表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
異世界の旅路編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/127

96_情けは人の為ならず

第96話です。

今回は短編の中の第一話、短い続きものになりそうです。

「今日もお疲れ様でした、ビョルンさん」


私とビョルンさんは街道沿いに出した露店を片付けながら、他愛もない話をする。今日の売上はどうだったとか、客層はこうだったとか。右肩上がりの売上に、私達は正直浮かれていた。


「万能ハーブポーション、思ったよりも反響が大きいですね。皆、干し肉には飽きていたんでしょうか」


「携帯食料は塩気も少なく、食感も悪い。銀貨1枚でそれが解消されるのなら、安いものだろう」


売上はもちろんのことながら、誰かの役に立てたことが嬉しい。ご機嫌でポーションを鞄にしまっていると、誰かが足早に近づいてくる足音が聞こえた。


「すみません、今日はもう店仕舞いでして」


「子供を、ふたりの子供を見なかった!?」


駆け寄ってきた女性は、慌てふためいた様子で私に縋り付いてきた。ただならぬ様子に、私とビョルンさんは顔を見合わせる。


「お子さんは見ておりません。何かあったんですか?」


「おい」


ビョルンさんが面倒くさそうに顔を顰めたので、諌めるように肘でつつく。困っている人を放り出すなんて、信用に関わる。商売は信用が命なのだから、私は商人として手を差し伸べる義務があるのだ。


「うちの子供たちがいなくなったんです。いつも広場で遊んでいるのに……まさか、森に行ったんじゃ……」


女性は子供たちの母親なのだろう。心配そうな姿が痛々しくて、私は思わず彼女の手を握った。


「冒険者ギルドなら依頼を受け付けているだろう。失踪者の追跡は我々商人の専門ではない」


ビョルンさんは顎をしゃくって、女性を追い返そうとする。こんな小さな村に冒険者ギルドがあるわけないのに。


「でも、放っておけませんよ。なんとかできませんかね?」


ビョルンさんは私の言葉に深いため息をついた。そして女性と私の顔を見比べると、渋々言葉を紡ぐ。


「薬草のストックが尽きかけている。在庫補充のために森に向かうが……探し物が見つかるとは限らんからな」


女性に強く言い聞かせるようにそう言うと、ビョルンさんは荷物をまとめてさっさと森の入口に向かっていった。足早な歩調には、どことなく焦りが滲んでいる。


「口ではああ言ってますけど、きっと彼なら探し当ててくれますよ。彼、とても運がいいので」


私は女性を慰めるようにそう言うと、ビョルンさんを追いかけて森の入口に走っていった。


 

しかし、すぐにその選択を後悔することになる。異世界の森が危険であることを、すっかり失念していたのだ。


「ギャーッ!なんですか、このブヨブヨっ!?」


「たかがスライム如きで叫ぶな。鬱陶しい」      


森は薄暗くて、ダンジョンでもないのに魔物だらけだった。おどろおどろしい紫色のスライムが飛び出してくる度に叫ぶ私と、剣で追い払宇ビョルンさん。ひぃひいと過呼吸気味な私をおいて、ビョルンさんはズンズンと森の奥へと進んでいった。


「ビョルンさん、あのっ!場所はわかってるんですか?」


「黙っていろ。声を聞き逃す」


その言葉の通り、ビョルンさんは時折長い耳に手を当てて森の中の音を聞き分けているようだった。子供の声を探してくれているのだろう。だから私は必死に悲鳴を押し殺して、ビョルンさんの後ろをついていった。


「おい」


「な、なんですか」


「どうせ暇だろう。俺が偵察している間に、素材を採集しておけ」


「えっ、この状況で!?」


「何を言っている。森へは採集のために入ると言っただろうが」


ぶっきらぼうに言って、採集用のナイフと空き瓶を投げて寄越される。確かにスライムの解体方法は教えて貰ったけれど、いざやってみろと言われると躊躇する。


鑑定グラスを覗くと、スライムの詳細が表示される。


『ポイズンスライム:E級モンスター。核は換金アイテム(銅貨5枚)。体液には滋養強壮効果と効能抑制効果がある』


「効果を打ち消しちゃうってこと?素材として使えるんですか、これ」


「鑑定は後にしろ。今は回収だけすればいい」  


スライムを手に取ると、ぶに……と形を変えた。ぐちゃ、と湿った音もする。そしてなによりも、色が濁っていて最悪だ。  


「う……ブヨブヨして気持ち悪い……」


「文句を言うな、仕事しろ」


「ぐぅう……」


正論パンチに歯噛みしながら、私はスライムにナイフを突き立てた。    

 


「止まれ」 


森の中に一時間くらい潜ったところで、ビョルンさんが手で制する。その視線の先には美しい黄金の花畑が広がっていた。しかしその美しさは完成されすぎていて、なんだか不気味にも思える。ビョルンさんに視線を向けると、彼は空を指さした。


「ん……?」


夕日で赤く染った空がキラリと光る。いや、違う。細い糸が花畑を覆うように張り巡らされているんだ。


「まさか」


糸を吐く魔獣は限られている。そう、ここは美しい蜘蛛の巣の中なんだ。


「アラクネの巣だな。花畑に釣られた餌を食らう魔物だが、こうも大きな巣を作るのは珍しい。油断するな」


「はい。……じゃあ、子供たちはこの巣の中に?」


「アラクネはすぐに獲物を食わず、繭に巻いて保存する。巣の奥で泣いている声が聞こえたから、まだ死んではいるまい」


ビョルンさんはそこまで言うと、すらりと剣を抜く。その目には強い光が宿っていた。


「ちょうどいい。アラクネの懸賞金は金額10枚、素材は良質なポーションの材料にもなる」


ビョルンさんの声はどこか弾んでいた。こんなに生き生きしているビョルンさんは、あまり見ないかも。


「怪我しないでくださいね。収支ゼロなんて笑えませんから」


「魔物ごときに遅れを取るわけがないだろう」


ビョルンさんは不機嫌そうに鼻を鳴らして、花畑に歩いていった。そして剣で糸を切り裂き、夕日に糸くずがキラキラと舞った。その美しさに目を奪われたのもつかの間、森の奥から不気味な鳴き声が聞こえた。


ギ……ギギギ……


長い黒髪に美しい女性の顔、しかし下半身は蜘蛛の腹で、毒々しい紅蓮の体毛が覆っている。そのおぞましい姿に、私は悲鳴をあげそうになった。


『アラクネ:B級モンスター。高い戦闘能力と毒性を持つ』 


高い懸賞金が掛けられているということは、相応な危険性を持っているということだろう。毒を浴びれば、いくらビョルンさんでも無傷ではすまない。私は祈るようにビョルンさんの背中を見つめた。私の招き猫スキルが、彼に勝利をもたらしますように、と。

 

       

 


       

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

画面下より☆の評価、感想、レビュー、リアクションなど、ポチっとお気軽にいただけると嬉しいです!いつもしてくださる方、本当にありがとうございます。励みになります。

※次回第97話『絡新婦の巣』の更新は3月12日18時です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