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幸運のお守り

氷風のダンジョンは攻略された。

すでに離れの雪原にその姿はない。


ミササギはあの1週間前の出来事を、今でも鮮明に思い出せる。


(楽しかったなー)


と、思った。普段おしゃべりなミササギが心の声に留めているのは、今ここにいる場所が関係している。そして目の前にいる髭面のお爺ちゃんも。


「して、タカラ・ミササギよ。勇者ウィンドル一行は、すでに魔王城へ立ち入ったようだぞ?」


お爺ちゃんはとてもイラついている。金の玉座の手すりの部分を人差し指でずっと叩いている。


玉座に穴でも開けたいのかな?

雨垂れ石を穿つってねはははははははは。


「———余は、言ったはずだが?」


ミササギはウィンドル一向が魔王城へ向かうことを妨害しなかったことについて、オワリノ帝国の皇帝から直々にお叱りを受けている。


お叱りというか、言葉を間違えれば投獄的なあれだ。


至近距離の衛兵が、暴力沙汰も厭わないことを雄弁に物語っている。


残念ながらマジックアイテムの持ち込みはできなかったし、久しぶりになんの魔法もかかっていない服を着て、なんだかスースーする気持ちだが、不気味に動くミササギの影だけが、(残念なことに)ミササギの安全を保証してくれている。


何を隠そうあのボス猫だ。イジーだ。


〈おいおい、おい。ミササギぃ、アイツ高血あちゅで、おっ死ぬんじゃないのぉ?〉


こいつはダンジョンボスではないため、攻略されても消えることはない。というか何の影響もないらしい。


ミササギの影からぬるーと、バレない程度に顔を出しては皇帝の顔を笑った。


〈早く家帰ろうよぉ、適当に脅せばいいんだろぉ?〉


簡単に言う、が、一芝居打つ以外に投獄を確実に免れるような方法は思いつかなかった。どうせ皇帝からの報酬はたんまり貰っているので、今更どうということはない。

ミササギ達としては、魔王になるまで捕まらなければ皇帝のご機嫌取りなどどうでもいい。


「…イジー、できるの?」

〈アタシ、魔族だよぉ?〉

「僕の名誉に傷がつかない感じで」


ミササギの心配性に呆れながらも、イジーは猫の姿でぴょん、と影から飛び出した。


「何者だ!!」


衛兵は優秀なため、猫とミササギを取り押さえる。しかし、猫が骨格からかけ離れた動きをするとは思わなかったようだ。槍から剣から、ぬるりと移動して、皇帝の玉座へひとっ飛びする。


ミササギは両手をあげて、突如現れた猫に驚くフリをした。


「うわーー!なんだこの猫!」

「ミササギ!貴様の猫だろう!」


皇帝が叫び声を上げると、その膝に座るイジーは右手を伸ばしてミササギの頬を掠めた。


〈心外、しんがいだなぁ。オメーらバカか?こんなちんちくりんに、飼われてるわけがぬわーいだろうにぃねぇ〉


ミササギの頬についた赤い線からは気前よく血液が流れる。


「ほらみろ衛兵。余計な刺激をして僕が死んだらどうするのさ」


衛兵は1人を残して渋々ミササギから離れた。流石に全員引くことはないようだ。


〈王様ってーから、もっと賢いのかと思ったよぉ。きたいはずれ。ビンゴなんて叶わないねぇ。殺しちまおーか〉

「な、何をしてる!早くこいつを殺せ!!」


ミササギは気が動転して慌てて逃げる、フリをした。

命が狙われる皇帝に集中している衛兵の中を掻い潜ることは容易い。


「うわーーーアイツは危険だ!逃げろー!」


すたこらさっさと、逃げました。


〈皇帝サマーはもう飽きた!あの商人に着いててやるよぉ!〉

「ああそうだ!あっちに行け!」

〈アタシ、オメーの顔見たく、ないないから。2度と会わないようにして、ね〉


皇帝イベントを回避した、そんな日の午後。


ハイヤーは酒場に戻らなかった。きっと和解が済んだのだろう。ジェフは小旅行に行ってくると言っていたために、この街にはいない。


ダンジョンから帰って来てからすぐに、酒場に置いていた財産とマジックアイテムを、ダンジョンを建てるために購入した土地に、ついでに家も建ててそこに移動させた。

転生して5年。やっと手に入れた持ち家だ。


「あーひろーい」

〈今のうちに堪能してけよぉ〉

「イジーは僕を魔王にする準備とかしなくていいのかな?」


ミササギは己の豪邸の広い玄関に寝そべった。もう疲れたから動きたくない。


〈準備だなんて、ねぇ。剣をさ、けんをさ、直前で奪っちゃえばいいじゃんね〉

「僕はウィンドルに筋力で負けると思うけど…」

〈あほんだら。んなこと言ってないない。さっきみたく、びっくらポン!させたらいんだよぉ〉


つまり驚かせて隙を突く、ということだろうか。

警戒度MAXの魔王城、しかも直前ということは魔王の前でそれが通じるものか。

絶対無理。


〈確実に驚く方法あんでしょお〉


ないでしょう。心当たりもないでしょう。


〈勇者の目の目の前に、ポップすれば良いんだよぉ。オメーのスキルでな〉

「…いや、僕のスキルはランダムだけど?」


思わず起き上がってしまった。そこまでピンポイントに行けるはずがない。氷風のダンジョンは偶然たまたまの奇跡だ。

所詮、ミササギが所持している物を、欲している人のところへ移動するというだけのスキル。

買い被ってもらっちゃ困る。


イジーは寝転がるミササギの上に乗っかり、肉球のない足でミササギの目を踏んだ。


〈勇者の剣のカケラがあるからできんだよ〉

「……一体何の話」

〈オメーのポッケからじわ〜り感じてるのさぁ。ちゅーか、勇者の剣の気配を感じたから、オメーらの対応してやったんだからなぁ〉


ミササギは閃いた。今更だが、氷風のダンジョンの攻略法について疑問に思っていたのだ。


スタート地点に戻るが攻略法だったが、実はそれはすでに先遣隊の生還者が失敗した方法だった。あの時は何も聞かずに試したが、よくよく考えればおかしい。


「…もしかして、勇者の剣持ってる人にしか攻略させる気無かったの?」

〈アタシはそのために、ためだけに、ダンジョン作ったからねぇ〉


ドンマイ、先遣隊。


そうなると、ユラディカとミスター・ボックスはどうやって分かったのかと思ったが———方や、魔法の天才。方や、アイテム作りの天才。

2人の考え方がミササギたちに分かるはずもない。


「はぁ…僕はやっぱズルしないと勝てないね。で、ポッケだっけ?…ええと、というかポケットには———」


返さなければと思っていたが、すっかり忘れていた品がある。


“防御貫通のダメージが与えられる針”だ。

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