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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
異世界の旅路編

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98_良薬は口に苦しというけど、おいしく飲めた方がいい

第98話です。

久しぶりにポーション屋らしいことをする回です。

村に戻ると、入口に大人たちが集まっていた。男の子たちの安否を気にして出てきたのだろう。彼らはビョルンさんの抱えた男の子を見て、顔を青ざめさせた。母親である女性は泣きながら男の子を抱きしめて、ビョルンさんを見上げる。


「この子達は、助かるんですか……!?」 


「蜘蛛の毒にやられた。この街に司祭か医官はいるか」


ビョルンさんの言葉に、村人たちは静かに首を振った。


「チッ……これだから田舎は」


こんなに苛立っているビョルンさんは初めて見る。焦りからか、いつもの穏やかな気配は消え去っていた。


「とにかく清潔な場所に寝かせておけ」


母親を家にもどるように促して、ビョルンさんは深く息を吐く。何かを思案するように、落ち着かなげに顎の無精髭を弄っていた。

 

「どうして、毒消し草を使わないんですか?」


冒険者たちが使う毒消し草なら、在庫は十分にある。ビョルンさんは、この状況で出し惜しみをする人じゃない。ならば、なにか事情があるはずだ。


「毒消し草は冒険者向け、つまり成熟した者が使って始めて効果が得られる。煎じ薬として飲ませても、まだ幼い子供には耐えられまい」


「効果が強すぎる薬は、また毒にもなると」


「かといって、量を減らせば毒消しとしての機能を失う。それに」


ビョルンさんは一呼吸おいて、言葉を紡ぐ。 


「単純に、不味い」


「不味いんですか」


「大の大人でも泣きごとを漏らす程度には」


「うわぁ……」


そういえば前に毒消し草を売った冒険者たちは、しわくちゃな顔をしていたっけ。あれは、毒消し草の味を想像していたからか。


「効果が強すぎる上に不味い薬……それを子供に飲ませる方法は……」


私は必死に頭を巡らせて、記憶を遡る。子供の頃に風邪をひいたとき、薬を飲みたくないとぐずったことがあった。その時、確かおじいちゃんがゼリーに混ぜてくれたっけ。


「あ……!」


私はふと思い出して、先程森で摂取したスライムの体液を取り出した。この体液には確か、他の効果を打ち消す機能があるはず。


「これと毒消し草を合わせたら、何とかなりませんかね?」


ビョルンさんは驚いたように目を丸め、また思考を巡らせた。そして何かを閃いたように顔をあげる。


「スライムの体液は、一度熱を通せば毒素が飛んで液状化して効果だけが残る。完全に効果を打ち消さないように、魔法での調整が必要になるが」


「毒消し草と合わせたら、薬の効果を抑えつつ、飲み込みやすくなると思うんです」  


「味の改良方法は?」


「樹蜜をお湯で伸ばしてシロップを作ります。それを混ぜれば、薬草の苦味は緩和されるんじゃないでしょうか」


私とビョルンさんは顔を見合わせた。彼のライムグリーンは少しずつ知的な光を宿していく。 


「やってみるしかないか」 


そしてひとつ頷き、マントを翻す。その足が向かうのは、先程母親が走っていった一件の民家。足早に向かうその後ろ姿を追いかけるように、私は村の坂道を駆け下りていった。   


私達は母親に事情を話して、厨房を借りた。暖炉の火に鍋をかけて、材料の下準備をしていく。窓の外から村人たちがこちらを伺っていたが、それに構う余裕はない。ベッドに横たえた男の子に付きそう母親の姿は、痛々しくて見ていられない。

 

「毒消し草から抽出したエキス、無毒化したスライムの体液、樹蜜のシロップ……これらを混ぜ合わせて、火にかける」   


ビョルンさんは鍋をかき混ぜながら、静かに呪文を唱えた。


「その呪文って?」


「効果を安定させるための呪文だ。今回のような効果が命取りになる時には、慎重に作成しなければならん」


ビョルンさんの呪文で、黒に近い紫色だったポーションが薄い緑色に変わっていく。香りも苦々しいものから、爽やかな酸味を含むハーブの香りになっていっった。


「エルフの呪文は、祈りの言葉だ。人間の言葉に訳すのなら……『早く良くなりますように』とでも言ったところか」


「お祈りの言葉だったんですね」


私はビョルンさんの隣に立って、祈るように目を閉じる。毒に侵された男の子が、早く元気になりますように。そう願いながら。



30分ほど煮込んでから器に移して、飲みやすくなるまで冷ます。すると、スライムの体液の効果で毒消し草のスープは、ゼリーのようにぷるんとした艶やかな固形に固まった。


「スライムの体液が固まるのこうなるんですね……一応、味見してみましょうか」      


「ん」


ビョルンさんは額に浮かんだ汗を拭い、毒消し草のゼリーをひと匙掬う。もちっとした弾力の後にぷるるん……と揺れるそれは、レトロな喫茶店のゼリーを思わせた。私も匙でゼリーを掬って口に含む。


