、有利と判断した。
今回のLEADについても、誘致に関与していた議員から資料などを託されている。これらの画像も彼から頂戴した」
その施設についての説明を終えた総裁は、今後の調査を一穂に要請。
「調査するのは構わないが、そのラードという施設が、我ら一族の活動に支障があるのかを知りたい。行政レベルの施設であれば、それほど意識する必要もないと思うが……」
「それは今のところ……ただ弁護士からの情報では、奉術師の能力開発も計画の一つであると言うことです」
「その弁護士の情報は正しいんだろうなぁ? 」
「そのためにも確認する必要があります」
ディスプレイに映し出されたのは、伊豆海陽。
「NS側で活動していた伊豆海陽という16歳の少年。昨日NSによって処理されていますが、彼は最高レベルの術を既に備えていました。さらに建毘師のみが使用する静命術も使いこなしています」
「そこなんですよねぇ。誰が教えたんでしょうね!? 」
割り込む妹。
「分からん。倉瀬橋家が教えたのか、それとも別の人物なのか……ただ言えることは、静命術をNS側の奉術師が使い始めると、こちらも判断を誤ってしまう恐れがあるということ。奉術師の能力開発がどんなプログラムなのか、早急に把握する必要がある」
「そうそう、敬俊様。ご報告によると、その端上レイって娘の能力が予想付かないって。敬俊様でもそんなことがあるのですね」
冗談ぽく発言。
「るあ、私だってまだまだ知らないことが沢山ある。父上が常日頃からおっしゃっているように、我々も鍛錬しなければならない。彼女を見ていると、そのことを実感するよ。命毘師、端上レイの成長には目を見張るものがある。後数ヶ月もすれば、母菜摘殿の力を超えるだろう。いや、超えつつあるのかもしれない。昨日関東圏で感知されたヴィタールネスも、彼女から発せられたものだ」
「あれは、その娘のものだったのですか!? 」
驚嘆する、茉都華。東京にいた建毘師は、当然感知していた。
「ほ〜。して、なぜそんな力を? 」
敬山が訊ねる。
「はい、少々調べさせて頂きました。面白い事実です。偶然の賜物と言えるでしょう」
「なんですか、それは? 」
興味津々の月杏はワクワクな表情。
「彼女の母はご存知の通り、端上家に伝わる命毘師の血筋。転移によって引き継いだわけです。父秀秋殿は通常者、旧姓は榎本。菜摘殿とご婚姻される際、次男ということで、一人娘である菜摘殿の端上家の姓を継ぐことにしたようです。秀秋殿のお父上も婿養子で、旧姓上田。そのお父上も婿養子で、旧姓佐藤。大阪の佐藤くんとは遠戚であることが判明しました」
「え!? つまり、彼女の父親は建毘師の血筋!? 」
驚いているのは妹だけではない。
「そう。土御酉家の血縁ということになる」
「うっそぉーーー。まじですかあぁ!? 」
「調べた結果、そのように判明した。想像ではあるが秀秋殿はそのことを知らなかったと思う。菜摘殿の能力については事前に説明を受けて理解していただろうが、自らの家系の能力については家族からも知らされてなかったのだろう。実際、高祖父まで遡っても建毘師として活動した痕跡は見られない。だが、血筋として残り、秀秋殿と菜摘殿が出逢った。つまり、建毘師と命毘師の混血の子が、端上レイだということだ」
「確かに偶然だよなぁ」
腕を組む一穂。
「……じゃが、混血と能力度は、それほど関係ないと思うが……」
不思議がる敬山。
「確かに、奉術師同士の婚姻は以前からあることです。混血で能力が高まったという事実は稀と言えるでしょう。ですが、実際彼女の能力が高まっている理由は、それ以外に思い当たりません」
「……分かった。私も少し調べてみよう。だが、端上レイという娘だけに、一族が注力することは現段階で厳しいと言わざるを得ない。これまで通り敬俊、茉莉那、嵩旡3人で守護せよ」
「はい! 」
敬山に敬礼し、指示を出す敬俊。
「茉都華、澄怜叔母さんに東北、北海道をお願いし、お前は関東の奉術師とNSの動向に注力してくれ。それから、長男の叶夢君にはもう一つ、外務省と経産省官僚の動向を探って欲しいと伝えて欲しい」
「承知しましたわ」
「一穂殿、LERDの調査と新たな奉術師の調査をお願いします。それからNS側の奉術師の動きが怪しくなっています。監視の目を強化してください」
「了解! 」
「るあ、昨夜お願いした3人は助かる。それから、西で増えている事件の奉術師の関与を徹底的に調べて欲しい。これからも頼む」
「敬俊様のお願いなら喜んで、うふ」
「父上、それでは私は伊武騎に立ち寄り、岡山へ飛びます。……姉上にはよろしくお伝えください」
「うむ」
5人は解散。
敬山は、さらにエレベーターで地下六階まで下り、地下道から皇居へと向かう。茉都華は、そのフロアの別部屋で業務遂行。敬俊は、地下パーキングに停めてある愛車で、江戸川区にある伊武騎グループ東京本部へ向かった。
一穂と月杏は新幹線での帰路のため、地上に出、同じ方向へ。一穂が先ほどの月杏の態度を思い出し、ゲンコツを一発。
「何すんだ、てめぇ! 」
「てめぇじゃねぇ、三十路過ぎてんだから、少しは成長しろっ」
「パワハラだぁ〜! セクハラだぁ〜! 」
「残念だったなぁ。お前と俺は同じポジションだ。パワハラ、セクハラにはならねんだよ」
「はぁあん、わいより倍生きてるくせに、同じポジションとは情けねぇぜ」
「俺は出世に興味ねぇんだよ」
「自分の無能さを棚に上げて、よくそんなこと言えるなぁ」
「何だと、このガキぃ〜! 」
「うっせぇ、じじぃ〜! 」
新幹線に乗車するまで、このやり取りは続いた。




