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「結人、拾三の的を上手で当ててみよ」
拾三……。大樹のひとつ目の枝に吊るされた的だ。距離は10メートル、的の大きさは直径70センチ。赤点に全て当てられるかと言われれば、そうはいかないが、難しい的ではない。
上手で投げるということは、拾三の的ならば、おおよそ的の2メートル上を狙っていく。横手で投げるよりは沈まないため、2メートルほど上がちょうど良い。
上手なので、左膝を前に出して、少し沈める。集中して放った十字手裏剣は、狙った2メートルの高さより浮き上がり、大きく左に弧を描きながら的を逸れていった。十字が葉を凪ぎ払う音が響き、闇に消えた。
ショックはなかった。やはり、指がおかしいのだ。両手を広げて、指をまじまじ見ると、目の前に気配を消したまま親父が降りてきた。
「指だ、結人」
「ああ、指がやっぱおかしい。まだ感覚が戻ってないと思う」
親父は珍しく満足そうに笑いながら、首を振った。
「指の力が常人をやっと越えたのだ。結人、わたしが今から立つところへ本気で投げてみろ。狙いは俺の鼻だ。今度は横手で、力を抜いて、手首の返しを鋭く」
親父はそう言って、木に飛び乗り、そのまま木から木へと移って、遠くの木の枝に着地した。
親父に向かい、思いきり投げてみる。指の力という言葉に意識させられたのか、確かにほんの僅かな紋の突起に指の腹が引っ掛かっているのが分かった。
親父に向かったはずの四方手裏剣はぐんぐんと上昇し、親父の頭など瞬時に越えていってしまった。葉や枝が音を立てて地に落ちていく。最後にかなり遠くの方で、四方が的に刺さったような木を穿つ音が微かに響いた。
結人は首を傾げていた。
「さっき外した十字を探して、今投げた四方の行方を追ってこい」
親父は枝の上で微動だにせず、そう告げた。
十字はこの辺りに落ちたはずだ。草むらを掻き分けること3分、十字は見つかった。あとは、見えないほど遠くへ飛んだ四方だ。
枝から枝へ飛び移り、まだない、まだか、と探し回る。探し回ること20分、まさかと先に進んだところに小さな的がある。とても届くわけがないと嘆いていた八拾番台の的だ。木からぶら下がる八拾番の的の端っこに四方が刺さっていた。
距離にして500メートル。
「見つけたか?」
戻った結人に親父が腕を組みながら尋ねた。
「ああ、八拾番に刺さってた。信じられない」
「それが一里に届く白烏家の指だ」
親父がそう言って、うんうんと頷いた。
十五年に渡って鬱血させた指は一気に血を解放されることで、極限まで触覚と力が高まっていた。
小さな凹凸に指を引っかけると、離れる瞬間までの指持ちが今までになく良い。更に力がリリースの最後まで伝わるため、強烈な回転を生むようになった。軽いものを持つと感覚がないのは、指の力が異常に強くなっていたからだった。
投げ方を上手、横手と変えることで、手裏剣に伸びを与えたり、左右に曲げたりすることができる。殺傷能力は低くなるが、八つの刃を持つ八方手裏剣などでは回転数が更に高まることで、四方よりも大きな伸びや曲げを実現できる。
やっと投てきの名家、白烏家の技を習得できたのだと胸が高鳴り、毎日、朝も晩も手裏剣を投げ続けた。
忍んで普通にしていた学校生活でも、暇さえあればどうやって投げれば九拾番台の的まで届くかを考えていた。
そればかり考えていた。授業も頭に入らず、親父にも認められる手裏剣投げを極めたいと、そこだけに頭が集中してしまっていた。
故に、油断していた。




