⑤ 彼女の彼女による彼女のためのパーフェクトプラン
~⑤~
舞踏会の会場である大広間に王子が現れました。
金髪碧眼。THE王子という容姿の美青年です。
男性からは尊敬と嫉妬、女性からは羨望と熱っぽい視線を一身に浴びて、白い歯がキラリと光ります。
光り輝くまぶしい存在を見たクーデレラは、反射的に舌打ちしそうになりました。
気に入らない相手というのはいるものです。
しかし、クーデレラにとっていけ好かないヤツであっても、相手はこの国の次期最高権力者――
彼と結ばれれば、幸せを約束されています。
人生勝ち組なのです。
クーデレラは、きゅっと外套の裾を握りしめました。
王子を加え、舞踏会はますます盛り上がっていきます。
何人もの女性が王子にアプローチを仕掛けました。
クーデレラの継母や姉たちもです。
ただ、シシルだけは、そんな家族から離れ、遠慮がちに見ているだけでした。
クーデレラは口元に微笑を浮かべると、もたれていた壁から背中を離しました。
魔術を解き放ちます。
クーデレラの裸体に、紫の文様が浮かび上がりました。
姿隠しの幻影の中にいるため、誰にも見られることはありません。
その魔術は、新たな幻影を作り出すものでした。
瞬きの時間のあと、大広間に影でできた巨大なドラゴンが存在していました。
大広間は静寂に包まれました。
みなが一様にぽかんと口を開けて、突如出現したドラゴンを見上げます。
最初に悲鳴を上げたのは誰でしょう。
その悲鳴を皮切りに、会場はパニックに陥りました。
貴族たちが逃げ惑います。
料理のテーブルが盛大にひっくり返りました。
おっとあぶない。
クーデレラは、空中でフルーツの皿をキャッチすると、デザートを口にしました。魔術のあとの脳に糖分が染み渡ります。ウマイ!
クーデレラは王子のほうへ目を戻します。
影のドラゴンは、いまにも王子に襲いかかろうとしているところでした。
どうやら逃げ遅れた女性を守るため、王子はドラゴンと対峙しているようです。
ちなみに逃げ遅れている女性は継母でした。白目を剥いてだらしなく気絶しています。……あの人はなにをやっているのでしょう。
ドラゴンが王子に襲いかかります。
そのときでした。
「王子様!」
シシルの声が響きました。
彼女は王子を守るため、自らドラゴンの前へ飛び出したのです!
「貴女は……」
「逃げてください王子様!」
シシルの声は恐怖を滲ませたものでした。
ですが彼女は毅然と言い放ちました。
シシルの行動に王子は呆然としています。
ぐあっ、と顎を開き、ドラゴンがシシルに襲いかかります。
けれど次の瞬間、ドラゴンは霧消していました。
わずかに残った黒い靄が、シシルたちの横を抜けていきます。
――クーデレラが魔術を解いたのです。
まあ、もともと影で作られたドラゴンには、誰かを傷つける力はありませんが。
シシルは、腰を抜かしたのか、その場でぺたんと尻もちをつきます。
王子がシシルへ感謝の言葉を述べるのが聞こえました。
――シシル姉様。怖がらせてしまってごめんなさい。でも、これで2人は……
満足してクーデレラは2人に背を向けました。
外套を翻し、混乱する会場を後にします。
あとはもう放って置いて問題ありません。
シシルは魅力的な女性です。
王子の目が節穴でなければ彼女の魅力がわかるはずです。
もしも王子の目が節穴だったら、それはそれでいいのです。
シシルの魅力をわからない、そんな王子に価値はありません。
そのときは……
「……ふふっ」
自分がこの国を支配するのもいいかもしれない、とクーデレラは思いました。
そのときのクーデレラは――まるで夢見る乙女のようでした。
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去ってゆくクーデレラの後ろで、シシルは、ふと顔をそちらへ向けました。
眉をひそめてつぶやきます。
「おしり……?」
つづく
次で完結予定です。明日か明後日更新できるかと思います。