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「そうだよ、リア。やっと気づいてくれた」

「嘘」

「嘘?どうしてそう思う」

「だって……だって、ルースはそんなに意地悪な物言いする人ではなかったではないですか。まぁ、千年前に一日会っただけですけど」

「千年、何度も生まれ変われば狂いもする。そもそもの己どんなであったかも曖昧だ」

「転生したのが一度ではないのですか」

「うん、そうだね。生まれ変わりが十を超えたくらいから数えてはいないけど」

「十……。てっきり、これが一度目かと」


 自分が一度だったなら相手も同じかと。

 逆に、転生していない可能性だって考えていたのにまさかめちゃくちゃ転生してるとは。


「その物言いなら、リアは一回目なんだ」

「そうです。転生って、そんな狭い間隔で起きるものなんだと驚いているところです」


 何はともあれ、彼に会えたなら言わなければならないことがある。


「ごめんなさい。約束したのに会いに行けなかった」

「謝罪は要らない。俺も、会いに行けなかったから」


 先ほどと同じような言葉だ。


「ねえ、その他人行儀な口調止めない?」

「ですが、王族と一貴族ですから」

「前世で、聖女という替えのない高貴な地位につきながら、あの口調だったのに今さらだな」

「そ、それは関係ないでしょう!」

「そうそう。それでいい。上部だけを並べ立てる貴族なんて信用できないからな」

「ここまでの間に何があったのよ」

「いろいろだ。騙されたりもしたし、俺も騙した。腹も黒くなる」

「ふーん。でもまさか、お互いに転生をして、しかも出会えるなんてね。不思議だわ」

「ネリネの花言葉は、また会う日まで」


 首をかしげた。

 それはさっき聞いたからだ。


「千年前に渡した、ネリネの花に魔法を乗算しておいた。花言葉という言葉に言霊魔法をね」

「かけられていて気づかなかったことより、言霊魔法が使えることに驚いてる」

「だろうね」


 けろっとして笑うが、四文字で終わらせていいものじゃないだろ。


「立場的に使えないと逆におかしい」

「立場ね。ん?そういえばここまで結構カミングアウト大会みたいなことしてきたけど、聞いていなかったわ」

「リアから気になってくれるとは珍しい。嬉しいこともあるものだ」

「そんなことで嬉しくならないでよ。なんだか、私が意地悪してたみたいじゃない。あと、私は今世リアじゃない」

「リアリーナ・デァルナン、だろう。大丈夫、ちゃんと知ってる」

「知ってるならちゃんと呼んでよね」

「どっちも名前に変わりないだろう」

「区別したいから呼ばれると困るのよ」


 実のところ、幼少期は周りからどちらも呼ばれていた。

 記憶のないいつかに、もろもろあってリーナに落ち着いたらしい。

 今世で呼ばれることのない略称だからこそ、そうされてしまうと頭のなかで混乱が起こるし、貴族令嬢としての対応をミスる。

 名前は、私が自分に引いた線引きのようなものなのかもしれない。


「そういえば、前世のあなた、私が知っているあなたは何者だったの……って聞くのはタブーかしら」

「俺はね、魔王だよ。な、だからどんな魔法でも使えないとおかしい。魔王の魔には魔法の意味も含まれている」

「初めて聞いた」

「魔族の一般教養だ」


 魔族の一般教養。

 パワーワードね。

 でもそうか。魔族だって、人と同じように心があって生きて生活を営んでいるのだ。教育だってあるはずだ。

 そして、あることに気づいて思考が停止した。


「魔王って、あの魔王よね。千年前は人間の国と仲が悪かった魔族の国の王様」

「そうだ。やはり君も魔族憎い?」

「んなわけあるか。それを言ってたのは国の胡散臭い髭の生えたおじさんだけよ」

「リアの口調が戻ってきたな」


 嬉しそうに笑う。

 やめて。令嬢としての人格よ戻ってきて。

 これは私の口調じゃなくて、ただただ口が悪いだけなのよ。


「憎いとかじゃなくて、私、あなたを殺してしまったわ……」


 甦るのは自分の魔法が魔王を貫く、あの一場面。

 あれは聖女の私が解放される瞬間だった。

 でも、あの魔王はルースだった。

 私が殺したんだ。

 その事実が頭の中をぐるぐる回る。


「なんだ。そんなことを気にしているのか」


 あっけらかんと言い切られても困る。


「そんなことじゃないわ」

「言ったよね。死ぬために崖に来たと。でも、魔王だったから飛び降りて死ねるほどやわではなかった。死にたかった俺を救ってくれたのは、間違いなくリアだ。殺したのも約束を守れなかったのも、俺とて同じだ」

「そんなの結果論でしかないもの。同じなら反省しなくていいなんてことはない。こうなったら、ちょっと死んでくるわ」

「待て待て待て、なんで死のうとする。その変なとこで潔の良い決断力を発揮するのはやめなさい」


 飄々として婚約話を持ちかけたくせに、そんなことで動揺するのか。

 立ち上がって部屋の出口に向かおうとした腕を捕まれた。


「あなたへの詫びと、あなたに謝るという目的果たしたから。私ごときができる詫びなんてそれくらいよ」

「詫び、な」


 含みのある低い声。

 一瞬、逡巡している表情をし、顎に手をやった。


「俺にとって、もっと詫びになることがある」


 首をかしげる。

 より良い詫びがあるならそちらを採用したい。


「婚約者になれ」

「そこに戻るのね!」


 ため息をつく。

 私なんかを婚約者にしたところで得があるわけでもなし。


「ここまで口にしなかったが、聖女は王族と結婚しなければならないという法律もある」

「そんなの……あったわ。千年前はそんなのなかったのに公爵邸の先生が教えてくださったときとても驚いたのよ」

「千年もあれば法律も変わる」

「誰が作ったのよ」

「千年前王が聖女を逃がしてというのは起源にすぎない。五百年前の王が恋い焦がれた聖女に逃げられたのが始まりで、その王が法律を作った」

「へー」

 

