第215話 学園連合
地下都市西区画へ向かう前夜。
忘れられた洞窟の中央広間には、いつもと違う緊張が満ちていた。
終号の画面には、王喰領域の解析が表示され続けている。
その中心にある二つの反応。
夜狼王。
リリス。
どちらもすでに王喰内部へ取り込まれたまま、戻っていない。
それは事実として確定していた。
アルベルトはその表示を見つめたまま言う。
「救出じゃない」
「構造破壊だ」
誰も否定しない。
◇
その時だった。
空間が揺れる。
転送ではない。
学園との強制接続。
中央広間の一部が書き換わるように光り、複数の人影が現れる。
先頭に立つのは調査局ベルク。
そしてその隣に――ミレイがいた。
リリスの補佐役として何度も関わってきた人物であり、王喰調査に最も近い学園側の存在だ。
ミレイは周囲を一度見渡すと、すぐに状況を理解したように息を吐いた。
「やはり、ここまで来ましたか」
リリスはいない。
その事実だけが空間の重さを増す。
ベルクが一歩前へ出る。
「学園は正式に介入します」
「王喰は個別ダンジョンの問題ではありません」
「構造災害として扱われます」
その言葉に誰も反応を返さない。
すでに“戦いの規模”ではないことを全員が理解していた。
ミレイは静かに続ける。
「王喰は記録系統の暴走構造です」
「夜狼王とリリスの同時消失も、偶然ではありません」
アルベルトが視線を向ける。
「知っているのか」
「はい」
ミレイは短く答えた。
「学園記録にも“記録妖精系統”と“王候補系統”の同時消失事例が残っています」
その言葉で空気が変わる。
リリスの存在はまだここにない。
だが“記録としては存在している”。
◇
ベルクが地図を展開する。
地下都市西区画。
王喰領域。
拡張予測図。
それはもはやダンジョンではなかった。
侵食する構造体だった。
ヴァルグランが低く言う。
「戦争じゃねぇな、これ」
「違う」
アダプト皇王が続ける。
「構造だ」
アルベルトは頷く。
「だから壊す」
◇
ミレイが一歩前に出る。
「私も同行します」
ベルクが一瞬だけ目を細める。
「危険だぞ」
「分かっています」
即答だった。
迷いはない。
彼女の視線は王喰領域のデータに向いている。
そこには“未回収記録”の文字がある。
それはリリスと夜狼王の痕跡だった。
◇
終号が静かに表示を出す。
学園戦力接続率:94%
構造干渉可能領域:拡張中
アルベルトはそれを見て立ち上がる。
「行くぞ」
その言葉で全員が動き出す。
忘れられた洞窟。
学園連合。
そしてミレイ。
それぞれの立場は違う。
だが目的は一つだった。
王喰という“完成した構造”を崩すこと。
そしてその中に残された夜狼王とリリスを取り戻すこと。
◇
扉の前。
アルベルトは静かに手を置く。
「これは戦いじゃない」
「修正だ」
ミレイが小さく頷く。
「記録の更新ですね」
「そうだ」
ヴァルグランが笑う。
「めんどくせぇ話だな」
影王は黙ったまま影に沈む。
アダプト皇王は一言だけ言う。
「全部崩す」
その言葉で十分だった。
扉が開く。
その先には地下都市西区画。
そしてさらに奥には、王喰という“完成してしまった世界”が待っている。
彼らはそこへ踏み込む。
取り戻すために。
そして終わらせるために。




