9.姉妹の再会
騎士宿舎の地下牢にアクータとナーリャは居た。
他の騎士も事情を理解している。
複雑な気持ちもあるが、女盗賊アーリィを悪く見る目は無い。
当のアーリィは目が虚ろのまま俯いている。
絶望がアーリィを包み込んでいた。
『ア……ちゃん……お………ゃん』
煩いな、アタシはもう死んだも同じなんだ。
『アーリィ……ん!おね……』
今更アタシの名前なんか呼ぶんじゃない……
『おね……!!!……アーリィ……ちゃん!!』
「あぁ……煩いねぇ……アタシの処刑でも決まったのかい」
煩わしいと感じた声の方向に顔を上げると、アタシを捕らえた騎士が居る。
確かアクータと言ったか?その隣は……アタシは思わず鉄格子に詰め寄る。
目の前に求めていた面影が、妹の面影を携えた女が居た。
「ナー……リャ?……」
「アーリィお姉ちゃん……」
なんだい……泣き虫は相変わらずだ。
ほら、こんなに泣いたらアタシと同じくらい美人な顔が台無しだろ?
「あぁ……ああ……ナーリャ……ナーリャぁ…」
「お姉ちゃん……久しぶりだねアーリィお姉ちゃん……
顔……凄いことになってるよ?……グズっ…」
「アタシよりあんたの方が凄い……すごい……ことに……
ナーリャぁぁぁ!会いたかったぁ!会いたかったんだぁ!」
鉄格子越しに姉妹は手を握り泣きじゃくる。
その様子をアクータは見て思わず目頭が熱くなる。
そして騎士として、貴族として禁忌の決意する。
これをやってしまったらもう辺境伯を継げないだろう。
だがそれでも構わない。
次男のクラウガやエフォリアには悪いが、私が出奔しても……
『弟たちがこの領を継いでくれる!』
クエルクスが危惧した通り、アクータは暴走しかけていた。
つかの間の姉妹水入らずの時間が過ぎる。
意を決しアクータは口を開いた。
「ナーリャ……アーリィ……私が手助けをする。
逃げる覚悟はあるか?」
「「!?」」
突然、アクータはとんでもない事を告げた。
ナーリャとアーリィにとって寝耳に水な話をアクータは振ってきた。
アーリィとしては渡りに船の話だが、それを行うとナーリャもお尋ね者になる。
それはアーリィの本意ではない。
ナーリャはアーリィに生きていて欲しい、だがそれを行うとアクータは……
「アクータ様よ……妹をさ……お願いするよ。
アタシはナーリャに、会えただけでも満足なんだ」
「やだよ!お姉ちゃん一緒に逃げ……っ」
一緒に逃げよう、その一言をナーリャは止める。
それを言ってしまったら、それを行ってしまったら、想っている人はどうなる。
アクータは私達を守るだろう、だがそれはアクータの身の破滅を意味した。
「だめだ!ナーリャはヴァイト辺境伯に恩義があるんだろ?
お前を救ってくれた時点でアタシも恩が出来ちまったんだ……」
意を決してアーリィは自分の覚悟を伝える。
自分が生き残ることでナーリャに迷惑はかけられない。
ナーリャと再会できただけでも自分の人生ではお釣りがくる。
野垂れ時ぬはずの人生が笑って死ねる。
アーリィが死ぬ覚悟を決めたのをアクータは感じる。
だが、それでナーリャが悲しむのは見たくない。
懇願する気持ちでアーリィに言葉をかける。
「アーリィ……私は君に死んでほしくないのだ……
ナーリャと共に生きていて欲しい……だから逃げてくれ」
「駄目に決まっているでしょう」
声の方向に3人は振り向く、地下牢の入り口に呆れ顔のミルシナが陣取っていた。
「まったく……クエルクスの言ったとおりだわ……」
痛くなった頭を振りながらミルシナは3人に近づいてくる。
「ミルシナ様……」
「母上……」
「貴方たちの気持ちも察するわ。ですが、クエルクスの気持ちも察しなさい」
さて、と言いながらミルシナはアーリィの前に立つ。
「初めましてアーリィさん。ヴァイト辺境伯夫人のミルシナです。
貴女の妹には大変お世話になっているわ」
「……あの……アタイは逃げないから……妹をナーリャをお願いするよ
こんなアタイの妹だけど、いい娘なんだ!お願いだ!連座はやめとくれ!」
「思った通り、貴女は盗賊だけど生粋の悪人には見えないわね。
ナーリャは私の大事な侍女よ、娘とも思っているわ。だから安心しなさい」
ミルシナの言葉にアーリィは救われた気がした。
妹はナーリャはこれで大丈夫だ。
悔いはもう一人の妹、ミーリァだ……それはナーリャに託そう。
「思い残すことはもうないよ……ミルシナ様……」
「やだ……やだよ!お姉ちゃん!」
「母上!お願いです!父上に母上から!いだぁ!?」
ベシッっとミルシナの扇子チョップがアクータの脳天に突き刺さる。
「まったく、だからクエルクスの気持ちも察しなさいと言ってます」
呆れ顔のミルシナが3人を見る。
豆鉄砲を食らったような顔で3人がミルシナを見ている。
ミルシナは深いため息をついた後でアーリィに扇子を向け……
「では、アーリィ、貴女はひとまずは死になさい」
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
とんでもない事を言い放った。
妹が大好きお姉ちゃん
姉が大好き妹ちゃん
思った以上に情熱派な次期当主のアクータ子爵
ミルシナ様は優しく育った長男を微笑ましく思いつつ
胃も頭も痛くなるほどに心配




