95_甘い共犯者
第95話です。
初期の頃よりも距離感は少し近づいたかな、というお話です。
ルーンデールを出て何日目かの夜。私とビョルンさんは街道の脇で野営をしていた。木々の隙間からは優しい月明かりが差し込んでいる。
私はなんとなく眠れずに、寝袋の中で寝返りを繰り返していた。なんだか底冷えするせいか、妙に目が冴える。
たしかに眠気はあるのになんだか寝付けない。そのせいで焦燥感が掻き立てられてしまう。
「眠れないか」
「わぁっ!?」
頭の上から低く落ち着いた声がして、思わず飛び起きた。声の主は火の番をしていたビョルンさんだ。
「ええと……なんだか、目が冴えてしまって」
しばしの沈黙が落ちる。ビョルンさんは大きく息を吐くと、おもむろに立ち上がった。そして近くに置いていたカバンを引き寄せて、ガサゴソと何かを探し始める。
「ビョルンさん?」
「お前はコップの準備をしてろ」
そう言うと、ビョルンさんは小鍋を火にかけ、皮袋から葡萄酒を注いだ。そしていくつかの薬草を入れると、くつくつと煮立たせる。最後には、たっぷりの蜂蜜を垂らした。それはもう、背徳的な量の蜂蜜を。
「あ、ちょっと! 蜂蜜は貴重なのに!」
「蜂蜜を出し渋るのは、俺の美学に反する」
「そんな勿体ないことしているから、売上が伸びないんですよ」
「嗜好品にまで商売を絡めるな」
私の膨れっ面に、ビョルンさんは呆れたような声を出して反論する。そうして出来上がったホットワインをコップに注いで完成だ。
コップからは甘い匂いのする白い湯気がたっていて、思わず唾液が出る。猫舌なので少し冷ましながら飲み下すと、口の中が葡萄と蜂蜜の優しい甘さで満たされた。
「うぅ、おいしい……」
もうひとくち飲むと、今度はハーブの爽やかな香りも感じた。体の芯から温まるような、そんな感覚がする。
「こんな夜更けにこんな甘い……しかも貴重な蜂蜜をあんなに使って。なんだかとっても悪い子になった気分です」
せっかく作ってもらったのに、天邪鬼なことしか言えない自分が憎い。
「なら、我々は共犯者だ」
ビョルンさんは私の態度に気を悪くするどころか、面白がるようにククッと笑った。その珍しい笑い方に、ほんのり頬が熱くなったのは気のせいではないだろう。
「いいですよ、ビョルンさんとなら。悪人でも、善人でもどっちでもいいです」
率直な意見を言うと、彼は困ったように耳を下げた。その耳の先がじわじわと赤みが帯びているのも、きっと気のせいじゃない。
「……そういうことは、軽々しく言うな」
「照れてます?」
「照れてない」
素直じゃないエルフは、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。私はまたホットワインを飲み下す。
じんわりと胸が暖かくなるのを感じながら、こう思った。
たまには悪人になるのも悪くない、と。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第96話『情けは人の為ならず』の更新は3月11日18時です