 ごちゃごちゃした歴史が私には理解できなかった。


「という設定。本当のところは、その王にしか分からない」

「へー。なんか詳しいわね」

「まあ、色々あって今はそういう法律がある」「でも昨日は聖女だってこと内緒にしてくれるって言ったわよ、あなた」

「もちろん。でも、婚約者になってくれないのなら手段はあるという話」

「チッ……。性格悪いわね」


 令嬢らしくもなく舌打ちをし不快感を露にする。

 でも、そういえば前世から好いてる人はルースで。ルースの生まれ変わりは殿下で。

 口答えしても怒らないし、質問には一つ一つ嫌な顔をせず答えてくれる、千年も経っているのに私を好いてくれている。

 自分がここまで意地になってる理由がわからん。

 私は何が嫌なのか。

 嫌なところなくないか?


「性格が悪いのは否定しない。性格の悪さがリアを手に入れることに繋がるなら」


 あぁ、本当に狂っていらっしゃる。

 こんな小娘を捕まえるよりもっと有益な令嬢はわんさかいる。

 私なんか肩書きばかりは公爵令嬢であるけど、家は度重なる凶作のせいで赤字なのだ。

 殿下にとっての利益がない。


「諦めも悪い」

「ずっと探してたのにこんなことで、たった一度振られただけで諦めるわけない」


 本当になんでこんな人に好かれているのだ。そして、どうして好きな人に乞われて断っているのか。

 意地が悪くなったのは私の方なのかも。


「いいわよ、婚約だけなら。ルースのこと嫌いじゃないし」


 違う……。

 この言い方じゃ通じるわけないわよ。


「本当に!?あぁ、もう二度と離さないよ」


 通じてしまった。

 

「あの!まだ婚約だけですからね」

「まだ、だろ。いつか好きになって貰えるよう頑張るから」


 なのに、どうして肝心なところで通じていないのか。

 ううん。

 ルースに怒っても仕方ない。私が悪いのだから。

 だから、少し。

 もう少し素直にならなければならない。


「もう、好きなんだけど」

「……?」


 呆けた表情にならないで欲しい。

 この人、自分は好きだ婚約だとのたまうのに自分に向けられる好意には鈍感なのか。

 でも、王族は婚約話が絶えないらしいし鈍感とかありえないでしょうね。

 私限定とか?

 余計になぜだ。


「千年前に崖で話を聞いてくれた時から好きよ。あなたが撫でてくれた手も、優しさも、全部好きよ」


 目の端から雫が溢れる。

 それに気づいたのは、ルースが目元をハンカチで拭ってくれたから。

 絹糸でできた真っ白なハンカチで。


「だけど、私はあなたを殺したのよ。のうのうと好きになって良いわけがないじゃない」


 自分自身で言ったその言葉に気づかされる。

 そこが引っ掛かっていたから素直になれなかったのか。


「さっきも気にしてたね。急に知って混乱したということもあるのだろう。俺本人は感謝しているというのに」

「感謝しているならまあいいや、って問題でもないのよ」

「そんなつまらないことが気になるんだ。なら、仕方ないか」

「仕方ないって、何を」


 突然視界が暗転した。


「ルース!?あなた一体」

「大丈夫。何も怖くないよ」


 目の前の暗幕はルースの手のようだ。

 暖かくて大きな手。

 嫌な予感がする。


「前世の俺についての記憶をリアから消すだけ。それさえなければ、承諾してくれるだろうから。俺を殺した記憶さえ消せたらいいけど残念なことに、この属性は微調整が苦手なんだ」

「やめて。ルース待って!」


 叫んだけど全然聞いてくれない。

 聞こえていない。


「リアが普通の貴族令嬢なら、きっと王族からの婚約申し込みを喜んでくれるよね。それに、記憶さえなくなれば聖女の力の使い方を忘れるかもしれない。そしたら、リアの望んだ普通が手に入るかも」

「ルース!!」

「……闇に宿りし呪の力。常闇の帝王よ我の願いを聞き届けよ。我が魔力と引き換えに此の者の記憶を滅せよ」


 唱え終わると同時に頭がもやもやした。

 脳の中を棒で混ぜられて、一部を剥ぎ取られるような。

 気持ち悪くて気持ち悪くて、ついでに目眩もした。

 口元を押さえながら、受け身もとらずに倒れたが痛みは感じなかった。

 誰かの腕に抱き止められていたから。


「魔法も練習したんだ。君を手に入れるためにならなんだってする。逃がさないよ、リア」


 この人、誰だろう。

 綺麗な髪。月が地上に落ちてきたよう。

 手を伸ばそうとしてできなかった。

 視界が暗転したのだから。







ここまで、お読み下さりありがとうございます。

少しでも、面白い!続きが気になる!と思ってくださったら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂きますと作者が泣いて喜びます。

ぜひ、よろしくお願いいたします。

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