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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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真紅の激昂

 ”矢の雨が灼熱の炎で灰になった”


 笑われるような、されど圧倒的な生物を超えた力を目の当たりにした一行に、焦りの影が差す。


 青白く噴き上がる炎を纏ったまま、番犬は狂気を宿した眼で射手たちに目を向けた。


 悍ましい殺意に狂った視線を浴び、射手たちは一斉に怯え竦んだ。


 ”ガルゥァアアアアアアアアアアアアアアア!”


 ダン、と後肢を蹴り出して、三ツ首を揺らしながら番犬が跳びあがる。


 射手たちは蟻の子を散らすように、その場から離れた。


 そんな射手たちの後ろに控えていたのは、ローブを着用した魔術師たちの集団。


 カレンやジーニアを筆頭に組まれた魔術師たちの杖の先が、全て番犬に向いていた。


「アクアバースト! 」


「サンダーバレット! 」


「エアリッパー! 」


「シャインバースト! 」


「ダークネスバレット! 」


 数多の魔術師たちの声が空洞内に反響し、一斉に響き渡る。


 さながら聖歌の合唱のようだ。


 杖の先から魔術の弾や刃が次々と放たれ、極彩の弾幕が番犬に襲いかかる。


 水が弾け、雷が舞う。


 風が牙を剥き、光と闇を濃縮した光球が次々と番犬に着弾していった。


 ”グギュルゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ!”


 複数の魔術が絡み合う天変地異の真っ只中に巻き込まれた番犬は、魔術の嵐にその身をすり潰されていく。


 嵐は跳び上がった三ツ首の番犬を押し返し、その巨軀を黒い窯壁に叩き込んだ。


 ドシンという衝撃が、洞窟を揺らす。


 番犬が黒い地面に叩き込まれ、怯んだように姿勢が崩れた。


 そんな三ツ首の番犬へと向かう影が一つ。


 透き通った紅玉のような瞳を真っ直ぐ三ツ首の番犬に向けていた。


 破片と共に地上に落ちた番犬に止めを刺そうと、赤いサイドテールの少女が大剣に炎を灯し、魔術師たちの間から駆け抜けた。


 リナだ。


「はああああああああああああああああああっ! 」


 掛け声と共に、リナは番犬へと疾走していく。


 大剣の切っ先が時折地面を擦り、一筋の線を描く。


 リナの視線の先には、立ち上がろうと藻掻く番犬の姿。


 三ツ首の番犬が纏っていた炎は既に消え去っていた。


 番犬の首を穿たんと、大剣の炎はリナの心とシンクロするように燃え上がる。


 ダン、と。


 リナが地面を踏み切った。


 空中で身体を翻し、剣の狙いを研ぎ澄ます。


 怒りを込めて、思いきり大剣を振りかぶった。


「皆を……! リュウジをよくも傷つけてくれたわね! 覚悟しなさい!」


 リナの大剣の切っ先は纏わりついた熱気すら切り裂きながら、番犬の頭へと迫る。


 番犬の中央の頭を狙い、リナは大剣を渾身の力で叩きつけた。


 バキリ、と骨を破砕した感触がリナの手に伝わる。


 瞬間。


 魔獣特有の緑の血が、出口を求めるように間欠泉のごとく噴き上がった。


 誰もが、やった、と。


 そう思ったことだろう。


 リナの一閃が、そのまま地面まで振り下ろされた。


 その勢いで、リナは地に足をつける。


 風圧でスカートが捲れ上がる中、ふぅと息を吐いた。


「どう? リュウジの痛みを思い知った……? 」


 リナは得意げに呟きながら、番犬を見上げる。


「……え? 」


 リナの顔が、瞬時に青褪めた。


 片目を潰された中央の狗頭が、忌々しいと言わんばかりに皺を寄せ、リナを睨みつけていた。


 リナの狙いが、僅かにずれ込んでいたのだ。


 それはリナの大剣が当たる寸前、番犬が僅かに首を逸らしたことで斬撃の場所を逸らされていた。


 緑に染まった血液が、涙のようにだらだらと滴り落ちる。


 ”ガルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ”


 まるで、地震のように。


 空間を大きく、地響きとともに揺さぶる三ツ首の咆哮が、空洞一帯を震撼させた。


 あまりの大音響に、その場にいた全員は耳を塞ぐ。


 咆哮と同時に、番犬は体勢を立て直してゆっくりと立ち上がる。


 ゆらゆら、と。


 惑うような蜃気楼のように、空気が揺らめく程の熱気を番犬が纏う。


 番犬が、筋骨隆々な前肢を大きく振り上げた。


 ごう、と。


 真紅の炎が掌に燃え盛る。


 ”ガァウウ! ”


 振り下ろされた。


 灼熱を帯びた右前肢がリナの眼前に迫る。


「くっ……! 」


 当たる寸前、リナはどうにか見切って転がりながら前肢を躱す。


 どごぉ、と番犬が前肢を地面に叩きつけた。


 瞬間。


 大きな火柱が噴き上がる。


 リナは目を見開いて、その光景を間近で目撃した。


 心臓が、煩い程に鼓動を打ち鳴らす。


 恐怖からか、息が荒くなっていた。


(何……? 何よあれ……。)


 リナは、始原的な恐怖で僅かに顔が引き攣っていた。


 直撃すれば、直火焼き(ロースト)の出来上がりだ。


 掠っても火達磨になることなど、リナにとって想像したくもない事実であった。


 生き残れる保証など、限りなく零に近いだろう。


 今までリナたちが相手にしてきた魔獣と、根本的に何かが違っていた。


 カタカタ、と音が鳴っている。


 リナの奥歯が、恐怖心で震えていた。


「リナ!」


 カレンの声。


 ハッと気が付き、番犬を見上げる。


 左前肢が、高々と上げられていた。


 炎が燃え上がる。


(……嫌………! )


 再び転がって避けるには、間に合わない。


 リナは避けられないことを悟った。


 せめてもの抵抗で、リナは目を閉じる。


「リナーーーーーー!」


「リナお姉ちゃぁぁぁん!」


 悲痛なカレンとクオンの声が響く。


 瞬間。


 リナの身体は、何かに引き寄せられた。


 ”ドォン”と、再びの轟音。


 痛みが訪れないことを不思議に思い、リナが目を開ける。


「……危なかったわね。あなた。」


 リナの眼前にいたのは、安堵したような表情のミルラだった。


「……ミルラ、さん。」


 ほっとしたように口元を上げるミルラの手許には、黒く、長い革鞭が握られていた。


 ミルラの武器は、鞭なのだ。


 変幻自在、自由自在な鞭による攻撃を得意とするミルラの活躍はSランクパーティ、「幻影」の中核を成す存在であった。


 そんなミルラの鞭がリナの身体に巻き付き、番犬の攻撃の寸前に身体ごと引き寄せていた。


「あ、ありがと……。」


「礼は後。……リナちゃんは回収したわ! 今よ!」


 リナを抱えたミルラが大声を上げる。


 それが合図とでもいうように、ヒュンヒュンと再び矢が弧を描き、数多の風切り音が鳴った。


 射手たちの総攻撃が始まった。



お読みいただき、ありがとうございます

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