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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第213話 神だと知らずに、使い続ける



朝だった。

正確には、

この星のどこかで「朝と呼ばれている時間」が、同時多発的に始まっていた。

パンを焼く家があり、

工房の炉に火が入る街があり、

夜勤を終えた兵士が、疲れた顔で鎧を脱ぐ国もある。

そのどれにも、神の姿はない。

ただ――

空が、少しだけ明るかった。

雷雲はない。

嵐もない。

だが、遠くで「パチッ」と小さな音がして、

街の端に張られた導線が、静かに光を通した。

「……よし、今日も動いてるな」

誰かがそう呟く。

それは祈りではない。

感謝でもない。

ただの、確認だった。


北のガレオンでは、

兵器工房の奥で、職人たちが忙しなく動いていた。

「朝一の起動、問題なし」

「昨日より安定してるな」

「雷の日じゃなくても、出力落ちなくなったぞ」

誰も「神」なんて言葉は使わない。

雷は、

もう「資源」だった。

危険で、強力で、

でも正しく扱えば、便利なもの。

「昔はよ、雷なんて落ちたら祈るしかなかったんだぜ」

「はは、今じゃ雷待ちなんて非効率すぎるだろ」

笑い声が上がる。

その足元を、

細い光が走った。


南のノアリスでは、

議会の建物の裏手で、技師たちが頭を突き合わせていた。

「やっぱりこの構造だと、雷の偏りが出るな」

「神殿式じゃない分、安定化に知恵がいる」

「……神殿式って言うなよ。誤解される」

苦笑が混じる。

ここでは、

雷を神に結びつけること自体が、少し古い感覚だった。

「でもさ」

若い技師が、ふと口を開く。

「誰が最初に“雷を使おう”なんて考えたんだろうな」

一瞬、沈黙。

「さあ?」

「昔の誰かだろ」

「名前なんて残ってない」

それで終わりだ。

雷は、

もう“誰かのもの”ではない。


天界では、

統括が円卓の端に座って、その様子を眺めていた。

「……使ってるなぁ」

感心とも、呆れともつかない声。

隣でウェスタが、書類をめくりながら答える。

「ええ。かなり自然に」

「祈ってないよな?」

「祈っていませんね」

統括は、少し考えてから笑った。

「いい傾向だ」

雷の流れは安定している。

世界への負荷も、許容範囲。

雷の神――

その存在は、もう“表に出る必要がない”。

「名前、出てたぞ」

統括が言う。

ウェスタは顔を上げる。

「……どこでです?」

「市場だ。誰かが言ってた」

「“雷の神ゼウス”って」

一拍、間が空いた。

「何でバレてるんだ?」

「さあ……」

ウェスタは少しだけ困ったように笑う。

「この星の種族なら、知らなくても感じるんじゃないですか」

「……勘が良すぎる」

そう言いながらも、

統括の声には怒りはなかった。

むしろ、どこか納得している。

「でもさ」

統括は続ける。

「呼んだところで、祈らない」

「頼らない」

「文句は言うが、責任は自分で取る」

「はい」

「だったら、もういい」

雷は今日も落ちる。

誰かを導くためではなく、

誰かに命じられることもなく。

ただ、

使われるために。


下界では、また一つ、スイッチが入る。

灯りがともる。

機械が動く。

人々は前を向く。

誰も気づかない。

それが神の力だということも、

神が、そこにいるということも。

だが天界から見れば――

それは、はっきりと分かる光景だった。

「……神だと知らずに、使い続けるか」

統括は、椅子にもたれた。

「上出来だな。ほんとに」

雷は鳴らない。

神話も生まれない。

それでも世界は、

昨日より少しだけ、前に進んでいた。


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