「んん、ちょっと刺激的ですね……」


鮮やかな緑色にはよく似合う、強いミントのような香りが鼻に抜ける。大人にとっては心地よい爽快感で、つるりとした喉越しが心地よい。しかしこれではミント味の歯磨き粉を飲み込むようなものだから、子供にとって少し刺激が強くて飲み込みにくいだろう。


「これでもかなりマシになった方だ」


「シロップで割りましょう。まだ蜂蜜が残っていたはずですから」


「飲ませ方は任せる。効果を損なうことはないだろう」


ビョルンさんはそう言うと、ゼリーを空瓶に移し始めた。私は蜂蜜をお湯で溶かして甘いシロップを作り、その中に一口大に切ったゼリーを浸す。こうして異世界式・服用専用ゼリー飲料『毒消し草とスライムのゼリー』が完成した。


「お母さん、安心してください。このお薬を飲んだらきっとすぐに良くなりますよ」


私は母親に笑いかけながらスープ皿を見せる。初めて見る不可解なスープに、母親は怪訝な顔を示した。


「本当に、これがお薬なんですか……?」


その言葉にビョルンさんは作業の手を止めて、ズンズンと歩み寄ってくる。その顔は不機嫌さを隠そうともしないので威圧感があって、とても怖い。


「俺は100年以上ポーション作成に携わってきた。不信を抱くことに対して異論はないが、我が子を死なせたいのなら勝手にしろ」


「ちょっとビョルンさん、言い方」


まったくこの人は本当に口下手だ。自分に余裕がなくなるとすぐに攻撃的な言葉使いになる。

私は誤解をしてほしくなくて、母親に向かって弁明した。


「ビョルンさんの腕は本物です。これまでにもたくさんの方にポーションを売ってきましたが、苦情は一度も届いたことがありません。どうか信じてください」   

      

母親は私とビョルンさんの顔を交互に見てから、子供たちを振り返った。青白く、苦しそうな呼吸をする我が子たちの姿に意を決したのか、私たちに深々と頭を下げた。


「お金ならいくらでもお支払いします。どうかこの子達をお助けください」


「はい、もちろんです」


私は胸を張って答えると、子供達のベッドの脇に座った。そしてシロップとゼリーを掬って、小さな口に運んであげる。最初は頑なに閉じられていた口も、甘みを感じたおかげでわずかに開かれる。その口の中にゼリーを滑り込ませ、飲み込んだことを確認してようやく肺に酸素が回る感覚がした。


「あとは一晩待てばいい。毒消しの効果が出れば、明日の朝には駆け回っていることだろう」


すでに身支度を整えたビョルンさんは、荷物をまとめて玄関に向かう。母親に対して感謝の言葉も対価も求めない、その頑なな背中に、私は黙ってついて行くしかない。


「お大事になさってください」


私はお辞儀をすると、ビョルンさんの後を追うようにその家を後にした。母親は何か言いたそうにしていたけれど、私は気づかないふりをした。


「お疲れ様でした、ビョルンさん」


一銭の稼ぎにもならなかったけれど、気持ちはとても清々しく、金貨数枚を稼いだ時よりも晴れやかだ。ビョルンさんも同じなのか、その横顔はいつもよりも涼しげで、耳が少し上がっている。


「スライムの活用方法。あれは攻撃用のポーションの材料にしかならんと思っていたが、他にも使い道が見出せたことは今後の商売にも大きく役立つだろう」


ライムグリーンの瞳がこちらを射抜いた。その目には先ほどまでの苛立ちはなく、穏やかな森を感じさせる。


「よくやった」


たった一言の短い言葉。それだけなのに、私の胸は温かくなる。私はくすぐったさを隠すように笑い、ビョルンさんの背中を叩いた。


「さ、今日の宿を探しに行きましょうか」


「こんな小さな村に宿屋があるわけないだろう。野宿だ、野宿」


「えぇっ!また?」


「文句を言うな。置いていくぞ」


先ほどの優しい言葉はどこへやら、ぶっきらぼうに突き放すとビョルンさんはさっさと街道まで歩いていってしまった。夕日は沈んで、東の空には月が浮かんでいる。その柔らかな月明かりに照らされながら、私はビョルンさんの背中を追いかけていくのだった。   

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第99話『金の卵を産む鶏』更新は3月14日18時です

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― 新着の感想 ―
情けは人の為ならず。効果を打ち消す効果の新しい用法とは面白いですね。
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