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【第1章完結】異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
異世界の旅路編

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89_アニタの呟き

第89話です。

今回から漁業都市ポルタ・サレまでの道中のお話がはじまります。ですが、今回はアニタがエルフを想うお話です。

窓の外に伸びた大小の影を見送って、執務室の大きな椅子に腰を下ろした。大柄なエルフと小柄な娘は、寄り添いあって外の世界に飛び出していった。自分たちができることは、ただ遠くから見守ることだけだ。


「寂しくなるな」

 

副ギルドマスターであり、相棒でもあるロッドがハーブティーのポットとふたつのティーカップを机に置く。ハーブの優しい香りが鼻をくすぐって、ほうっとため息をついた。


「久しぶりに静かになるんだ。そうしんみりするものでもないだろ」


「何を言う。君がいるなら静かさは無縁さ、アニタ」  


ロッドの憎まれ口に笑うと、彼も目を伏せてふふふと笑った。豪快なドワーフ族の中では珍しく、ロッドは珍しく物静かな紳士だ。彼は丁寧に編んだ長い髭を少し撫でて、しみじみと言う。


「人間嫌いのビョルン君が、まさかここまであの()を気にいるとは。この歳になっても、分からんことはあるものだな」


ロッドの言葉使いは平凡だが、その声は弾んでいる。彼なりにビョルンの変化を喜んでいるようだ。


「そうでもないよ。あいつほどのお人好しなんて、あたしは知らないね」 


そう答えながら茶に口をつける。ふんわりと香る花とハーブの香りを楽しみながら、執務室の窓の外を見つめた。


「君がビョルン君を連れてきた時は驚いたがね。今となってはいい思い出さ」


ロッドは髭を撫で付けながら、昔を懐かしむように言う。


「ビョルンとは腐れ縁なんだよ」

 

そう、あれは何十年前の話だったか。まだ世間のいろはも知らぬ幼子だった頃、乗っていた馬車が脱輪したことがある。さらに運悪く魔物の群れに囲まれてしまい、命の危機に瀕した。初めての命の危機に瀕したことすら分からない小娘は、ただ魔物の牙に食われるのを待っていた。


『伏せていろ』 


低いバリトンが頭上から聞こえたかと思えば、突風が吹き荒れて魔物の群れが霧散していた。顔を上げれば、黄金の髪を持つ仏頂面のエルフと、優しい笑みを浮かべた冒険者が立っていた。


それが昔、冒険者と旅をしていた頃のビョルンと出会った最初の思い出だった。幼子から娘に成長してもなお、あの黄金の鬣のような髪を持つエルフを忘れることはなかった。 


「アニタ?」


「あぁ、いや。昔を思い出しただけさ」


急に黙ったこちらの様子を伺うように覗き込んできたロッドに、柔く微笑みを返す。


「あんなボロ布みたいになっちまってるなんて、誰も思うまいよ」


「たしかに、初めてここに来た時のビョルン君は気の毒だったな。何があったんだ?」


「さぁね。あたしはただ、森で死にかけてたあいつを拾っただけさ」


ロッドの問いかけに、曖昧に答えて茶を啜る。少し冷めたことで渋みが出てしまったようだ。ロッドは何も言わず、ただ和かに笑ってポットから茶を注いでくれる。  


「過去はどうあれ、今のビョルン君は元気にやってるんだ。我々としてはこれ以上嬉しいことはない」 


ロッドの言葉に頷きながらも、ビョルンとの二度目の出会いの日を思い出していた。


その日は酷い雨だった。当時の商業都市(ルーンデール)には悪趣味で違法な見世物小屋が来ることもあった。それは裏路地でひっそりと佇んでいたが、着任したばかりのギルドマスターとしては黙認することもできるはずもない。怒鳴り込んでやろうと勇み足で踏み込んで、そして言葉を失った。


かつての恩人が見世物として、小さな檻に入れられていたのだから。


それからのことは、頭に血が上ってしまってよく覚えていない。全財産を叩いて彼をギルドに連れて帰り、相棒のロッドに頭を下げたところでようやく正気を取り戻していた。    


「ビョルンを手懐けるとは、ルナは恐ろしい子なのかもしれないね」


「まったくだ。露店の時も、舞踏会の時も相当無茶をしたそうじゃないか。あれでは先が思いやられる」


ロッドは困ったように言いながらも、その口元には笑みが浮かんでいた。我々の商人としての勘が告げている。

ルナは特別な子であると。


「だが、君はたいそうあの子を気に入っていたじゃないか?アニタ」


「そういうお前こそ、舞踏会の時は玄関前にいただろうに」


ロッドと二人で顔を見合せて、笑い合う。商人ギルドの仲間達は皆等しく、友であると思っている。しかしルナについては、なんだか放っておけない我が子のように思えてしまうのだ。もちろん、その傍に控えるビョルンのことも。  


「あたしらがあの子達にしてやれることは、遠くから見守ってやることだけさ。ルーンデールを出れば、あの子達もただの商人だからね」 


執務室の止まり木に控えた伝達用の魔獣鳩に、巻いた羊皮紙を括り付ける。魔獣鳩は黒い目をきょろりと回して、颯爽と窓から飛び去った。その行先ははるか遠く、ポルタ・サレの商人ギルドだ。三日もあれば知らせは届くだろう。  


「行っておいで」


人間の娘とエルフの男。ふたつの影が消えた方角を見て、そっと祈るように呟いた。  

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第90話『必要経費という名の』の更新は3月5日18時です

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― 新着の感想 ―
伝書鳩もただの鳥じゃないんですね。現実ですら普通の鷹とかいますが、ファンタジー中近世だと余計に情報抜く裏仕事の人とかに落とされそうだし。
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