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指は十日で馴染んだ。
第二関節と第三関節の間にあった、骨しかなかったような部分がちゃんと肉で埋まった。血色も良い。
驚いたのは指の感覚だ。箸を持つにも茶碗を持つにも、重さを感じない。違和感があり、生活しにくいなと結人は不便に感じていた。
「結人、指はどうだ?」
親父が晩御飯にがっつきながら尋ねた。
「ああ、もう見た目は普通の指になった。でも、感覚が戻っとらん」
親父がにやりと笑った。残った飯を勢いよく口の中にかっこみ、トンと茶碗を置いた。
「結人、紋入りの十字と四方、八方の三つを持って修練場へ来い」
十字、四方、八方とは手裏剣の種類のことで、紋入りは手裏剣の中央に紋が彫られている。装飾も随所に施され、凹凸があるのが特徴だ。特別な時しか触れることはできないものだ。
「紋入り、投げていいの?」
「ああ、その指になったからな。試してみるぞ」
? その時の結人には親父の言う、その指というのがよく分からなかった。
修練場とは言うものの、ただの裏山だ。裏山自体は同級生でもある桐葉と滝音の親父が二つの家で共同所有しているものだ。結人と桐葉、滝音の三人での修練も週に三回行われている。
鬱蒼と繁る木の幹や枝には様々な形をした的がぶら下がっている。山に入ると、上から声がした。
「結人、壱の的に当ててみよ」
今更? 壱の的など、三歳の時に遊び半分で狙う近くの大きな的だ。
「ただし、刃を持つでない。中央の紋や刃の背にある彫刻など、突起に指をかけて投げてみよ。赤点を狙えよ」
「分かってるよ」
くだらないと思った。わずか2メートルの大きな的、その中央にある赤い丸は赤点と呼ばれており、それも直径40センチはあるのだ。外す方が難しい。
右膝を軽く曲げ、十字を投げた。赤点の真ん中を捕らえる軌道が僅かに上へずれる。真ん中より3センチ上に十字はザクりと刺さった。
ショックだった。壱の的の中央を外すなど、甲賀の恥だ。しかも、投てきの名家、白烏家が。
だが、親父は怒らなかった。こんなことがあれば、怒りを通り越して、無言で家へと帰ってしまう親父だ。親父の意図を計れない。