2
一回戦 県立甲賀高等学校vs私立遠江姉妹社高等学校
スタメン
1センター犬走和巳
2セカンド月掛充
3ショート桐葉刀貴
4ファースト道河原玄武
5レフト副島昌行
6キャッチャー滝音鏡水
7サード蛇沼神
8ライト東雲桔梗
9ピッチャー藤田拓也
控え、白烏結人
このメンバー表を橋じいが書いたのだが、達筆過ぎて普通の人は読めないのではないかと、副島は心配になる。一人一人の名前が列を跨いで記入されている。ぎっしりと大きな行書体で埋まったメンバー表は、部員が10人にはとても見えない。
「ほっほ、ついに君たち若人の夢の舞台ですな。富士の頂よりも高い志を胸に抱き、ベエイスボオウルに己の身を投じたもう。では、若人の夢に向かって、万歳三唱といきましょうかな。ふぉっほっ」
ば、万歳!? 慌てて伊香保が止めに入る。
「……あ、……あ、いや。先生。橋爪先生、万歳三唱はやめましょう。相手さん、もう整列してこっち見てますし……」
「ばんざああい! 甲賀、ばんざああい!」
血が滾ってしまった橋じいが、伊香保の声は耳に入らず、大きなしゃがれ声で叫ぶ。
「あ、あわわ」
対戦相手の遠江姉妹社やスタンドに陣取った暇なギャラリーの視線が一斉に甲賀ベンチへ向かう。伊香保の頬は恥ずかしさでリンゴほどの赤さになった。
「ばんざーい、ばんざーい」
「ばんざーい、ばんざーい」
「ばんざーい、ばんざーい」
「ばんざーーーい」
野球の儀式かと勘違いした月掛と桔梗、蛇沼に道河原が橋じいを追う。つられて自信なさげに白烏や滝音、まさかの桐葉まで手を上げている。
「せんでええ。せんでええねん」
副島が必死に止めると、スタンドから笑いが起こった。
「いいぞお、甲賀ぁ。この試合はお前ら応援する」
酔っぱらいが一人ファンになってくれた。
「なんやの、あいつら。万歳してやがんぞ」
遠江姉妹社ベンチが失笑を浮かべていた。
「甲賀とか、さすがに相手ならんな。とにかく俺らは準決の滋賀学院までは全部コールドで勝つぞ」
「おお!」
胸の辺りに遠江姉妹社と大きく書かれた白地のユニフォーム。対して、黒地に白い文字で甲賀と書かれたユニフォーム。対照的なユニフォームの通り、全員がそつなくこなす遠江姉妹社と個性がありすぎる甲賀という真反対のチーム同士の対戦となった。果たして、この対決はどんな結末を迎えるのか。
「両チーム、整列!」
主審の声が高らかに響く。
副島は今か今かとその号令を待っていた。左膝に手をついて走る構えを取っている。膝が震えていた。武者震いというやつだ。一列に並んだ甲賀ナインの膝は、藤田を除いて誰も震えていない。頼もしい奴らだと副島は笑った。
「よしっ、ほな、行くでっ!」
おおぉ!
一斉にまっさらなグラウンドへ駆けていく。