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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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激突 聖女

明朝。空ももうすぐ明るみ出すような時間。

使用人達もそろそろ起き出し、仕事の準備に取り掛かるような時間。


マギカ辺境伯家の庭園裏手に、一つの人影が現れた。真っ黒なローブで身を隠し、周囲を警戒するように辺りを確認している。

そして周りに誰もいないと分かると、庭園の真ん中に立ち、何かの魔法を行使する。


その直後だった。


「失礼します」

「ッ!?」


人影の真後ろに一人のメイドが立ち、纏っていたローブを剥ぎ取った。

現れる、ストロベリーブロンドの髪が跳ねる。


「り、リフィさんでしたか〜、ビックリしました〜」

「おや、不審者の正体はディアナ様でしたか」

「ふ、不審者なんて〜、酷いですよ〜」

「いえ、不審者で間違いありません──そうですね、マエリスお嬢様?」

「えっ!?」


リフィの視線の先に、まるで空中から現れるかのように、車椅子に乗った幼女が姿を現す。


「な、何で──」

「悪いけど、迷彩色程度で目を誤魔化そうとする君とは光の次元が違うんだよ」


光属性は父であり賢者のミシェルの得意属性であり、かつマエリスがマノンのために取り組んだ属性だ。最も扱いに長けた属性と言っても過言ではない。


光を屈折させて、姿を隠すなど容易だ。明るければ、空間が歪んでいることにディアナも気づけただろう。


「で、でもマエリスさんは朝が弱いですよね〜? 見間違えっていう可能性は──」

「ないね。だってボクもリフィも昨晩からずっとここにいたもん」

「え」

「あぁ、寒いし苦い!」


マエリスはペッ、と口の中の物を吐き出す。それはギザギザした肉厚の葉だ。

同時にリフィも、同じ物を口から出して捨てる。


「徹夜を強要されるとは、主人の横暴にポロリと退職届を出してしまいそうです」

「ボクも一緒に耐えたからセーフで」

「ではマエリスお嬢様も退職ですね」

「何からさ」


軽口を叩きながらも、マエリスはディアナを睨みつける。


「さて、それじゃあディアナ、教えてもらおうかな。マノンが立ち寄る場所に、闇属性(・・・)の魔法を仕掛けて何がしたいのか」

「ッ!?」


明確に、ディアナの顔が強張ったことで、マエリスはカマかけが成功したことを悟った。

闇属性──伝説の魔王も使っていた、破壊を司る属性だ。


「羨ましいなぁ、希少属性の二つ持ちなんて」

「な、何で私が闇属性を使ってるなんて──」

「方法を教えるつもりはないよ。でもここはマギカ辺境伯領で、ここは賢者の屋敷──どんな魔法の仕掛けがあるんだろうね?」

「──だから私は反対だったんですよ〜。も〜最悪ですね〜★」


ディアナの口調はそのままだが、今まで被っていた皮を捨てたかのように雰囲気が変わる。


「でも〜、それが何になるんですか〜? 私は聖女で〜、皇帝陛下でも手出しができない存在ですよ〜? たとえ陛下に直訴したところで〜、動いてくれないと思いますけど〜?」

