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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
2. ピッチャー 白烏結人
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2

 指は十日で馴染んだ。

 第二関節と第三関節の間にあった、骨しかなかったような部分がちゃんと肉で埋まった。血色も良い。

 驚いたのは指の感覚だ。箸を持つにも茶碗を持つにも、重さを感じない。違和感があり、生活しにくいなと結人は不便に感じていた。


「結人、指はどうだ?」


 親父が晩御飯にがっつきながら尋ねた。


「ああ、もう見た目は普通の指になった。でも、感覚が戻っとらん」


 親父がにやりと笑った。残った飯を勢いよく口の中にかっこみ、トンと茶碗を置いた。


「結人、紋入りの十字と四方、八方の三つを持って修練場へ来い」


 十字、四方、八方とは手裏剣の種類のことで、紋入りは手裏剣の中央に紋が彫られている。装飾も随所に施され、凹凸があるのが特徴だ。特別な時しか触れることはできないものだ。


「紋入り、投げていいの?」


「ああ、その指になったからな。試してみるぞ」


 ? その時の結人には親父の言う、その指というのがよく分からなかった。


 修練場とは言うものの、ただの裏山だ。裏山自体は同級生でもある桐葉(きりは)滝音(たきおと)の親父が二つの家で共同所有しているものだ。結人と桐葉、滝音の三人での修練も週に三回行われている。


 鬱蒼と繁る木の幹や枝には様々な形をした的がぶら下がっている。山に入ると、上から声がした。


「結人、壱の的に当ててみよ」


 今更? 壱の的など、三歳の時に遊び半分で狙う近くの大きな的だ。


「ただし、刃を持つでない。中央の紋や刃の背にある彫刻など、突起に指をかけて投げてみよ。赤点を狙えよ」


「分かってるよ」


 くだらないと思った。わずか2メートルの大きな的、その中央にある赤い丸は赤点と呼ばれており、それも直径40センチはあるのだ。外す方が難しい。


 右膝を軽く曲げ、十字を投げた。赤点の真ん中を捕らえる軌道が僅かに上へずれる。真ん中より3センチ上に十字はザクりと刺さった。

 ショックだった。壱の的の中央を外すなど、甲賀の恥だ。しかも、投てきの名家、白烏家が。


 だが、親父は怒らなかった。こんなことがあれば、怒りを通り越して、無言で家へと帰ってしまう親父だ。親父の意図を計れない。

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