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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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第216話 王喰領域突入

地下都市西区画への扉が開いた瞬間、空気が変わった。


それは温度でも湿度でもない。


“世界そのものの密度”が変化したような違和感だった。


アルベルトは最初の一歩を踏み出した瞬間に理解する。


ここはもうダンジョンではない。


空間だ。


そして記録だ。


生きているものではなく、書き換えられ続ける“構造体”そのものだった。


背後には忘れられた洞窟の幹部達が続く。


ヴァルグラン、影王、アダプト皇王、夜狼王直属の残存戦力たち。


さらにその横には学園からの増援が並ぶ。


ベルク、ミレイ、そして戦術班。


これまで別々の場所で戦っていた勢力が、初めて同じ空間に立っていた。


それでも誰も油断していない。


むしろ全員の視線は一点に集中していた。


前方。


黒い空間の奥。


そこに“王喰領域”が広がっている。



ミレイが静かに周囲を観察する。


彼女の視線はすでに通常の人間のそれではなかった。


床の魔力流、空間の歪み、記録構造の癖。


それらを瞬時に読み取っている。


「ここ、時間の流れが一定じゃありません」


リリスの気配がないまま、彼女はそう言った。


アルベルトが横目で確認する。


「分かるのか」


「はい。記録構造が“再生と固定”を繰り返しています」


ベルクが続ける。


「王喰領域は、空間ではなく“記録再生装置”に近い」


その言葉で全員の理解が揃う。


戦場ではない。


ここは“再現された過去と未来が重なっている場所”だった。



進行するたびに風景がわずかに変わる。


ある瞬間は冥府回廊。


ある瞬間は研究施設。


そして別の瞬間には、知らない戦場。


現実が一枚ではなく、何層にも重なっている。


アダプト皇王が低く呟く。


「これは……記録の海だな」


ヴァルグランが拳を握る。


「殴りづれぇ空間だ」


影王は既に影へ沈んでいるが、その影すらわずかに揺れている。


夜狼王の気配はない。


だが“近い”という感覚だけが残っている。



終号が静かに反応する。



王喰領域安定化進行中

統合構造87%



その表示を見てアルベルトは足を止めた。


「もうすぐ完成か」


ミレイがすぐに反応する。


「完成ではありません」


「再固定です」


「この領域は常に“完成し続ける”構造です」


その言葉に空気が重くなる。


完成したものではない。


完成し続けるもの。


だから壊せない。


壊しても戻る。



その時だった。


空間の奥で“音”がした。


ゴォン、と低い振動。


全員が同時に構える。


次の瞬間、黒い影が空間を横切る。


速い。


だが攻撃ではない。


観測。


アルベルトは即座に理解する。


「来てるな」


ベルクが剣を抜く。


「戦闘個体です」


影が再び現れる。


今度は複数。


だがどれも形が曖昧だった。


狼のようであり、人のようであり、魔物でもある。


終号が解析を試みるが、すぐに止まる。



解析不能

記録干渉領域



ミレイが息を呑む。


「これ……全部“記録”です」


「実体じゃない」


ヴァルグランが前に出る。


「なら壊せるな」


一歩踏み出した瞬間だった。


影が“確定”する。


現実に固定される。


そこに立っていたのは、かつて戦ったことのある魔物だった。


鉄槍将軍。


白銀飛竜。


雷鳴大蛇。


そして――


かつて倒したはずの個体達。



ベルクが目を見開く。


「再現だと……?」


アルベルトは短く言う。


「違う」


「記録の再演だ」


つまりここでは“倒したものが再び出てくる”。


しかも強さは変わらない。


敗北したはずの過去が、戦力として再配置されている。



ヴァルグランが笑う。


「めんどくせぇな」


影王が動く。


一瞬で鉄槍将軍の背後へ。


だが刃は届かない。


当たった“ことになる前に”ずれる。


ミレイが叫ぶ。


「結果固定型です!」


アダプト皇王が即座に理解する。


「因果が逆だ」


「攻撃が結果を決めるんじゃない」


「結果が攻撃を選ぶ」



アルベルトは静かに頷く。


「つまり……戦闘じゃない」


「選別だ」


その言葉で全員が理解する。


ここでは“勝つ動き”だけが通る。



その時だった。


空間の奥でさらに大きな反応が現れる。


終号が警告を出す。



中枢反応

王喰コア接近



空間が裂ける。


そこから現れたのは――


夜狼王の気配だった。


しかし“本人”ではない。


構造としての夜狼王。


そしてその隣に、もう一つの意識。


リリスの記録波形。



ミレイが固まる。


「これが……」


アルベルトが静かに言う。


「王喰の完成形だ」


そこには夜狼王とリリスの“存在痕跡”が融合していた。


意思ではない。


記録でもない。


構造そのもの。



夜狼王の声が響く。


「戻れ」


リリスの声も重なる。


「ここにいろ」


矛盾した二つの命令が同時に流れる。


そして空間は揺れる。



ヴァルグランが前に出る。


「もういいだろ」


「殴れば終わる」


だがアルベルトは止める。


「違う」


「これは戦闘じゃない」


「再構築だ」



アダプト皇王が言う。


「なら方法は一つだな」


「構造を書き換える」


影王が静かに頷く。


ベルクが剣を構える。


ミレイも魔法陣を展開する。



アルベルトは前に出る。


そして言う。


「王喰」


「お前は完成しすぎた」


「だから壊す」


その瞬間、空間が静止する。


記録が止まる。


再生が止まる。



そして――


初めて“揺らいだ”。


王喰領域が反応する。



構造干渉検出

未知干渉発生



アルベルトは静かに笑った。


「やっとだな」


戦いではない。


これは“記録との対話”だった。


そして今。


その対話が始まった。

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