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 しかし、彼は我が家を訪れた。

 名乗ってもいないのにどうやって家を特定したのか。

 だいたい、略称がリーナの貴族なんて一人じゃないのよ?

 すごいを通り越して怖い。

 ストーカーを疑うよ?

 部屋でゴロゴロして休息していたところ、お父様から呼び出され、その人と応接間で会うことになった。

 疲れているのにだれだよ、と不機嫌ながらも応接間の扉を開けた。


「久しぶりだな、リアリーナ・デァルナン公爵」

「ごきげんよう。久しぶり?昨日ぶりですよ」

「俺はルゼストリア・ロイスタルだ」


 やっぱりか。

 分かってたけど第一王子だ。

 身分を名乗らなかったのは、この国の民なら誰もが知っているから。

 その名前が第一王子を表すことを。

 王族と同じ名前をつけることは法で禁じられている。


「どうやって身元を特定したのでしょうか」

「身元なんて調べようとすればいくらでも調べられる。リーナと呼ばれていたから更に調べやすかったな」


 次回以降参考にしようと聞いたは良いが、参考にならない。

 この様子では略称がバレたせいだけでもなさそうだ。

 貴族の情報網は怖いね。


「それで、なんのご用でしょう」


 さっさと用件を済ませて帰って欲しい。

 ゴロゴロしたい。

 せっかくの休日なのに時間が減ってしまうではないか。

 机を挟んで向かい合わせに座る。

 とりあえず落ち着こうとお茶を口に含んだところだ。


「婚約者になって欲しい」

「んグっ。グェホ、げほ」

「大丈夫か?」


 令嬢らしくなくむせたのは誰のせいだと思っている。


「はい!?」

「俺の婚約者になって欲しい」


 それは聞こえている。

 聞きたかったのはそのセリフじゃなくて。

 

「昨日言いましたよね。私は国を出るつもりだと」

「言ったな」

「なら……」

「だからこそだ」


 なにこの人ヤバい人?

 さっきからまったく会話が通じていない。


「せっかく見つけたのに逃がすものか。逃げるなら物理的に繋ぎ止めておかなければならなくなる」

「しっかりとは聞こえませんでしたが、なんか物騒な内容が聞こえたような」

「こちらの独り言だ。気にするな」

「ではスルーしますね。それから、私は探したい人がいるとも言いました。ですから」


 婚約者になって欲しい、と言ったのを取り消して欲しい。

 王家から公爵家に婚約を正式に申し込まれたら断れないから。

 

