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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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第1話 配属先なし

王立ダンジョン管理学園の卒業式は、世間一般のそれとは少し違う。


卒業証書を受け取って終わりではない。


卒業生たちにとって本当に重要なのは、その後に行われる継承先の発表だった。


どのダンジョンの主になるのか。


それによって人生は大きく変わる。


上位ダンジョンを継げば、豊富な資源と強力な配下が待っている。


逆に下位ダンジョンを継げば、待っているのは苦しい運営だ。


そして継承先すら決まらなければ――ダンジョンマスターへの道は閉ざされる。


今年の入学生は百名。


だが三年間を生き残り、卒業まで辿り着いたのはわずか二十四名だった。


講堂に並ぶ二十四人の表情は様々だ。


緊張している者。


自信満々な者。


祈るように手を組んでいる者。


そんな中で、一人だけ場違いな男がいた。


アルベルト・クロイツ。


彼は卒業式の最中だというのに、本を読んでいた。


膝の上に置かれた分厚い魔物図鑑。


何度も読み返した愛読書だ。


「お前な……今読むか?」


隣の席の生徒が呆れたように声を掛ける。


アルベルトはページをめくりながら答えた。


「発表まで暇だからな」


「普通は緊張するんだよ」


「結果はもう決まっている」


「そういう問題じゃないだろ……」


隣の生徒は諦めたようにため息を吐いた。


アルベルトは昔からこうだった。


魔物のことしか頭にない。


授業が終われば図書館。


休日も図書館。


暇さえあれば魔物図鑑を開いている。


学園中に知れ渡るほどの魔物好きだった。


前方の巨大な魔導スクリーンには、現在のダンジョンランキングが映し出されている。


第一位《天界の塔》


第二位《深淵魔城》


第三位《黄金樹海》


そして最下部。


第九百九十八位《忘れられた洞窟》


世界には九百九十八のダンジョンが存在する。


かつては千あった。


だが九百九十九位と千位のダンジョンは昨年消滅した。


ダンジョンの消滅自体は珍しくない。


順位の低いダンジョンは毎年のように姿を消している。


だからこそ順位は重要だった。


順位が高ければ支援が増える。


順位が低ければ衰退する。


それがこの世界の常識である。


「それでは継承結果を発表する」


壇上の教官が静かに告げた。


講堂の空気が張り詰める。


発表が始まった。


「第九十三位《白銀渓谷》」


歓声が上がる。


名前を呼ばれた生徒が立ち上がり、深く頭を下げた。


上位百位以内。


誰もが羨む継承先だ。


その後も次々と発表が続く。


百五十位。


二百位。


三百位。


人気ダンジョンの名前が呼ばれるたびに歓声が起きる。


やがて二十三人目の発表が終わった。


講堂に拍手が響く。


そして静寂。


残っている卒業生は一人だけだった。


教官が最後の書類を手に取る。


「アルベルト・クロイツ」


その瞬間。


講堂の空気が少しだけ変わった。


苦笑。


失笑。


同情。


様々な感情が混じった視線が集まる。


理由は誰もが知っていた。


アルベルトの天職だ。


「総合順位十七位」


教官が読み上げる。


悪くない順位だった。


むしろ優秀な部類に入る。


「剣術十五位」


「魔法理論二十一位」


「ダンジョン運営学十九位」


突出してはいない。


だが安定している。


しかし次の言葉で講堂から笑い声が漏れた。


「魔物生態学首席」


「出たよ」


「そこだけ一位」


「魔物オタクだからな」


アルベルトは否定しない。


その通りだった。


魔物は面白い。


生息地で性質が変わる。


進化先も変わる。


同じ種族でも環境次第で全く別物になる。


知れば知るほど奥が深い。


だから好きだった。


そして、その知識を活かしたいと思った結果――彼は【配合士】になった。


教官が続ける。


「アルベルトの継承希望先は九件」


講堂が少し静かになった。


九件。


総合十七位なら十分な数だ。


「選考結果を発表する」


教官が一枚目の書類を見る。


「不採用」


小さな笑い声が起きた。


二枚目。


「不採用」


三枚目。


「不採用」


四枚目。


「不採用」


五枚目。


六枚目。


七枚目。


八枚目。


九枚目。


すべて不採用だった。


講堂がざわつく。


「全部かよ……」


「そこまで嫌われるのか」


「配合士だしな」


配合士。


魔物同士を掛け合わせ、新たな魔物を生み出す天職。


だが世間の評価は低い。


配合は成功率が低い。


素材が消える。


結果も読めない。


膨大な知識が必要。


そして失敗すれば全て無駄になる。


長年の研究によって法則は見つかっているものの、未解明な部分も多い。


そのため多くのダンジョンマスターは配合士を敬遠していた。


金がかかる割に成果が安定しないからだ。


教官は最後の資料を持ち上げた。


「ただし」


講堂が静まる。


「継承者が決まっていないダンジョンが一つだけ残っている」


嫌な予感が走る。


そんな空気だった。


教官は資料を読み上げた。


「第九百九十八位《忘れられた洞窟》」


誰も笑わなかった。


その名前は有名だった。


悪い意味で。


実質最下位。


そして最大の特徴は別にある。


教官が続ける。


「最後のダンジョンマスターが死亡したのは三十一年前」


講堂が静まり返った。


「以降、継承者なし」


誰もが知っている話だった。


継承者がいないダンジョンは通常、一年以内に消滅する。


管理者を失えば衰退するからだ。


だが。


忘れられた洞窟は違った。


三十一年間。


誰も管理していない。


誰も継承していない。


それでも存在し続けている。


理由は不明。


協会も調査した。


学者も調査した。


結果は分からなかった。


ただ一つ確かなのは。


実質最下位でありながら、なぜか消えないということだけ。


「受けるか?」


教官が尋ねる。


普通なら断る。


誰もがそう思った。


しかし。


アルベルトは資料から目を離せなかった。


三十一年間。


管理者なし。


それでも存続。


そんなダンジョンは聞いたことがない。


彼の頭の中では既に別のことが始まっていた。


なぜ消えないのか。


何があるのか。


どんな魔物がいるのか。


未知の生態系が存在するのではないか。


好奇心が次々と湧いてくる。


そして気付けば口が動いていた。


「継承します」


講堂がどよめく。


だがアルベルトは気にしない。


強いダンジョンだから継ぐのではない。


有名だから継ぐのでもない。


ただ知りたいのだ。


そこに何があるのかを。


こうして。


二十四人の卒業生の中で唯一、全ての継承先に落選した青年は。


世界で最も不思議な最下位ダンジョンの主となった。


その時のアルベルトはまだ知らない。


忘れられた洞窟の奥深くに眠る、紫色の小さな欠片が。


やがて世界の常識を覆す最初の配合材料になることを。

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