奄美のリアル事件簿 『毒ガス汚染水!』
霞ケ浦を望む高台にある、運動公園横の遺跡調査をしている。
担当官のお話で、「市営公園の水道ですから、ご自由にお使いください。手を洗う程度は大丈夫、しかし飲まないでくださいね」と釘を刺された。
早速、作業員の皆さんに伝達。
しかし調査開始から一か月が経ち、暑い日がきて、飲んだ爺様がいた。
「うまい井戸水じゃわい」
井戸水で、飲んではいけない。遺跡は高台の上にある。こういう立地で飲んでいけない水というのは、思いあたる理由は一つ。そう、近くには、第二次世界大戦中に、旧日本海軍関係施設があり、毒ガス・マスタードの溶液の小瓶を地下に埋設。瓶が割れて地下水に溶け込んだという報道をだいぶ前に訊いたことがある。昨今まで、地域住人は、井戸水を使っていたのだけれども、マスタードガスの事件があってから、水道水に切り替えたというではないか。
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マスタードガスは人体を構成する蛋白質やDNAに対して強く作用し、皮膚を焼き、造血器や腸粘膜にダメージを与え、遺伝子に障害を与え、発癌作用まである。
一八五九年、ドイツの化学者アルベルト・ニーマンにより開発され、翌年彼は中毒死する。
一九一七年、第一次世界大戦でドイツ軍が実戦使用。
一九九〇年代、サダム・フセイン治下のイラクが、山岳民族クルド人に対して、使用し虐殺した。
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やばい。非常に、やばい。
蒼白になった私は、関係者に訊いてみた。
〈もしもし、奄美ですが、運動場の水道って地下水ですか?〉
〈地下水ですよ〉
〈その件ですが、実は作業員さんの小父さんが飲んじゃいましてね。毒ガス溶液とかの地下水汚染の心配
はありませんか?〉
〈ああ、運動場の芝生に水をやる程度なので、水道局の検査をしていないのです。念のため、飲まないほうがいいということですよ〉
よかった……。
了




