理事長
同じ制服を着た学生が、入っていく大きな門を由奈と並んでくぐると学校の中からほのかに桃の香りがしてきた。
「いい香りね。」
「でしょ。朝から、この香りに包まれると、今日も一日頑張ろうって気になるのよね。」
「素適な学校ね。生徒も礼儀正しそうだし。」
「そうね。」
それに、生徒達は、いちいち立ち止まって
「由紀様、おはようございます。」と言って、お辞儀した。
そして、そばに居るぼくにも頭を下げた。
「由紀って、学校の人気者なの?」
「違うわ、お爺様がこの学校の理事だから、みんな気を使ってるのよ。」
「姫様、この学校の中なら、何があっても大丈夫だから好きにしてね。」
そう言って、由奈は、彼女の腕をぼくの腕に絡めてきた。
一瞬の出来事だったけど、周りから悲鳴が聞こえて来た。
『ほら、やっぱり由奈って人気者じゃん。』
後から聞いた話だと、朝から、憧れの由奈先輩と美人女子学生が仲良く腕を組んでるのをみて、数名気絶したらしい。
確かに、女子の制服を着ていないと、美男子に見えるかもしれない。それがわかっていて、
由奈も腕を組んできたのだ。
「姫様、これから理事長室に行きますね。」
「お父様に、紹介させてください。」
それから、ぼくと由奈は、腕を組みながら、その学校の中でも一番古そうなゴシック様式の建物に入っていった。
その建物の大きな扉を開けると、ステンドグラスから、光が入り、何とも幻想的な空間が広がっていた。
それらには、天使の絵が至るとこに掛かれていた。
「由奈、この天使、死神に似てない?」
「姫様、それが天使だった頃に死神ですよ。」
「そう、結構あいつも有名なんだ。」
「姫様、こちらです。」
由奈と一緒に正面の階段を上り、一番奥の部屋の前までやってきた。
由奈が、扉をノックして、
「お爺様、姫様をお連れしました。」
そう言うと、扉が中から開いた。
正面に大きな窓があり、その窓を背に一人の老人が大きな机を挟んで座っていた。
「やあ。いらっしゃい。」と、張りのある声が聞こえて来た。
外からの光で眩しくて、その老人の姿は、シルエットのようになって、まるで影が喋っているようだった。
「お爺様、こちらが姫様です。」
「やっと、会えましたね。数世紀ぶりですか。」
「これもすべて、あの死神のおかげですね。」
「今日から、この学校でお世話になります。由紀です。」
「まだ、人間に転生して間が無いので、ご迷惑をおかけするかもしれません。」
「由奈から、聞いてます。大丈夫ですよ。この学校の中なら、何も心配はいりません。」
「由奈、よろしく頼む。」
「わかってます。お爺様。」
「そろそろ、授業が始まるのでこれで失礼します。」
ぼくは、深々と頭を下げてその部屋を後にした。




