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1 晴れない日

 天気予報では今日の天気は雨。だから、待ち合わせをファミレスにした。

 天気のいい日は海沿いの公園、雨の日はファミレス。そういう習慣だったから。


「雨降らないのかな」


 窓越しには綿埃を引き延ばしたような雲が空に張りついていた。教室のカーテンみたいに汚れた色だった。


千夏(ちなつ)は雨が好きかい。パパは晴れてるほうがいいけど」


 いけない。ぼうっと外を見ていた。パパに顔を向ける。


「好きなんて言ってないじゃん。傘忘れたんだよ」


「うん、千夏は太陽が似合うよ。これ、少ないけど」


 パパは毎月お小遣いを寄越す。養育費はママの口座に振り込み、お小遣いは手渡しをする、というのが、千夏の知らない間に勝手に決まっていた。


「いらないよ。ママからもらってるし」


「来月は千夏の誕生日だろう。好きな漫画でも買うといい。女の子が変身して悪と戦う漫画、好きだったろう」


 パパは『千夏データバンク』を6年前から更新できていない。今は韓国のアイドルグループを好きなことを千夏は黙っている。そしてもっと好きな人がいることも。


「……じゃあ、もらっとく」


「それに雨が降ってくるかもしれない。途中で傘を買ってもいいし」


「……そうだね」


 しぶしぶのていで封筒に手を伸ばす。触った感覚でいつもより金額が多いことがわかる。中を確認せず、すぐにバッグにしまった。

 これがあと二年以上続く。


「ママを裏切ったんでしょ」


「え」


「勘違いしないで。ママが言ったんじゃないから。でもわかるよ。もう子供じゃないし」


 両親が離婚した理由を、千夏は直接聞いたことがなかった。これまで知りたいと思ったこともなかった。失敗した話を訊き出すのは失礼だ。責めているように受け取られたくもない。だけど今日はむしゃくしゃしている。


 なぜ愛する家族を裏切ることができたのか。そもそも愛してなかったのか。誰かを好きになると、その対象以外にたいしては、とことん鈍感になるってことなのかな。

 自分だったら、嫌だな。そう思うようになったのは、好きな人ができたから。


 パパは小さく息をはいて、コーヒーカップをソーサーに戻した。


「隠す気はないよ。訊かれたら話そうと思っていた。離婚の原因は、そう、ぼくの浮気、です。千夏にも千夏のお母さんにも、申し訳ないことしたと思ってるよ」


「ねえ、なんでファミレスかわかる」


「え?」


「雨の日は喫茶店で会うって、決めたじゃん。でもわたしがファミレスにしようって言い出してから、ずっとファミレスでしょ。どうしてファミレス選んだかわかる」


「メニュー……じゃないの? 千夏の好きな季節のパフェがあるから」


「テーブルが大きいから。パパの近くに座りたくないからだよ」


「そう、千夏、大きくなったね」


 パパは満足そうに笑う。


 頭がおかしいんじゃないだろうか。うなだれてしょんぼりするべきだろうに。

 千夏は弾みをつけて席を立った。


「じゃ、また来月」


「あ……」


 千夏は席を立ち、店を出た。置き去りにした男を振り返ることはない。


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