「上を落とすのは、いつだって民衆だよ」

「?」

「『近代の聖女は闇の力が使える』──とても面白そうで、広がりやすそうな噂だと思わない? それを果たして、一度の嘘も、矛盾もなく切り抜けられるのかな?」

「ッ!」


余裕ぶっていたディアナの顔が歪む。


「聖女を落とすのに法は要らない。世論の操作で、教会の権威ごと落とせるんだよ──そして今は、ボクのお願い一つで噂がバラ撒かれる、その寸前」

「つまり〜、マエリスさんさえ黙っていればいいと〜?」

「あるいは、君が全面降伏すれば、避けられる未来でもある」


一触即発の空気──否、嵐の前の静けさ。

その均衡は、ディアナの周囲に現れた闇の球体が、マエリスを守るように現れた白銀の要塞が崩す。


「命は取らないであげます〜★」

「君も、遠慮なく泣き喚いていいよ!」


球体から伸びる闇の槍。光さえ飲み込む槍が通過すると、音も衝撃もなく花壇が抉れる。

それをマエリスはホバーの動きで回避し、容赦なく風魔法を起動、シリンダーを圧排し拳を飛ばす。

ディアナが後ろに避け、拳は石畳を粉砕した。


「何ですかそれ〜! 反則ですよ〜!」

「君の闇属性も大概だろ!」


そして始まる魔法と物理の応酬。突き出される幾本もの闇の槍をマエリスは避け、隙を狙って拳を叩き込む。


「リフィさんを呼ばなくていいんですか〜?」

「ボクにしかわからない、ボクの理論で君を追い詰めてるんだから、ボクが決着させるのが筋でしょ?」

「律儀ですね〜、余裕そうでムカつきますね〜★」

「お姉ちゃんだからね、妹の模範でいないと!」


ある程度の小回りが利くとはいえ、図体が大きいマエリスの『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』。ディアナの立ち回りに被弾を余儀なくされる。


「おもちゃが壊れちゃいますね〜★」

「かもね!」


それをマエリスは、あえて正面から行く。被弾覚悟の突撃に、盾として構えられた腕は穴だらけにされたが、壊れるには至らなかった。


「そんな〜!?」

「やっぱり、魔力の通うものには抵抗があるね!」


砂だけが消え魔法陣が残った現象からの推測が当たり、マエリスは笑う。

そして無事な方の腕を、正面から打ち出した。


しかしそれは、闇属性ではない光る壁に遮られる。


「は!?」

「私は聖女ですよ〜? 聖属性も使えます〜★」

「本当にずるいなぁ! ボクは詠唱が使えないのに!」

「詠唱なしで結界にヒビを入れられた私の立場は〜?」


そうして、段々とマエリスが追い詰められていく。

触れたものを消す闇の槍と、絶対に通さない聖なる結界。

それをどちらも無詠唱で扱い、マエリスを追い詰めるディアナは、一人の魔法士としても優秀だった。


「ッ、しま──」

「寸止めに失敗したらごめんなさいね〜!」


結界で退路を断たれ、その隙に槍が放たれる。

万事休すか──


「これがただの乗り物ならね!」


緊急脱出機構作動。マエリスは暴風に巻き取られ、上へ吹き飛ばされる。

そして上空で魔法陣を起動──新たな『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』を構築し、上からディアナへ拳を突きこんだ。


破砕音が鳴り響くが、結界にはヒビまでで、貫くには至らない。その結果に安堵するか、予想していたかで勝敗は分かれた。


すかさず放たれる第二撃。それがビビを捉え、結界を打ち砕く。


数トンに及ぶ金属塊が、ディアナ目掛けて落下する。咄嗟に放たれた闇の槍は数十キロ分削る程度の抵抗しかできなかった。


潰される──そう思ったディアナは目を瞑り──ゴチンと、頭に衝撃を受ける。


「痛っ!?」

「痛〜い!」


尻もちを付き、頭を抱えて悶絶をする両者(・・)


「うぅ──あ! ボクの勝ちだね!」

「は〜? 今ここであなたを撃てば私の勝ちです〜!」

「この瞬間にあの金属塊をまた降らしてもいいんだけど?」

「ひっ、う、うぅぅぅ〜──分かりました〜! 私の負けです〜!」


不承不承に、ディアナは負けを宣言する。

戦っていないが、リフィがこの場に居ることが決め手だった。


「お見事でした、マエリスお嬢様──お嬢様、足に怪我を!?」

「え? あー……」


リフィに言われてマエリスが自分の足を見れば、甲の肉が抉れて、ドクドクと出血をしていた。


「最後に、槍が掠ってたかな……さすがにこの傷は痛むなぁ……ディアナ、治して」

「……私〜、足の怪我は治せない〜って言いましたけど〜?」

「えー……どうしよう」

「とりあえず消毒しますね〜★ いっぱい消毒液をかけてあげますね〜★」

「この敗者諦めが悪いね!?」


この後、医務室でマエリスの悲鳴が響いた。

お読みいただききありがとうございます。


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