148 / 猟区の内側で
猟友会に入って、かなりの年月が経とうとしている。
本州で狩猟が始まるのは11月15日以降だが、ここ北海道では10月1日と、その開始時期は一か月以上早い。
この時期は、冬を前に食欲旺盛となり旨い肉をつけつつあるエゾジカを撃つ。
そんなわけで先日、猟友会の仲間と示し合わせて、二つある猟区の一つである占冠村に行ってきた。
狩猟は、日の出とともに開始する。
まず仲間内で、誰が撃つかを決める。
撃つ人のことを「タツマ」と呼び、その他の、獲物を追い立てるメンバーのことを「セコ」と呼ぶ。
タツマはセコと別れ、ひとり獲物が逃げるルートに陣取って待つ。
セコは、タツマが位置についた報告を無線で受けると、そこから犬などを使って獲物を追い立てる。
見事、獲物がタツマの待つルートへと逃げ込んでくれたらしめたもの、あとはタツマの腕次第というわけだ。
獲物を撃つ場合には、首か頭、心臓を狙う。
この日、タツマであった僕は、迷わず首を狙った。
ちなみに、弾が他の場所に当たったらどうなるか。
一番避けたいのは、骨への被弾。仮に太い骨に被弾してしまうと、骨が砕け散り肉へと入り込み、肉が使い物にならなくなってしまうのだ。
次が、「ハラ撃ち」と呼ばれる内臓系への被弾。もしハラ撃ちをしてしまうと、内容物が飛び散ることになる。そうなると、肉が細菌などに汚染され、糞尿臭くもなり、やはり使い物にならなくなってしまう。
ロースなどの人間が食べる部位に被弾した場合には、その部分に急速に血がまわり、その部位だけ切り離す必要が出て来てしまう。
とにもかくにも、僕の銃の先で、堂々とした雄のエゾジカが一頭、のけぞった。
右手から、セコが放った犬たちが、傷を負い「半矢」となった獲物に食らいつく。
遅れてやってきたセコが、慎重に獲物に近づき、止めを刺す。
すぐさま、セコにより、獲物の頸動脈にナイフがあてられる。
これを「血抜き」という。
ジビエ料理は、この血抜きが9割とも言われ、もしうまく出来ていない場合には、非常に獣臭い肉になるか、最悪、食べられないしろものになってしまうのだ。
そうして今夜、食卓に僕が撃った鹿肉が並んでいるわけだが、年頃の姪っ子や甥っ子などは、「人を撃ったことある?」「殺す瞬間って楽しい?」といった質問で僕を困らせる。
もう何千回と聞いたその手の質問に、僕は生返事をしつつ、改めて狩猟の奥深さに感じ入るのだった。