「多分、無駄になるよ」

「あなたに言われる筋合いはありません」


 見つからない確率の方が高いことなんて百も承知なのだ。

 わざわざ他人に言われなくたって分かってる。


「そんなに俺が嫌いか?」

「あなたが、ということではなく面倒なことがです。王妃は国交とかしなくてはならないでしょう」

「この世界には魔族の国か人間の国しかない。魔族の国とは和解して、むしろ仲がいいくらいだ」


 忘れてた。

 そうだ。この第一王子が千年続く争いを終わらせたんだっけ。


「命を狙われたりとか……」

「いつの時代の話?王族には強固な加護がかけられる。その加護が強いから命を狙う方のリスクが圧倒的に高くなって、誰もそんなことをしなくなったな」

「……」

「リアリーナ令嬢は知らないかもしれないが、この千年で変わったことがある。聖女は必ず王族と婚姻を結ばなくてはならない」


 どう返したものか悩んでいたら決定打を打たれてしまう。

 日頃から駆け引きをして生きているような王族とまともに話そうとしているのが愚かなのかもしれない。


「そんな決まり初めて聞きました」

「千年前、王はみすみす聖女を逃がしてしまった。そして単身で魔王に挑み命を落とした。それが原因らしいね。もう、貴重な力を逃さないように、と」


 苛つきたいのは此方だがなぜ王子まで苛立っているのか。


「もしかして、殿下も本当は婚約なんてしたくないのですか?」

「逃げ道を見つけたらというように喜ぶのは止めろ。かなり傷つく」

「傷つく……。あなたには他にもたくさんの美女という選択肢があります」

「中身が空っぽの女に興味はない。それと、俺が決まりを守るためだけに婚約することはない。お前がいいからこうして申し込んでいる」

「私、好きな人がいるんです」


 言ってしまった。

 婚約を申し込まれている最中に、それも王子に対していくらなんでも失礼だ。

 取り消そう、そう思ったけど。


「それは、誰だ」

「………」

「前に言っていたやつか?」

「そうです」

「なら本当に人探しは無駄だ」

「お言葉ですが、あなたに言われる筋合いはないかと」

「そう。でも、無駄な行動になるから」

「あなた、口調変わってません?あの胡散臭い、ですます調はどうしたのですか。まだ、あの時は紳士的でしたよね」

「王子がこんな口調だったら問題あるだろ」

「ずっと、あのまま猫の皮を被っていてくれたら良かったです。失礼、口が滑りました」


 私の性根など、聖女時代から腐っている。

 この、あーなんだったっけ……ルゼストリア殿下だ、は中身が腐っていらっしゃるのかしら。皮を剥いだら中身は腐敗していそうだ。

 この対応も本当にめんどい。

 こんな厄介なのに目をつけられるなんて、めんどくて死にたい。

 一度死んだら、なんか軽く言えるようになったよね。あと気も楽。嫌になったら死ねばいい、と逃げられるから。


「それで、無駄とはどういうことでしょう。あなたは占い師ですか。そうでないなら帰ってください。婚約するつもりは部屋の隅のホコリくらいもありません」


 部屋の隅は公爵家らしく掃除されているので、ピカピカしていてホコリなんて一つもない。

 つまり、あなたと婚約なんてしたくないのだ。

 もっと、他をあたろうよ。

 きっと王女という身分に惹かれる人多いよ?

 顔も悪くないんだしさ。

 人を探すという目標がなければ二つ返事で了承したかもしれないくらい優良物件だし。


「占い師ではない」

「では、」


 お帰りください。

 そう言おうとしたのに声を被せられてしまった。


「でも、分かるよ。探し人はたぶん俺だから」

「はあ?」


 驚くほど低い声が出た。

 いよいよ頭が狂ったか。


「たまには死に急がず、立ち止まって今を生きないか。これは俺にも言えることだが」


 目の前にいるのは王子だったはず。

 なのに、さっきからどうしても別人に感じてしまう。人の中に人がいるよう。


「あなたさ一体誰なのですか。さっきから話が見えないし意味不明です」

「俺のこそ謝らせて欲しい。ネリネの花に誓ったのに、俺として会いに行けなくてすまない」


 ネリネの花に誓った? 

 それは、私と彼しか知らないはずの……。

 

「俺として?」

「別の立場では会ったからな。聖女どの」

「なぜ聖女だと。まさかあなた、職業は見ないと言いましたよね」


 鎌をかけてみた。

 てか、本人だとしたも職業は見てないはず。しかも、聖女としての私はいつも仮面を被っていた。


「見てない。でも、出会ったとき声はおなじだったから。もっと早く気づけば、違った未来があったかもしれないのに」

「それはないと思います。だって、あの時代は固定概念が強固でしたから」

「昔の人は総じて頭が固く、まとめる人物に至っては他力本願ばかり」


 思わず普通に返答してるけど、この話で通じてるってことは……そういうこと、よね。

 まあ、私が転生してるんだから可能性がないわけではなかったんだけど。


「ルース?」


 千年前に呼んだ名前を再び口にした。


ここまで、お読み下さりありがとうございます。

少しでも、面白い!続きが気になる!と思ってくださったら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂きますと作者が泣いて喜びます。

ぜひ、よろしくお願いいたします。

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