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伊香保はベンチで手を合わせていた。
まだまだ発展途上のチームだ。がっぷり四つに組み合っては百戦錬磨の対戦相手には勝てない。甲賀が勝利を手繰り寄せるには、どれだけの準備が出来るかにかかっていた。伊香保の分析と、この試合の作戦が鍵を握っていた。
昨日、甲賀ナインは視聴覚室を借りて、伊香保を中心にした遠江姉妹社対策ミーティングを行っていた。
「遠江姉妹社は傑出した選手はいないんだけど、穴も無いチーム。そういう表現が一番似合うと思う。ピッチャーは3人いて、それぞれタイプも違うわ」
わざわざ一目で分かるようにと伊香保はパワーポイントの資料をこしらえて、みんなに配っていた。3人の投手の配球が図を見るだけで簡単に分かる。初球の配球から、ランナーを背負ったときまで細かに傾向が記されている。
「すげえ」
さすがに副島もこれには驚いた。これさえ覚えれば、ヤマを張ってみても良いかもしれない。
「もちろん、あくまで傾向なんだけど、出来れば覚えておいて。実際打席に立って球筋を見極めたら、これを思い出してほしいの。みんなの実力とこの傾向が合えば、必ず打てる。細かく継投してくるとは思うけど、粘り強くいこうよ」
みんながページを捲りながら、伊香保に感心しきりだった。
もうひとつのホチキス留めされた資料は遠江姉妹社打線のデータだ。得意コースから苦手なコース、性格にいたるまで記載されている。
「そっちの資料は大変だけど、滝音くんが全て覚えて。前日になっちゃって申し訳ないんだけど、滝音くんなら大丈夫と信じてる。藤田くんは滝音くんのリードに従って、白烏くんは何も考えずにストレート勝負が良いと思う。幸い強打者タイプはいないわ」
白烏は明らかにコントロールを期待されていないものの言いようにピクリときたが、それも事実だ。登板すれば、徐々に精度を上げていける自信はある。理弁和歌山との練習試合以降、ずっとその練習だけに費やしてきた。この大会、なるだけ早く伊香保や滝音の策を講じやすいピッチャーになってやる。
視聴覚室は学校の授業中よりも集中した空気に包まれていた。ここにいる甲賀忍者たちの大半は初めてスポーツで負けを味わった。一人一人が隠密に心身を鍛えていた彼らにとって、勝ちや負けというものがこんなにも心を揺さぶるものだと初めて知った。
勝ちてえな。そんな気持ちがこの視聴覚室を覆っていた。伊香保はそんなみんなを見て、嬉しさが込み上げていた。なんとか、勝たせてあげたい。




